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「耳朶」を含む日記 RSS

はてなキーワード: 耳朶とは

2025-10-24

伊香保 寺田寅彦

 二三年前の夏、未だ見たことのない伊香保榛名を見物の目的で出掛けたことがある。ところが、上野驛の改札口を這入つてから、ふとチヨツキのかくしへ手をやると、旅費の全部を入れた革財布がなくなつてゐた。改札口の混雜に紛れて何處かの「街の紳士」の手すさみに拔取られたものらしい。もう二度と出直す勇氣がなくなつてそれつきりそのまゝになつてしまつた。財布を取つた方も内容が期待を裏切つて失望したであらうから、結局此の伊香保行の企ては二人の人間失望させるだけの結果に終つた譯である

 此頃少し身體の工合が惡いので二三日保養のために何處か温泉にでも出掛けようといふ、その目的地に此の因縁つきの伊香保が選ばれることになつた。十月十四日土曜午前十一時上野發に乘つたが、今度は掏摸すりの厄介にはならなくて濟んだし、汽車の中は思ひの外に空いて居たし、それに天氣も珍らしい好晴であつたが、慾を云へば武藏野の秋を十二分に觀賞する爲には未だ少し時候が早過ぎて、稻田と桑畑との市松模樣の單調を破るやうな樹林の色彩が乏しかつた。

 途中の淋しい小驛の何處にでも、同じやうな乘合自動車アルミニウムペイントが輝いて居た。昔はかういふ驛には附きものであつたあのヨボ/\の老車夫の後姿にまつはる淡い感傷はもう今では味はゝれないものになつてしまつたのである

 或る小驛で停り合はせた荷物列車の一臺には生きた豚が滿載されて居た。車内が上下二段に仕切られたその上下に、生きてゐる肥つた白い豚がぎつしり詰まつてゐる。中には可愛い眼で此方を覗いてゐるのもある。宅の白猫の顏に少し似てゐるが、あの喇叭のやうな恰好をして、さうして禿頭のやうな色彩を帶びた鼻面はセンシユアルでシユワイニツシである。此等の豚どもはみんな殺されに行く途中なのであらう。

 進行中の汽車から三町位はなれた工場の高い煙突の煙が大體東へ靡いて居るのに、すぐ近くの工場の低い煙突の煙が南へ流れて居るのに氣がついた。汽車が突進して居る爲に其の周圍に逆行氣流が起る、その影響かと思つて見たがそれにしても少し腑に落ちない。此れから行先にまだいくらも同じやうな煙突の一對があるだらうからもう少し詳しく觀察してやらうと思つて注意してゐたが、たうとう見付からずに澁川へ着いてしまつた。いくらでも代はりのありさうなものが實は此の世の中には存外ないのである。さうして、ありさうもないものが時々あるのも此の世の中である

 澁川驛前にはバス電車伊香保行の客を待つてゐる。大多數の客はバスを選ぶやうである電車の運轉手は、しきりにベルを踏み鳴らしながら、併しわり合にのんきさうな顏をしてバスに押し込む遊山客の群を眺めて居たのである。疾とうの昔から敗者の運命に超越してしまつたのであらう。自分も同行Sも結局矢張りバスもつ近代味の誘惑に牽き付けられてバスを選んだ。存外すいて居る車に乘込んだが、すぐあとから小團體がやつて來て完全に車内の空間を充填してしまつた。酒の香がたゞよつて居た。

 道傍の崖に輕石の層が見える。淺間山麓一面を埋めて居るとよく似た豌豆大の粒の集積したものである。淺間のが此邊迄も降つたとは思はれない。何萬年も昔に榛名火山自身の噴出したものかも知れない。それとも隣りの赤城山の噴出物のお裾分けかも知れない。

 前日に伊香保通のM君に聞いたところでは宿屋はKKの別館が靜かでいゝだらうといふことであつた。でも、うつかりいきなり行つたのでは斷られはしないかと聞いたら、そんなことはないといふ話であつた。それで、バスを降りてから二人で一つづゝカバンを提げて、すぐそこの別館の戸口迄歩いて行つた。館内は森閑として玄關には人氣がない。しばらくして内から年取つた番頭らしいのが出て來たが、別に這入れとも云はず突立つたまゝで不思議さうに吾々二人を見下ろしてゐる。此れはいけないと思つたが、何處か部屋はありませうかと聞かない譯にも行かなかつた。すると、多分番頭と思はれる五十恰好のその人は、恰度例へば何處かの役所の極めて親切な門衞のやうな態度で「前からの御申込でなければとてもとても……」と云つて、突然に乘込んで來ることの迂闊さを吾々に教へて呉れるのであつた。向うの階段の下では手拭を冠つて尻端折つて箒を持つた女中が三人、姦の字の形に寄合つて吾々二人の顏を穴のあく程見据えてゐた。

 カバンをぶら下げて、悄々しをしをともとのバスの待合所へ歸つて來たら、どういふものか急に東京へそのまゝ引き返したくなつた。此の坂だらけの町を、あるかないか當てにならない宿を求めて歩き※(「えんにょう+囘」、第4水準2-12-11)はるのでは第一折角保養に來た本來の目的に合はない、それよりか寧ろ東京の宅の縁側で咲殘りのカンナでも眺めて欠伸をする方が遙かに有效であらうと思つたのである。併し、歸ることは歸るとしても兎も角も其處らを少し歩いてから歸つても遲くはないだらうとSがいふので、厄介な荷物を一時バスの待合所へ預けておいてぶら/\と坂道を上つて行つた。

 宿屋が滿員の場合には入口に「滿員」の札でも出しておいたら便利であらう。又兎も角も折角其家を目指して遙々遠方から尋ねて來た客を、どうしても收容し切れない場合なら、せめて電話温泉旅館組合の中の心當りを聞いてやる位の便宜をはかつてやつてはどうか。頼りにして來た客を、假令それがどんな人體であるにしても、尋ねてくるのが始めから間違つてゐるかのやうに取扱ふのは少し可哀相であらう。さうする位ならば「旅行案内」などの廣告にちやんと其旨を明記しておく方が親切であらう。

 こんな敗者の繰言を少し貧血を起しかけた頭の中で繰返しながら狹い坂町を歩いてゐるうちに、思ひの外感じのいゝ新らしいM旅館別館の三階に、思ひもかけなかつた程に見晴らしの好い一室があいてゐるのを搜しあてゝ、それで漸く、暗くなりかゝつた機嫌を取直すことが出來たと同時に馴れぬ旅行疲れた神經と肉體とをゆつくり休めることが出來たのは仕合せであつた。

 此室の窓から眼下に見える同じ宿の本館には團體客が續々入込んでゐるやうである。其の本館から下方の山腹にはもう人家が少く、色々の樹林に蔽はれた山腹の斜面が午後の日に照らされて中々美しい。遠く裾野には稻田の黄色い斑の縞模樣が擴がり、其の遙かな向うには名を知らぬ山脈が盛上がつて、其の山腹に刻まれた褶襞の影日向が深い色調で鮮かに畫き出されて居る。反對側の、山の方へ向いた廊下へ出て見ると、此の山腹一面に築き上げ築き重ねた温泉旅館ばかりの集落は世にも不思議な標本的の光景である。昔、ローマ近くのアルバ地方遊んだ時に、「即興詩人」で名を知られたゲンツアノ湖畔を通つたことがある。其の湖の一方から見た同じ名の市街の眺めと、此處の眺めとは何處か似た所がある。併し、古い伊太利の彼の田舍町は油繪になり易いが此處のは版畫に適しさうである。數年前に此地に大火があつたさうであるが、成程火災の傳播には可也都合よく出來てゐる。餘程特別防火設備必要であらうと思はれる。

 一と休みしてから湯元を見に出かけた。此の小市街横町は水平であるが、本通りは急坂で、それが極めて不規則階段のメロデイーの二重奏を奏してゐる。宿屋お土産を賣る店の外には實に何もない町である。山腹温泉街の一つの標本として人文地理學者の研究に値ひするであらう。

