<「クールジャパン」を超えて世界的人気と評価を勝ち取る日本文学。その背景にある文学市場と英訳者の知られざる変化とは?> 異変に気が付いたのは、2009年の春。私は勤務先から半年間の在外研究を許され、4月より北米東海岸はマサチューセッツ州ボストン近郊で過ごしていた。ハーバード大学やブランダイス大学、タフツ大学における講演や共同研究をこなす日々。折も折、以前から愛読していた若手作家と遭遇した。 その名は、マシュー・パール。03年、まだ28歳の時に19世紀中葉のボストン知識人たちを主役にした歴史改変ミステリー『ダンテ・クラブ』(邦訳・新潮社、04年)を放ち、たちまち時の人となった。 ハーバード大学英文科を卒業後にエール大学法科大学院を卒業した秀才パールは、ダンテ研究の業績を評価され、アメリカ・ダンテ協会賞を受賞。小説タイトルの「ダンテ・クラブ」とは、19世紀中葉、ハーバード大学周辺の知識人たちが