BS4K撤退検討、キー局の本音「国策の失敗」「大金ドブに捨てた」

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黒田健朗 滝沢文那 宮田裕介
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 在京民放キー局各社が、免許の更新時期にあたる2027年に高精細の4K放送からの撤退を検討していることが分かった。29日に開かれた総務省の有識者会議は、インターネット配信を含めたビジネスモデルの再検討が必要とするとりまとめ案を公表。総務省が旗を振った4K放送は10年足らずで行き詰まった。

 これまで白黒テレビからカラー、ハイビジョンなどと放送技術を進化させ、普及もさせてきたが、4Kは需要を掘り起こせなかった。なぜ、この国策は「夢物語」になってしまったのか。民放各局の本音とは。

5局の赤字は累計で数百億円規模

 「総務省が描いた『夢物語』の失敗といっていい。大金をドブに捨ててしまった」

 総務省の有識者会議「衛星放送ワーキンググループ」の議論を見守ったあるキー局幹部は、4K放送を主導してきた総務省へのいらだちを隠さなかった。

 この会議では、7月末から4Kのコンテンツについて総花的に話し合われた。だが、各局の幹部は「会議の裏テーマは4K撤退」と打ち明ける。

 9月8日にあったこの会議でのTBSホールディングスの現状報告は、業界で話題になった。BS4K放送の厳しい経営状況を具体的な数字で示したからだ。

 2024年度のBS4K放送の事業収入が約1200万円だったのに対し、支出は約8・6億円だったと公表。30年には約15億円かかると見込む設備更新があるため、今年度中には4K放送の経営方針を決定する必要がある、とした。TBSの担当者は「現状の収支も踏まえた経営判断が必要なタイミングが来ている」と述べた。

 4Kの放送認可は5年単位で、申請すれば32年までは放送を続けることになる。1局あたり年間10億円近い赤字が出ていて、5局の赤字は累計で数百億円規模に上るとされる。

 一連の問題を受けて定例会見を開いていないフジテレビを除き、各局は会見で「(BS4Kの撤退について)現段階で決まっていることはない」としつつ、厳しい懐事情を説明している。

 キー局に先んじて、有料放送では、既に撤退が相次ぐ。スカパー!では、9チャンネルが24年に放送を終了。「WOWOW 4K」も今年2月末、採算が合わないとして開局から4年で放送を終えている。

 民放BS局の幹部はこう話した。「これ以上、失敗した国策とは付き合えない」

「4Kをやりたいなんて言っていない」

 国が描いていた「物語」はどのようなものだったのか。

 総務省が4K放送に向けて本…

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この記事を書いた人
黒田健朗
経済部|総務省担当
専門・関心分野
漫画、アニメ、放送
滝沢文那
文化部|放送担当キャップ
専門・関心分野
放送・芸能、批評、思想、文学、演劇
  • commentatorHeader
    千正康裕
    (株式会社千正組代表・元厚労省官僚)
    2025年10月29日16時0分 投稿
    【視点】

    BS4K放送は確かに映像がキレイで、高画質で楽しめる。しかし、実際にチャンネルを合わせると、テレビショッピングの番組や再放送も多く、高画質を堪能できるコンテンツが少ない。 結果的に、自分もBS放送を観ることはかなり少なくなっている。プロ野球シーズンが終わるとその傾向はさらに強まる。 かわりに、動画配信で好みの番組を見ることが多い。最近は、地上波やBSの番組も動画配信で見られるものも多い。動画配信は、多数のコンテンツから、見たい時に見たいものを見られる利点も大きい。 記事を見て、よくわかったが、BS放送の収益構造が厳しいのであれば、残念だが撤退も仕方ないことなのかもしれない。そもそもテレビの視聴時間は、今やスマホとの競争でもあるだろう。若い世代ほどテレビを見ていないというデータもあるので、今後さらにテレビ放送は厳しくなっていくのではないだろうか。

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    佐倉統
    (実践女子大学教授=科学技術社会論)
    2025年10月30日20時40分 投稿
    【視点】

    視聴者の側からすると、デジタル→4Kの移行は量的な改善にとどまる。アナログ→デジタルが質的に大きな変化だったのに比べるとインパクトは弱い。なにも無理して4Kで見なくても地デジで十分だと思う。きれいな高精細画像を大画面で見たい人もいるのだろう

    …続きを読む