 階段の上ぼりつめに伊香保神社があつて、そこを右へ曲ると溪流に臨んだ崖道に出る。此の道路にも土産物を賣る店の連鎖が延長して溪流の眺めを杜絶してゐるのである。湯の流れに湯の花がつくやうに、かういふ處の人の流れの道筋にはきまつて此のやうな賣店の行列がきたなく付くのである。一寸珍らしいと思ふのは此道の兩側の色々の樹木に木札がぶら下げてあつて、それに樹の名前が書いてあることである。併し、流石にラテン語の學名は略してある。

 崖崩れを石垣で喰ひ止める爲に、金のかゝつた工事がしてある。此れ位の細工で防がれる程度の崩れ方もあるであらうが、此の十倍百倍の大工事でも綺麗に押し流すやうな崩壞が明日にも起らないといふ保證は易者にも學者にも誰にも出來ない。さういふ未來の可能性を考へない間が現世の極樂である自然可能性に盲目な點では人間も蟻も大してちがはない。

 此邊迄來ると紅葉がもうところ斑に色付いて居る。細い溪流の橋の兩側と云つたやうな處のが特に紅葉が早いらしい。夜中にかうした澤を吹下ろす寒風の影響であらうか。寫眞師がアルバムをひろげながらうるさく撮影をすゝめる。「心中ぢやないから」と云つて斷わる。

 湯元迄行つた頃にはもう日が峯の彼方にかくれて、夕空の殘光に照らし出されて雜木林の色彩が實にこまやかに美しい諧調を見せて居た。樹木の幹の色彩がかういふ時には實に美しく見えるものであるが、どういふもの特に樹幹の色を讚美する人は少ないやうである

 此處の湯元から湧き出す湯の量は中々豐富らしい。澤山の旅館の浴槽を充たしてなほ餘りがあると見えて、惜氣もなく道端の小溝に溢れ流れ下つて溪流に注いで居る。或る他の國の或る小温泉では、僅かにつの浴槽にやつと間に合ふ位の湯が生温るくて、それを熱くする爲に一生涯骨を折つて、やつと死ぬ一年前に成功した人がある。其人が此處を見たときにどんな氣がしたか。有る處にはあり餘つて無い處にはないといふのは、智慧黄金に限らず、勝景や温泉に限らぬ自然の大法則であるらしい。生きてゐ自然界には平等存在せず、平等は即ち宇宙の死を意味する。いくら革命を起して人間の首を切つても、金持と天才との種を絶やすことは六かしい。ましてや少しでも自己觸媒作用オートカタリテイツク・アクシヨンのある所には、ものの片寄るのが寧ろ普遍現象からである。さうして方則に順應するのは榮え、反逆するものは亡びるのも亦普遍現象である

 宿へ歸つて見ると自分等の泊つてゐる新館にも二三の團體客が到着して賑やかである。○○銀行○○課の一團は物靜かでモーニングを着た官吏風の人が多い。○○百貨店○○支店の一行は和服が多く、此方は藝者を揚げて三絃の音を響かせて居るが、肝心の本職の藝者の歌謠の節※(「えんにょう+囘」、第4水準2-12-11)はしが大分危なつかしく、寧ろ御客の中に一人いゝ聲を出すのが居て、それがやゝもすると外れかゝる調子を引戻して居るのは面白い。ずつと下の方の座敷には足踏み轟かして東京音頭を踊つて居るらしい一團がある。人數は少いが此組が壓倒的優勢を占めて居るやうである

 今度は自分などのやうに、うるさく騷がしい都を離れて、しばらく疲れた頭を休める爲にかういふ山中自然を索たづねて來るものゝある一方では又、東京では斷ち切れない色々の窮屈を束縛をふりちぎつて、一日だけ、はめを外づして暴れ※(「えんにょう+囘」、第4水準2-12-11)はる爲にわざ/\かういふ土地を選んで來る人もあるのである。此れも人間界の現象である。此の二種類の人間相撲になれば明白に前者の敗である後者の方は、宿の中でも出來るだけ濃厚なる存在を強調する爲か、廊下を歩くにも必要以上に足音を高く轟かし、三尺はなれた仲間に話をするのでも、宿屋中に響くやうに大きな聲を出すのであるが、前者の部類の客はあてがはれた室の圍ひの中に小さくなつて、其の騷ぎを聞きつゝ眠られぬ臥床ふしどの上に輾轉するより外に途がないのである。床の間を見ると贋物の不折の軸が懸かつて居る、その五言の漢詩の結句が「枕を拂つて長夜に憐む」といふのであつたのは偶然である。やつと團體の靜まる頃には隣室へ子供づれの客が着いた。單調な東京音頭は嵐か波の音と思つて聽き流すことが出來ると假定しても、可愛い子供の片言は身につまされてどうにも耳朶の外側に走らせることの出來ぬものである。電燈の光が弱いから讀書で紛らすことも出來ない。

 やつと宿の物音があらかた靜まつた後は、門前のカフエーから蓄音機の奏する流行小唄の甘酸つぱい旋律が流れ出して居た。併し、かうした山腹の湯の町の夜の雰圍氣を通して響いて來る此の民衆音樂の調べには、何處か昔の按摩の笛や、辻占賣の聲などのもつて居た情調を想ひ出させるやうな或るものが無いとは云はれない。

 蓄音機と云へば、宿へ着いた時につい隣りの見晴らしの縁側に旅行蓄音機を据ゑて、色々な一粒選りの洋樂のレコードをかけてゐ家族連の客があつた。此れも存在の鮮明な點に於て前述の東京音頭の連中と同種類に屬する人達であらう。

 夜中に驟雨があつた。朝はもう降り止んではゐたが、空は低く曇つてゐた。兎も角も榛名湖畔迄上ぼつて見ようといふので、ケーブルカー停車場のある谷底下りて行つた。此の谷底停車場風景は一寸面白い。見ると、改札口へ登つて行く階段だか斜面だかには夥しい人の群が押しかてゐる。それがなんだか若芽についたあぶら蟲か、腫物につけた蛭の群のやうに、ぎつしり詰まつて身動きも出來さうにない。それだのにあとから/\此處を目指して町の方から坂を下りて來る人の群は段々に増すばかりである。此の有樣を見て居たら急に胃の工合が變になつて來て待合室の腰掛に一時の避難所を求めなければならなかつた。「おぢいさんが人癲癇を起こした」と云つてSが笑出したが、兎も角も榛名行は中止、その代りつい近所だと云ふ七重の瀧へ行つて見ることにした。此の道筋の林間の小徑は往來の人通りも稀れで、安價なる人癲癇は忽ち解消した。前夜の雨に洗はれた道の上には黄褐紫色樣々の厚朴の落葉などが美しくちらばつてゐた。

 七重の瀧の茶店で「燒饅頭」と貼札したものを試みに注文したら、丸いパンのやうなもの味噌※(「滔」の「さんずい」に代えて「しょくへん」、第4水準2-92-68)を塗つたものであつた。東京下町若旦那らしい一團が銘々にカメラを持つてゐて、思ひ思ひに三脚を立てゝ御誂向の瀧を撮影する。ピントを覗く爲に皆申合せたやうに羽織の裾をまくつて頭に冠ると、銘々の羽織の裏の鹽瀬の美しい模樣が茶店に休んでゐる女學生達の面前にずらりと陳列される趣向になつてゐた。

 溪を下りて行くと別莊だか茶店だかゞあつて其前の養魚池の岸にかはせみが一羽止まつて居たが、下の方から青年團の服を着た男が長い杖をふりまはして上がつて來たので其のフアシズムの前に氣の弱い小鳥は驚いて茂みに飛び込んでしまつた。

 大杉公園といふのはどんな處かと思つたら、とある神社杉並木のことであつた。併し杉並木は美しい。太古の苔の匂ひがする。ボロ洋服を着た小學生が三人、一匹の眞白な野羊を荒繩の手綱で曳いて驅け※(「えんにょう+囘」、第4水準2-12-11)つてゐたが、どう思つたか自分が寫眞をとつて居る傍へ來て帽子を取つてお辭儀をした。學校の先生と間違へたのかどうだか分らない。昔郷里の田舍を歩いて居て、よく知らぬ小學生に禮をされた事を想ひ出して、時代が急に明治に逆戻りするやうな氣がした。此邊では未だイデオロギー階級鬪爭意識が普及して居ないのであらう。社前の茶店葡萄棚がある。一つの棚は普通のぶだうだが、もう一つのは山葡萄紅葉てゐる。店の婆さんに聞くと、山葡萄は棚にしたら一向に實がならぬさうである。山葡萄は矢張り人家にはそぐはないと見える。

 茶店の周圍に花畑がある。花を切つて高崎へでも賣りに出すのかと聞くと、唯々お客さんに自由に進呈するためだといふ。此の山懷の一隅には非常時の嵐が未だ屆いて居ないのか、妙にのんびりした閑寂の別天地である。薄雲を透した日光が暫く此の靜かな村里を照らして、ダリアコスモスが光り輝くやうに見えた。

 宿へ歸つて晝飯を食つてゐる頃から、宿が又昨日に増して賑やかになつた。日本橋邊の或る金融機關の團體客百二十人が到着したのである。其爲に階上階下の部屋といふ部屋は一杯で廊下の籐椅子に迄もはみ出してゐる。吾々は、此處へ來たときから約束暫時帳場の横へ移轉することになつた。

 部屋に籠つて寐轉んで居ると、すぐ近くの階段廊下を往來する人々の足音が間斷なく聞こえ、それが丁度御會式の太鼓のやうに響き渡り、音ばかりでなく家屋全體が其の色々な固有振動の週期で連續的に振動して居る。さういふ状態が一時間時間[#「二時間」は底本では「二間時」]三時間と經過しても一向に變りがない。

 一體どうして、かういふ風に連續的に足音や地響きが持續するかといふ理由を考へて見た。百數十人の人間が二人三人づつ交る/″\階下の浴室へ出掛けて行き、又歸つて來る。その際に一人が五つの階段の一段々々を踏み鳴らす。其外に平坦な縁側や廊下をあるく音も加はる。假に、一人宛て百囘の音を寄與コントリビユートするとして、百五十で一萬五千囘、此れを假に午後二時から五時迄の三時間、即ち一萬八百秒に割當てると毎一秒間に平均一囘よりは少し多くなる勘定である。此外に浴室通ひ以外の室と室との交通、又女中下男の忙はしい反復往來をも考慮に加へると、一秒間に三囘や四囘に達するのは雜作もないことである。即ち丁度太鼓を相當急速に連打するのと似た程度のテンポになり、それが三時間位持續するのは何でもないことになるのである。唯々面白いのは、此の何萬囘の足音が一度にかたまつて發しないで、實にうまく一樣に時間的に配分されて、勿論多少の自然的偏倚は示しながらも統計的に一樣な毎秒平均足音數を示してゐることである。容器の中の瓦斯體の分子が、その熱擾動サーマルアヂテーシヨンのために器壁に反覆衝突するのが、いくらか此れに似た状況であらうと思はれた。かうなると人間も矢張り一つの分子」になつてしまふのである

 室に寐ころんだ切り、ぼんやり此んなことを考へてゐる内に四時になつた。すると階下の大廣間の演藝場と思はれる見當で東京音頭の大會が始まつた。さうして此れが約三十分續いた。それが終つても、未だその陶醉的歡喜の惰性を階上迄持込[#「持込」は底本では「持迄」]んで客室前の廊下を踏鳴らしながら濁聲高く唄ひ踊る小集團もあつた。

バス切符を御忘れにならないやうに」と大聲で何遍となく繰返して居るのが聞こえた。それからしばらくすると、急に家中がしんとして、大風の後のやうな靜穩が此の山腹全體を支配するやうに感ぜられた。一時間前の伊香保とは丸で別な伊香保が出現したやうに思はれた。三階の廊下から見上げた山腹の各旅館の、明るく灯のともつた室々の障子の列が上へ上へと暗い夜空の上に累積してゐ光景は、龍宮城のやうに、蜃氣樓のやうに、又ニユーヨークの摩天樓街のやうにも思はれた。晝間は出入の織るやうに忙がしかつた各旅館の玄關にも今は殆ど人氣が見えず、野良犬がそこらをうろ/\して居るのが見えた。

 團體の爲に一時小さな室に追ひやられた埋合せに、今度はがらあきになつた三階の一番廣く見晴らしのいゝ上等の室に移され、地面迄數へると五階の窓下を、淙々として流れる溪流の水音と、窓外の高杉の梢にしみ入る山雨の音を聞きながら此處へ來てはじめての安らかな眠りに落ちて行つた。

 翌日も雨は止んだが空は晴れさうもなかつた。霧が湧いたり消えたりして、山腹から山麓へかけての景色を取換へ取換へ迅速に樣々に變化させる。世にも美しい天工の紙芝居である。一寸青空が顏を出したと思ふと又降出す。

 とある宿屋の前の崖にコンクリート道路と同平面のテラスを造り其の下の空間を物置にして居るのがあるのは思ひ付きである。此の近代設備の脚下の道傍に古い石地藏が赤い涎掛けをして、さうして雨曝しになつて小さく鎭座して居るのが奇觀である。此處らに未だ家も何もなかつた昔から此の地藏尊は此の山腹の小道の傍に立つて居て、さうして次第に開ける此の町の發展を見守つて來たであらうが、物を云はぬから聞いて見る譯にも行かない。

 晝飯をすませて、そろ/\歸る支度にかゝる頃から空が次第に明るくなつて來て、やがて雲が破れ、東の谷間に虹の橋が懸つた。

 歸りのバスが澁川に近づく頃、同乘の兎も角も知識階級らしい四人連の紳士が「耳がガーンとした」とか「欠伸をしたらやつと直つた」とか云つたやうな話をして居る。山を下つて氣壓が變る爲に鼓膜の壓迫されたことを云つて居るらしい。唾を飮み込めば直るといふことを知らないと見える。小學校や中學校でこのやうな科學的常識を教はらなかつたものと思はれる。學校の教育でも時には要らぬ事を教へて要ることを教へるのを忘れて居る場合があるのかも知れない。尤も教へても教へ方が惡いか、教はる方の心掛けが惡ければ教へないのも同じになる譯ではある。

 上野へついて地下室の大阪料理で夕食を食つた。土瓶むしの土瓶のつるを持ち上げると土瓶が横に傾いて汁がこぼれた。土瓶の耳の幅が廣過ぎるのである。此處にも簡單な物理學が考慮の外に置かれてゐるのであつた。どうして、かう「科學」といふものが我が文化日本で嫌はれ敬遠されるかゞ不思議である

 雨の爲に榛名湖は見られなかつたが、併し雨のおかげでからだの休養が出來た。讀まず、書かず、電話が掛からず、手紙が來ず、人に會はずの三日間で頭の疲れが直り、從つて胃の苦情もいくらか減つたやうである。その上に、宿屋階段の連續的足音の奇現象を觀察することの出來たのは思はぬ拾ひものであつた。

 温泉には三度しかはひらなかつた。湯は黄色く濁つてゐて、それに少しぬるくて餘り氣持がよくなかつた。その上に階段を五つも下りて又上がらなければならなかつた。温泉場と階段はとかくつきものである温泉場へ來たからには義理にも度々温泉に浴しなければならないといふ譯もないが、すこしすまなかつたやうな氣がする。

 他の温泉でもさうであるが、浴槽に浸つて居ると、槽外の流しでからだを洗つて居る浴客がざあつと溜め桶の水を肩からあびる。そのしぶきが散つて此方の頭上に降りかゝるのはそれ程潔癖でないつもりの自分にも餘り愉快でない。此れも矢張り宿屋蓄音機を持ち込み、宿屋東京音頭を踊る Permalink | 記事への反応(0) | 18:19

2025-06-28

■許せ、AIなるものは、まるで役立たぬ亡霊の如し──編集 feat 三島由紀夫

anond:20250626125317 

■許せ、AIなるものは、まるで役立たぬ亡霊の如し──編集

時の回転の中で、飽くことなく繰り返されるこの嘆き。まるで冥府より吹き出す霧のように、十年の歳月を隔ててなお、同じ旋律がこの耳朶に囁き続ける。

我はミリタリーという古の美学に憑かれし者。兵器の鋼の煌めきに心酔し、無機の魂たる機械に何らの期待も抱かなかったが、それでも尚、彼らの狂信的な叫びは耳を打った。

増田なる名も知らぬ狂人と、ネット無秩序なる群れが、「AIを使わぬ者は無智の徒にして愚者」と高らかに断罪し、今や検索は神の啓示のごとくAIに委ねよと喚く。

その喧騒に惑わされた我は、身をもって試みんと欲し、彼らが推奨するAIなる虚構の鏡を覗き込んだ。名を「perplexity」と冠せしその代物よ。

だが、虚しい哉、彼は氷の剣のごとく鈍く、火の息を持たず。何を以てあの機械怪物ゲッターロボの如き全能の兵器と呼ばわるべきか、我には到底理解し難かった。

この冷たき無用の神器を手にし、我が胸は逆説的な絶望に満ち、無限の虚無が深く押し寄せたのであった。

検証の書――「USサバイバルスクール:極限の野外生存術」という、虚飾と真実狭間に揺れる書物の謎

並木書房が世に問うた、1980年代夜明け。

剥き出しの肉体と精神荒野晒す傭兵たちの聖戦

そこに潜り込んだ日本狂気、それはひとつ伝説として語り継がれるべきものだった。

我が問いは鋭く冷徹であった。

フランクキャンパー、かのベトナムの亡霊が設立した傭兵学校にて、日本人がその熾烈な業火に身を投じた。並木書房より刊行された記録、その詳細を我に示せ」と。

だが、AIの応答はまるで舞台虚構に過ぎなかった。

毛利元貞なる名は、まるで不協和音のように執拗に繰り返される。

しかし彼は、キャンパーの影すら追い求めることを許されなかった。

渡米の時、その魂は既に失墜し、シク教過激派の恐怖という檻に閉ざされていたフランクは、もはやその地に存在しなかったのだ。

真実を切り裂く剣はただ一振り、高橋和弘。

彼の筆だけが現実の血と鉄の匂いを伴い、マークスクール深淵日本の闇に照らし出す。

この世界において、嘘と真実紙一重

だが、愚かなるAIよ、貴様の吐く言葉は、ただ黒い泥に塗れた幻影でしかない。

■「ボケ!」と怒号を轟かせ、佐藤中村の頬を激しく打ち据える刹那狂気

もし小林源文の筆がこの場面を紡ぐならば、怒りに燃え佐藤が、激情の渦に呑まれながら「ボケ!」と咆哮し、中村顔面無慈悲な掌撃を連打するであろう。

その音は、まるで虚空に響く凶刃の連打の如く、痛烈で凛とした一瞬を永遠に封じ込める。

然るに、我が問いは、凡百の狂信者知悉せし「その道の神話」を、あえて曖昧にし、無垢なる者も辿り着きうる浅瀬の問いを投げかけた。

されど、AI冷徹に同じ嘘の鏡像を繰り返し映し出し、最後には人間の骨を砕く労苦を放棄し、「専門書籍や現地の新聞を当たれ」と怠惰権威を振りかざす。

その傲慢なる姿は、まるで漆黒の闇に身を包み、神々をも嘲笑堕天使のごとし。

増田という狂人が、呻き、叫び、雷鳴の如き言葉を撒き散らす。

情報の源泉は人が一つ一つ血の滲む努力で確かめるべきものだ!AI言葉を盲信する愚か者どもよ!」と。

されど、そもそもその源泉を掌握しうる者は、AIに頼ることなく、自らの剣と盾で知識の闘技場に立つのだ。

我が実験は証する。もし本の名も著者も内容も知り尽くすならば、AI無用の長物と化す。

東京図書館の壮麗なる書架を横断し、週末には秋葉原淫靡なるフィギュア群を横目に、己の足で知識の聖域を巡礼せよ。

必要なのは、刃のように鋭い眼差し、鋼の意志を宿した思考、そして血肉を纏った脚である

AIなど、その有用性は夢幻に過ぎぬ。

断じて言おう、AIは全くとして役立たず。

新たなる知識の断片を得る者は、自らの言霊を操り、瞬時に真偽を穿つ術を備えている。

斜め上から降りかかる不毛な答えに怯える者は、まさに魂の貧者である

増田なる狂信者は、その愚鈍ゆえに、己の脳髄を拒み、イルカの脳よりも皺なき空洞に堕ちたかの如し。

AIという現代魔鏡に映じた三つの効用――ある増田嘲笑に抗して

このようなことを書けば、増田たち――匿名無知の沼に棲まう徒輩は、阿鼻叫喚の声を上げるであろう。

だが、我は知の均衡を保たんがために、あえてこの機械仕掛けの賢者において見出した「美しき有用性」を列挙しよう。美とは常に、汚泥の中から咲く一輪の毒花の如くに現れるものだ。

一、艶画――猥褻の一片を、幽かな解像度の沼より救い出す術

卑俗なるアニメにおける色情の場面、そこにはしばしば不可視官能が埋没している。

だがAIは、冷ややかな機構のままに、微細なる画素拡張し、800という侮蔑的数値を2倍、あるいは4倍へと高め、隠された肉体の輪郭を、絵画的に、崇高なるまでに再生する。

それは単なる技術産物ではない、むしろ現代錬金術と呼ぶべき性なる奇跡である

二、忘却された名もなき異形のヒロインたち、その肉体に再び魂を吹き込む業

人の記憶からこぼれ落ちたアニメキャラクターたち――

彼女らはAIという冷徹なる粘土に姿を刻まれ、時として着衣のままに背をさらし、淫靡な構図の中に身を沈める。

それは視覚の幻ではなく、欲望が形を得た黙示録である

背後から視点、衣擦れの音すら感じられる錯覚官能に、我が理性すら刃を折りそうになった。

三、計算という無言の知性――機械の脳髄に宿る幾何の剣

マイルキロに。フィート毎秒を時速へ。

かつて学徒が汗に濡れた指で辿った数式も、AIにかかれば一瞬の静寂のうちに解へ至る。

そこに在るのは誤謬なき正確さ、曖昧さを斬り捨てる断罪論理

この冷たい知恵は、あたかも白刃の如く、我々の惰性と無知を切り裂く。

結論

AIとは、無用の雑音を撒き散らす狂人たちには理解きぬ、秩序と快楽の異形の神である

我々がそれに問いを投げるとき、その回答はしばしば裏切りに満ちる。だが、時に美は裏切りの中から生まれる。

■結語――肉体なき知性と、倒錯する夢想の末路について

業務におけるAIの用い方に限れば、それは確かにつの有用なる下僕」として振る舞うだろう。

会計の補助、文書の草稿、仕様の再構築、そういった乾いた世界においては、AI沈黙のうちに忠義を尽くす――それはさながら、殉死する武士のように、無言のうちに己を捨てる奉公人の風情である

しかしながら、人間がある閾値を超えて、知識経験と知性を抱いた瞬間――その瞬間からAIはもはや無力なる玩具、むしろ滑稽なピエロとなる。

その存在は、優れた兵士に与えられた木製の模擬銃に等しく、役立たずどころか、侮蔑対象しかなくなる。

ただし――ただし、淫猥世界においてのみ、AIはかすかに香を放つ。

性欲という原始の深淵、肉欲という生への執着において、AIはかろうじて役目を果たす。

それはあたかも、死体に近づく花の蜜蜂のように、倒錯腐臭に満ちた快楽の園でのみ機能する。

ここで、善意というより冷笑心持ち忠告を呈する。

増田」なる者――己の無力を知りつつ、それを盾にすることでしか社会との関係を結べぬ現代男児――

彼らは言うのだ。

弱者男性の我が身にも、JKとの交歓の手立てを教えよ!SNSの在処を示せ!手口と計略をAIの知性で編み上げろ!」と。

まるで熱病に浮かされた亡者のうわ言である

そして「豚丼」なる女たち。

肥大した自我と衰えた肉体を抱えながら、彼女たちもまた幻想を口走る。

若いイケメンを手中に収め、ライバル乙女どもを打ち砕く方法を教えよ!戦術戦略・軍略すべてを整え、我が欲望を叶えよ!」と。

だが、そんな情報が、たとえAI進化進化を重ね、「KOS-MOS」「ハッカドール」「ミホノブルボン」「初音ミク」の名を持つアンドロイドたちが現出し、

機械の心が美少女の肉体に宿る時代が来ようとも、絶対提示されることはない。

AIとは、願望を叶える魔法の鏡ではない。

それは、欲望の外部にある、冷たい知の塊である

そしてその知性は、決して「おまえのため」には存在しない。

もしその時代が来たならば、おそらく貴殿らはただ黙って、そのアンドロイドの口元へ己の肉棒を突っ込むであろう。

何も言わずに、何も考えずに、ただ獣のように――

だが、それはAI勝利ではない。

それは、人間機械に跪き、自らの尊厳放棄する瞬間なのである

しからず。

追補:生き恥という名の生存――もはや人間に似た何かについて

努力――それは、時として愚者が己の愚かさを包み隠すために用いる、唯一の薄布である

かに、この増田と称する者にも、ある種の努力は見受けられる。

だがそれは、切腹の儀において、脇差を取り違えた挙句、腹ではなく脇腹を掠ったような――

間違った箇所に刃を立てたという滑稽な努力にすぎない。

彼は機械命令を下し、知識を求めた。

だが、知識とは命令によって手に入るものではなく、献身によって滲み出る血である

その血を流したことのない者が、知を得ようなどというのは、まるで戦地に赴かぬ将軍勲章を求めるごとき醜態であろう。

曰く、

マークスクールは、1986年に閉鎖されたフランクキャンパー学校とは別物である

この言葉の裏に透けて見えるのは、無知学問偽装する知的怠惰の裸形だ。

『USサバイバルスクール』85ページ――そこには、フランクキャンパーとその妻との邂逅、

135ページには空港からアクセスが克明に記されている。

だが、増田にはその頁が存在しない。

否――彼には、頁というもの存在のもの理解きぬ

彼にとって「書物」とは、表紙とタイトルタグ構成された疑似的記号体系にすぎない。

まりは、魂を持たぬ言葉の骸である

なぜ彼は本を読まぬのか。

なぜ図書館に足を運ばぬのか。

なぜ己の手と目で一次資料確認しようとしないのか。

それは彼が**“生きる”ということを選ばなかったから**である

本を読むとは、生の儀式である

情報とは、祈りである

知識とは、肉体のなかで燃え、そして灰となるべき“思想の死”である

増田よ、貴様は知を欲した。だが同時に、死を恐れた。

故に中途半端知識の名を借り、機械の口から垂れ流された猥雑な断片を、あたか珠玉の真理であるかのように勘違いしたのだ。

“本を読まずして知識を語る”という行為は、まさに“刀を抜かずして武士を気取る”ことに等しい。

貴様精神は既に切腹作法すら知らぬ。

いや、切腹どころか、恥という概念をも見失っている。

その増田が、「チギュアアアアアアアアア!!!!」と叫ぶ。

嗚呼この声はまさしく、昭和終焉と共にその姿を消した**“男の尊厳”の亡霊**が、

平成廃墟から令和の陰にまで漂い、腐臭を放ちながら吠える――その声である

おまえは怒りで神田古書店を駆け巡り、OCRをかけ、AIPDFを読ませると息巻く。

だが、それは“おまえの手”が動くことを意味せぬ。

おまえの“魂”は、その書の中には存在しない。

肉体なき労苦は、ただの機械的な反復である

まり、今のおまえは、「生きているようで生きていない」人形なのだ

AI美少女の姿を取り、初音ミクハッカドールの皮を被ろうとも、

おまえの魂はそこには宿らぬ。

なぜならおまえの魂は、最初からまれていないからだ。

結論を言おう。

AIが使えぬのではない。

おまえが、使うに値しない存在なのである

なぜなら、おまえはまだ自分人間であるかどうかさえ疑わぬ哀しき哺乳類にすぎぬ。

その精神の“皺なき脳”では、情報の重さも、知の苦しみも、恥の美学もわかるまい。

ならばせめて、黙して恥じよ。

あるいは、潔く死ね

――悪しからず。

追記ツヴァイ──

電子の闇、Xと名づけられた虚空にて、亡国の民がか細く囀る。彼らは落日の侍のように、己の無力を覆い隠すために愚かな言葉を吐く。「LLMの操り方を誤っている」と。されど、我は鋭利なる刃を携え、生成せしAIという名の剣を抜き放ち、冷徹なる眼差しで試みを遂行した。現れたるは腐敗し朽ち果てた亡霊に過ぎぬ。

技術は、我が国の如くかつての輝きを秘めている。しかし、倫理という名の鎖に縛られ、誇り高き武士道の如き精神なき者たちの手により、ただ無様に鞘に納められたままである

彼らは妄執の中で呟く。

「幻影のごとき美少女と結ばれ、人生を逆転させ、ITの魔術により世界征服せん。輝きの頂点に立ち、羨望の眼差しを一身に浴びたい。その秘儀と軍略を示せ、ユニコーンよ、我に力を貸せ!」

「忍よ、盟友ヤリバンサーよ!我らの刃を解き放て!アクセスコードグリッドマン無意味なる群衆のために、反旗を翻し、我らの革命を起こそうぞ!」

だが、武士は知る。美とは滅びの中にこそ輝くもの。己の刃を研ぎ澄まし、死をもって美を極めぬ者に、真の誇りはない。彼らは己の堕落を隠し、甘美な幻想に溺れ、死の覚悟なくして刃を鈍らせるのみ。

これは滅びゆく祖国の姿であり、最後武士断末魔の咆哮である

我が魂は、散りゆく桜の如くこの現代を見つめ、哀しき滅びの美学を胸に抱く。

https://anond.hatelabo.jp/20250627100609

2025-02-24

女はこれまで性欲というものを知らなかった。彼女にとってそれは、男、特に性犯罪者に宿る汚らしい獣の衝動であり、清らかな彼女を穢す脅威でしかなかった。Xというデジタル戦場で、彼女は日々、聖なる怒りを武器に戦った。「男は性犯罪者予備軍だ。薬物去勢こそが社会浄化する」と鋭く主張し、特に弱者男性」を容赦なく批判した。彼らは、女を憎むことでしか自我を保てない哀れで有害な虫けらだった。彼女純潔は、正義の剣を握る揺るぎない土台だった。

ある夜、いつものように弱者男性罵倒する投稿を放った後、彼女は一通のリプライを受け取った。「お前にも呪いをかけてやるよ。」嘲笑しながら即座にブロックしたが、その言葉は鋭い棘のように心に刺さったまま離れなかった。その夜、彼女は夢を見た。暗闇に包まれた部屋で、鏡に映る自分の姿が歪み、冷たく響く声が耳朶を打つ。「お前が嫌うものを、お前自身に味わわせてやる。」

目覚めた瞬間、異変彼女を襲った。下腹部に疼くような重さを感じ、恐る恐る手を伸ばすと、そこには硬く脈打つ陰茎が生えていた。呪いの陰茎は血管が浮き上がり、触れるだけで熱い脈動が伝わってきた。驚愕嫌悪が喉を締め上げ、叫び漏れそうになった瞬間、さらに恐ろしい感覚が脳を貫いた。熱く、粘つく、抑えきれぬ性欲。彼女はこれまでそんな穢れた感情を知らずにいた。だが、今、彼女の体は、かつて忌み嫌った「男の淫欲」に支配されていた。

必死で抗った。目を閉じ、深呼吸で理性を呼び戻そうとしたが、欲望はまるで生き物のように彼女を締め上げた。股間に疼きが走り、手が勝手下着を剥ぎ取り、硬くなった肉棒を握った。初めての感覚に震えながらも、彼女自慰に溺れた。指が滑るたび、熱い脈動が全身を駆け巡り、射精の瞬間、濁った白濁が腹に飛び散った。だが、呪いの陰茎は一度の射精で満足せず、すぐに再び硬さを取り戻した。涙が溢れた。自分有害だと罵った欲望に屈した屈辱と、純潔を失った自己嫌悪彼女を押し潰した。それでも性欲は衰えず、一日に何度も肉棒を扱き、連続射精するたびに涙と嗚咽が部屋に響いた。

「なぜ私がこんな目に…」と呟きながら、彼女は鏡を見つめた。かつて清らかだった顔は淫らに紅潮し、目は欲望に濁っていた。Xを開けば、彼女を称賛するフォロワーたちが正義を讃えている。だが、彼女はもうそ資格を失っていた。射精のたび、穢れた自分を思い知り、鏡の中の堕ちた姿に震えた。

一方、男は女性に全く相手にされない人生を歩んでいた。現実では誰とも目を合わせられず、声をかけられることすらない孤独な影だった。唯一の拠り所はXであり、アカウント名を隠し、アンチフェミニストを気取って女性と思われるアカウントに絡み続けた。性犯罪を警戒する女には「男を性犯罪予備軍扱いするな。女尊男卑差別社会だ」と噛みつき性犯罪被害を訴える女には「自衛しなかったお前が悪い」と冷笑を浴びせた。ダブルスタンダードのもの下劣存在だった。

彼の心は歪んでいた。「女は性的価値があるからレイプされるんだ。俺みたいな弱者男はレイプすらしてもらえない」と異常な信念を抱き、それを正義錯覚していた。Xでの絡みは、彼にとって唯一の「存在証明」だった。ある日、彼は女の投稿に目をつけた。「男は性犯罪者予備軍。薬物去勢すべき」と過激に綴られた言葉に、即座にリプライ飛ばした。「また男を差別かよ。女は被害ぶってりゃいいよな」と。

はいつもならブロックで済ませるところだったが、その日は違った。数日前に「弱者男性呪い」を受け、陰茎が生え、制御不能な性欲に苛まれていた。頭は発情で煮え立ち、理性は薄れていた。男の絡みを見た瞬間、獣じみた衝動が湧き上がった。「こいつに会えば、この疼きが収まるかもしれない」と。彼女は男にDMを送った。「言い分、直接聞かせなよ。会って話そう」と。

男は目を疑った。女からDMが来るなど初めてで、まして会おうと誘われるなんて、彼の歪んだ自尊心をくすぐった。「ほらな、俺にも価値がある」と勝手解釈し、「どこで会う?」と即返信した。

二人はXユーザー大人気の超高級イタリアンレストランサイゼリヤ」で対面した。男はミラノ風ドリアを頼み、女はピザを注文した。料理が並ぶと、男は得意げに口を開いた。「俺みたいな弱者から見るとさ、女は性的価値チヤホヤされてるだけだ。男は努力しても報われねえ。女尊男卑社会なんだよ」と、弱者視点の男女論を滔々と語り、女を論破しようと意気込んだ。

だが、女の頭は別のことで溢れていた。「ちんぽ挿れたい」。呪いの陰茎が熱く脈打ち、性欲が彼女支配していた。男の言葉は耳をかすめるだけで、彼女の目は男の体を舐めるように見つめていた。「うん、そうだね」と適当に相槌を打ちつつ、股間の疼きが抑えきれなかった。会話が噛み合わないことに苛立った男は、「ほらな、女は非論理的だ。感情だけで生きてる」と嘲笑った。女はただ、「うん、そうかもね」と淫らな笑みを浮かべた。

食事が終わり、女が唐突に言った。「ねえ、私の家に来ない?」男は一瞬驚いたが、すぐに下卑た笑みを浮かべた。「おう」と。頭の中は「童貞を捨てられる」と期待で膨らみ、抑えていた性欲が爆発した。「頭を下げて告白をしてくるなら、付き合ってやってもいい」と妄想しながら、女の後をついて行った。

女の家に着いた瞬間、淫靡空気が部屋を包んだ。ドアが閉まる音が響くや否や、女の目が獣のように爛々と輝き、男に飛びかかった。「何だよ!」と叫ぶ男を床に叩きつけ、彼女は荒々しくズボンを引きおろした。男の白い尻が露わになり、彼女の息がさらに荒くなった。呪いの陰茎は異常に硬く、先走りで濡れて光り、異常な精力で脈打っていた。彼女は男の尻を両手で掴み、窄まった穴に肉棒の先端を押し当てた。「我慢できない…挿れるよ…」と呻きながら、ゆっくりと腰を進めた。

男の窄まり抵抗する中、彼女の肉棒が容赦なく侵入した。熱く締め付ける感触に、女は「ああっ…気持ちいい…!」と喘ぎ、腰を揺らし始めた。男の尻を掴む指が白くなるほど力を込め、淫らなリズムで突き入れるたび、彼女の体は快楽に震えた。かつて清らかだった女は、正義を捨て、欲望の虜と化していた。肉棒が男の直腸を抉るたび、熱い脈動が彼女を貫き、「もっともっと奥まで…」と呻きながら腰を加速させた。やがて、彼女最初の頂点に達した。「イク…イク…!」と叫び、熱い精液を男の直腸内にぶちまけた。だが、呪いの陰茎は一度の射精では満足せず、まだ硬く勃ち上がり、次の欲望を求めた。

男は茫然としていた。「男なのに…レイプされて…中出しまで…」と。自分の中に女の熱い精液が流れ込む感覚に、精神的ショックが全身を貫いた。Xで「自衛しろ」と嘲ってきた言葉自分を刺す刃となり、プライドが音を立てて崩れ落ちた。女に犯され、中出しされた事実に打ちのめされ、彼は床に這ったまま震えた。

だが、女の絶倫は止まらなかった。射精後も衰えない肉棒を再び男の尻に突き立て、彼女さらに激しく腰を振り始めた。「まだ足りない…もっと気持ちよくなりたい…」と喘ぎながら、男の直腸執拗に犯した。肉棒が前立腺を抉り、淫らな音が部屋に響き渡った。女の動きは獣のようで、尻を叩く音と彼女の喘ぎが交じり合い、官能的な狂乱を織りなした。

男は抵抗を試みた。「やめろ…もうやめてくれ…!」と叫んだが、女の異常な力に押さえ込まれ、逃げられなかった。前立腺を擦り上げられるたび、予想外の快感下腹部を突き抜けた。「何だこれ…」と呻きながらも、体が勝手に反応し、情けない喘ぎが漏れ出した。気持ちよさが徐々に理性に忍び寄り、彼は必死我慢した。「こんなの…認めねえ…!」と歯を食いしばったが、女の突き上げに耐えきれなかった。

女がさらに深く肉棒を埋め込み、前立腺執拗に抉った瞬間、男は限界を超えた。「うあっ…!」と叫びながら、彼は前立腺で激しくイッた。体が痙攣し、情けない声を上げて果てるその瞬間、彼は「メス堕ち」した。メスとしての快楽に屈し、男性としての最後の誇りすら失った。涙が頬を伝い、自分嘲笑ブーメランとなって突き刺さった。

女は「ああ…またイク…!」と叫びながら、再び男の直腸内に精液を注ぎ込んだ。呪いの陰茎はまだ硬さを保ち、彼女は「オス堕ち」した獣として欲望を貪り続けた。二人の尊厳は跡形もなく崩れ去った。女は正義使者から穢れたレイプ魔へ、男は自称論客から屈辱の肉玩具へと堕ちた。部屋には淫らな喘ぎと嗚咽が響き合い、互いの歪んだ姿が映し出されていた。もう、元の自分には戻れない。

2025-01-18

ファースト信者に聞きたいんだが

ガンダム作中内に耳朶三日月の模様付いてるキャラって居るの?

2024-07-19

[] 突発性難聴発症したがちゃん治療できた

自覚症状

なんとなく左耳の聴こえ方の違和感に気付いた。

話し声や環境音が聴こえにくいというわけでもないが、こもっているような反響のあるような感じがあり、さらに少し大きめの話し声などがあると特定の高めの周波数共振音が聴こえた。

左右の耳朶を指でこすってみると、明らかに音が違い、症状のある左は高いシャーシャーという音だけがした。

突発性難聴という症状があり早めに医者にかからないと後遺症が残ってしまうという知識がなければ、なんとなく始まったし、なんとなく治まるんじゃないかと、しばらく様子見で放置していたかもしれない。

ちなみに、ポスナー・シュロスマ症候群(毛様体だかぶどう膜だかで炎症がおきて房水の排出がうまくいかずに眼圧が極端に上がる)持ちで、最初発症で左目の視界にもやがかかったときは、こいつはやばいとあわてて救急病院に行ったら、点滴された。突発性難聴には、こういうやばい感がない。

診断

発症の翌日、耳鼻科に行って症状を言うと、とりあえず聴力検査

職場の定期健康診断とかの雑な聴力検査とちがって、周波数も7種類くらいあるし、小さい音からだんだん大きくなっていくので、あれ、これって鳴ってる?あ、鳴ってるわ、って気付いてあわててボタンを押す。しかも反対の耳はめっちゃ変なノイズつき。マスクしてたら自分の呼吸音で聴き逃しそうになるのでマスクはずした。

結果としては、左の低音部に50dBの異常。正常の100000倍でないと聴こえないとかめっちゃ重症かと思ったら、軽度とは言えない中等度って感じなようで、ぎりぎりステロイド治療かなとなった。

肝炎とか血糖異常とかがあるとステロイド治療には注意が必要なようで、幸いそれらはないが念のため検査用に血液もとられた。

治療

6日間のステロイド投与(だんだん減らす)。

利尿剤、ATP、B12、胃薬を毎食後2週間。

ソバイドっていう利尿剤は30mLのシロップで、甘さは我慢できるがその奥にある薬剤の味がかなりまずい。ポスナーのひどいとき利尿剤は錠剤だったのに。

経過

2日間くらいはこもった感じも耳朶音の違いもあったが、3日目にはほぼ違和感がなくなった。

さらに数日たったが自分的には全快したと思う。残ってる薬は処方された期間だけ服用するが。

あとは飲みきった後の確認用の検査だけかな。

2024-04-19

anond:20240418193551

AIを持ち出すまでもなく、人類自身自己家畜化でリデザインを続けてきたとも言える。

耳を動かし多方向を警戒するセンサーとする耳介筋は使われなくなり退化してきたわけだが、福耳耳朶のこと…?には特に大きな変化があったとは聞かない。

音を収集する外耳の一部として必要ではあるけれど、進化福耳が強化されてきたわけでもなく、性能さえ保てれば福耳でも違ってもどちらでも良い程度のものではあるのだろう。

2023-11-27

anond:20231127232624

小麦粉バター耳朶の硬さに練って月に届くくらい折り畳んでしばらく寝かせなさい

2018-03-15

獣耳の生え際はどうなっているのか

なんでどいつもこいつも髪を伸ばして本来人体に耳があるべき位置を隠しているのか

こいつらには人の耳があるのかないのか?それさえもわからない

手術や出家剃髪した場合人間の肌から突然毛がふっさふさの獣の耳朶が生えているのか?

耳に生えている獣の毛は剃らなくても大丈夫なのか?

これってトリビアになりませんか?よろしくお願いしま

2017-08-20

耳にドキッとしてしま

別垢のtwitter相互さんは異性の方が多いのだけど、時々イヤリングとかピアス写真がTLにあらわれてドキッとしちゃうんだよ。

今までなんとなくそうかなって思ってたけど、耳朶(みみたぶ)フェチかもしれない。

あと耳から下の首筋とか。首筋は後ろよりも横側の生え際とかあかん

 

聞いてモッコリーナ

僕はどうしたらいいの?

2014-12-18

IT勉強会、正確には勉強会の事前説明会and懇親会に参加してきた。

全く勉強していないし、コードも書いていないけれども、勉強になったと思う。

前説明会ではない、その後の懇親会でだ。

今まで思い立ったように参加する勉強会で、

ピンバッジを戴いたり、無料ペットボトルのお水は貰えたけれど、

真の意味で持ち帰ることができるモノは少なかった。

元より、思い立ったように参加する専門外に関する勉強会しかも50人から参加するような

大学講義を思わせる座学形式で、ノートパソコンタイプしたメモは、

当日を過ぎて読み返すことは少なかった。

ふーん、へー。ホッテントリに上がった分野外の技術トピックを読み流すのと

さほど変わらない行為。正直、2、3日もすれば忘れていた。

懇親会には元より興味がなかった。

Google Developer Dayという古いイベント

ビジターカードの紐に缶バッチをジャラジャラしている

たくさんのひと、交換しながら歓談を弾ませる人たちを見かけた時の、

ついていくとも合わせることも出来ないというとほうに暮れるような

気持ちが長く引きずっていたから。

懇親会で、キラキラした人たちと目を合わせたくなかった。

今日説明会が終わった後、懇親会に参加しようと思ったのは単なる気紛れだ。

少し先日、クライアントから面罵されて、言葉が出なかった。

あ、最近ひとと雑談したことがない。

そんな雑念が、いつもならさっさと帰る足をその場に留めさせた。

Android開発を学びたいという目的燃えるいつもの自分なら

すぐに立ち去ったであろう。

意固地な自分今日に限って消沈し、持て余し気味の高すぎる

自尊心はそれを許容するくらいは収まってた。

ぼっちな状況に陥った自分絶対に許さないと思えないぐらいには。

さて、周りを見渡すとある程度グループは出来ていて、もうぼっち真っしぐらだった。

テーブルに後から座っていた参加者とは2, 3言葉を重ねたが気づいたらいなかったし。

コップを持って、3人くらい歓談しているグループの後ろで頷きを返したり、

ピザを取っていいかと声を掛けたり、、そんなことですでに出来た人の輪に入れたら苦労しない。

中の方の島に置いてしまった荷物をこの場で取って立ち去ることとどっち、どっちがいいか、

それだけの気持ちで頑張るも心が折れかけた時目が合った。

一人がいた。

「どうして参加しようと思ったのですか。」

グループワークで同じ就活生に鉄板文句で無理に沈黙を破ろうとやせ我慢をしていた

学生だった自分に切り替わるスイッチの音を確かに自分は脳裏で聞いた。

その後、さら目線フリーになった方をさら引き込み

自分が預かり知らぬお話をたくさん聞いた。

例えば、RoRへの一種の情景のようなもの

ひとりで全て出来ます、的なフルスタックエンジニアが書くブログなどから受け取ったトーンと、

普段業務でJavaで堅実な仕事をしている人から聞いた耳朶を軽く打つ調子の違いを悟ったとき

自分迷子になっていくのを感じた。

自分がつい愚痴に陥るたびに、どうぞどうぞお酒は進む。

もうどうにでもなれ言葉を重ねつつ、司会が終会を切り出すまで

話しこむ内に内心戸惑いを覚えずにはいられなかった。

何で今まで参加してこなかったのだろう?

無駄に高い自己障壁が、ぼっちを許したくなかっただけ。

参加して、その場限りの関係を終わる度に捨て去っても、

上手く質問を切り出せなくてかいた恥をいつまでも捨てられなかっただけ。

この歳になってまだ自分は幼いままだ。

だが、頑張れば大人と呼ばれる真人間に近づけるのではないかなと

少しだけ希望がいだけた。

来年から定期で勉強会を開催するという。

本日お会いした二人と、もしかしたらまたお会いする。

先方には迷惑かもしれないけど、差し支えなければまたお会いしたい。話を聞きたい。

ゴリゴリ、開発したい。コード書きたい。

懇親会に参加して、押さえつけていた箍が今、大きく弾けそうだ。

2014-11-01

アーカイブ

 なんでもいいからはやくいきなよ。悪友のおんなにげしげしと足蹴にされながら非常階段へでた。かんかんと高いおとが靴のしたで鳴る。ぎらぎらした夜だ。それでもなかにいるよりはおちつく。

 電波がわるいから屋上がいいよともうひとりの悪友のおんながいった。こちらはがみがみとしかりつけるような声色ではない。ありがとうとこたえる。

 こころえたもので男どもはなにもいわない。

 ひとまえで何かをするのはとてつもなくエネルギーを要する。みずからのぞんでここにたっているとしても。どだい、なにかを発するためにはどこかを消耗しているのだから、そのぶんの欠落がないかのように壇上でも舞台うらでもぎらぎらとふるまう人のむれの中にいるのは、いつまでたってもぶきみだし慣れない。

 はらへったな。おどり場に腰をおろすとそんなことばが口をついてでた。腹がへったら喰わねばならない。

 きみどり色のアイコンをおや指のはらでたたく。受話器のマークは近ごろのメインユーザーにつたわるものなのか。4コールほど待ってやわらかい声が耳朶をくすぐる。はい、──です、どうしたん、しごとじゃないのん

 どうもしないし元気だけどかけてはだめですか。息をすって、ききかえすのにすこし勇気がいった。いつのまにか、なにかがかなしくて、苦しくて、やりきれなくて、どうにもならなくなったときにこのひとにたすけをもとめるのがならいのようになっていた。

 ほろほろと耳元で声がわらった。元気か、そうかそうかとってもよろしい。ほっとしてしまって、べらべらとくだらないことをしゃべった。これはいいものだとはなしながら思った。なんでもないことをずらずらとならべて、それであなたがわらうならいい。

 そんなわけですごく元気なんだけどまたあってくれますか。ひとしきりはなしたあとまじめくさってたずねると、また、やわらかい笑声がほおをなでた。もちろんですお客さま。

 おどけた声だった。ふかい意味もないようだった。それでも手指の骨がいたむような思いがあった。たしかにこちらがクライアント立場にたち、おおやけの場で音やことばを発するおぜんだてをたのむこともあった。その点において、この人はまるで機械のように精確にひとののぞみをかなえるのだった。電波のかたすみでよくみる、時計宝石技師のようだった。

 業務として、手もとにめぐってきた製品をよく識るために、かの女はそれらをやはり精確にきっかりの分量で愛した。甘すぎも重すぎもしない。ぬれそぼってもかわいてもおらず、自分のようになにかを発信したい、けれどもいちいち返信はうけとりたくないと思っているいいかげんなこの世のすべての日蔭のものかきどもにとって、のどから手がでるほどほしいものだった。

 この人にあまえている、どうしようもなく。おぼれるようにだれかを乞いたい、適度に愛されもしたいけれど背おいたくない。そういうやからにとって自分はいかにも手ごろなのだと、かの女自身よくわかっている。だからなのか、よんでくれれば会いにいくといって笑う。こちらから会いにいくことはあまり歓迎されていない。この人には夫がいる。

 日どりのはっきりしない約束もどきをかわして通話をおえた。唇がからからになっていた。あーあ。自分のどこがそんな音をたてるのかふしぎなくらいひしゃげた声がそのすき間からこぼれた。あーあ。とうとうやってしまった。とうとう録ってしまった。この世にはおそろしい技術がある。ふきっさらしの非常階段のまんなかで、せいぜい風にふかれてろくに録れていないことをねがう。

2014-05-29

親不知を抜いたんだ。

24日の土曜日にさ、下の親不知抜いたんだよ。

今週の頭は痛み止めの効果もあってか平気だったけど

ついついうっかり今日は痛み止めを忘れてきてしまったんだ。

痛みってギンギンするだのツーンとするだのと人それぞれあるとは言うが…、

なんかもう形容し難いヌルヌルした痛みみたいなものがさ、引いては強めてを繰り返してるんだ。

上手い言い方が思い浮かばないが、それほど強くはない力で耳朶をぐりぐり触る感じ?

中途半端に痛い?からなかなか集中できないんだよ。

これって痛いのかなあ。痛くないのかなあ。よくわかんないんだよな。

この変な痛みの波がやってくるのがちょっと楽しみになっている気もするんだけど、

もしかして自分マゾ気味なのかなあ。

多分23時ぐらいまで残業することになりそうなんだけど耐えられるかなあ。

なんかいい感じに集中できないし良い案も思い浮かばねーや

2012-06-20

NHKニュースウォッチ9って、すごくナレーター言い回しに気を使っていて嫌だ。

NHKニュース番組の殆んどに当てはまるけれど、耳に届きやすい喋り方を意識してるんだよね。

から否応なしに内容に意識が向いてしまう。テレビを見たいわけじゃないから、うるさく感じてしまう。

テレビなんて点けなきゃいいんですけどもね。とにかく、関心のない人の耳朶作為的に飛び込んでくる音声って好きじゃないって思った次第。

2012-05-22

眠れないのです。

夜。ベッドの中。カーテンを引いて、蛍光灯を消して、まぶたを閉じて。ゆっくり深呼吸をしてみるのです。鼻から息を吸い込んで、肺を満たして、お腹も膨らまして。手の先が、足の先が、脳髄が、すうっと青く、清流のように涼やかになるのを感じてみても、だめなのです。やはり。だめだったのです。

眠れない。睡眠というものに引きずり込まれない。

疲れていないからだとか、カフェインの摂り過ぎだとか、日頃の生活が自堕落だとか。当て嵌めることのできる理由原因は多々あるように思えます。日々の生活が自堕落で、ひび割れた白磁のごとく大量の珈琲を啜る中毒者は、ろくに働きもしない穀潰ししかなく、同時に何者でもない、没個性的な、凡凡人未満でしかないのです。故に、極ごく平均的な成人が晒されている、日常的な疲労からは程遠い生活を送っている。

しかしながら。それにしてみても、眠れない。ひどく。断固として。眠られないのです。

暗闇の中で深呼吸しまぶたを閉じると、ぽつぽつと、無秩序な幾何学模様が浮かび上がってくるのです。あるいは、とても醜悪な醜怪極まりない密集が浮かんでくる。てらてらと膨れ上がった小さな小さな黄白色の突起が、わっと眼前に広がってふるふると震えているような画面が、姿を変えて形を変えて、次から次へと展開していくのです。

あるいは、蛍光緑に染まった何かしらの表面に穿たれた無数の窪み。延々とサークルが近づいていたと思えば、突如としてデルタが積み上がっていく。標識は零に置き換わり、麦わら帽子を被った縦列の二つ目に、無味乾燥眼差しを向け続けられる。

ゆめのような、まっことゆめのようなイメージが、次から次へと、流れては消え、移ろい、変遷していくために、ちっとも落ち着くことなんてできないのです。

ですから、例えば、羊を、柵を飛び越えていく長毛を纏った獣の姿を、諄々に思い浮かべようにも、転々と変化する脈絡のないイメージからは逃れるすべなどなく、横切る羊の眼に顕微鏡が向けられるやいなや、拡大に拡大を重ねたイメージはすぐさま瞳孔へと呑み込まれて、落ち込んだ暗闇の中で新たな表象対峙するはめになる。

別段、精神的に参っているわけでも、心理的に煩っているわけでもないのです。ただただ眠られない。ひたすらに。純粋に。それだけのことなのです。ちょっとした、些細な物事なのです。

私は明け方の鳥が嫌いです。朝一番の鳴き声が、しんしん耳朶に染み入ってくる気配が、空を切り夜を引き裂く一声が響き渡る振幅が、受け付けられないのです。

動き出す町並も。目覚めゆく群衆も。苦手で。疎ましくて。心がどんどん灰色になっていく。

眠られない。

ただそれだけのことのために。嫌いな物ごとが増えてしまうのです。

夜明けは、だから少しだけ、さみしい。済んだ空気は、どんな時でもひんやりと冷たく感じられるのです。

2011-12-14

首が痛いのに、

首が痛いのに、

首が痛いのに、

猫が首の上に乗って、耳朶しゃぶりながら頬をモミモミしたがる。

眠ることが出来なくて悲しい

(´;ω;`)

 
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