ニューヨーク在住9年目の、久保純子さん。家族や友人との時間、街で見かけたモノ・コト、感じたことなど、日々の暮らしを通して久保さんが見つめた「いまのニューヨーク」をつづります。
10月最初の土曜日。マンハッタンのダウンタウンに位置するチャイナタウンは、中秋を祝うお祭りで大にぎわいだった。老若男女が集まって、習字、中国アクロバット、食べ歩きと、秋晴れの午後のひと時を楽しんでいた。この日のみならず、チャイナタウンは、いつ訪れても人であふれていて、活気がある。うれしいのは、インフレが直撃しているニューヨークにおいても、ここだけは断然何もかもが安い! 今回は、チャイナタウンの楽しみ方をご案内したい。
ニューヨーク市には、主に三つのチャイナタウンがあると言われている。一つは先にご紹介した全米でも屈指の人口と大きさを誇るマンハッタン地区にあるチャイナタウン。続いて、クイーンズ地区フラッシングにあるチャイナタウンは、アジア系住民が集う場所になっている。さらには、ブルックリン地区サンセットパークにも、マンハッタンをしのぐ大きさのチャイナタウンが存在する。
その歴史は古く、1848年にカリフォルニアで金が発見された「ゴールドラッシュ」で、中国人を始めとする多くのアジア人が金鉱発掘の働き手としてアメリカへ渡った。南北戦争後のデフレや不況を機に、多くの中国人たちは仕事を追われて西海岸から東海岸に流れ、ニューヨークなどの都市に移り住んだ。
1890年代ごろには、マンハッタンのチャイナタウンのある近辺でレストランを開業した中国人のお店が人気を呼び、ロングアイランドなどの郊外の農園で中国人たちが育てた数々の中国野菜が、日々チャイナタウンへと運ばれてくるようになった。連邦議会による「中国人排斥法」で、一時期、中国人労働移民を禁止する法律が施行されたが、1965年に制定された移民国籍法を機に、移民受け入れ枠が撤廃されて、中国人の人口が一気に増えた。そして、1980年には、ニューヨークのチャイナタウンは、サンフランシスコのそれをも超える全米最大の中国人街へと変貌(へんぼう)を遂げたのだ。
駅を下りると別世界。お目当ての食べ歩き
地下鉄「キャナルストリート駅」に降り立つと、そこは別世界。見渡す限りに漢字が記され、聞こえてくるのは、威勢の良い中国語だ。お土産屋さんで売られている「New York グッズ」がなければ、ここがニューヨークであることを忘れてしまうほど、異国情緒にあふれている。
私のお目当て、まずは「食べ歩き」。腸粉(チャンフェン)をご存じだろうか? 広東を代表する点心で、米粉を蒸した薄い生地で具材を巻き、醬油(しょうゆ)ダレをかけて食べるヘルシーなライスロールだ。この腸粉専門店がある。「Yi Ji Shi Mo Noodle Corp」は、この日も、小さな店先には長蛇の列ができていた。ライスロールに包む具材を、大きな鉄板で小気味良く刻んでいく音が、店中に響き渡る。耳に心地良い。待つこと30分、出来立てホヤホヤの「エビと香菜入り腸粉」は、トロトロで、喉(のど)越しが良いという表現が適当かはわからないが、かまないでもスルスルッと食べられてしまう。並ぶ価値のある一品だ。
続いては、中華饅頭(まんじゅう)。「Golden Steamer」は、一見、パン屋さんのような店構えだが、中に入ると、大型の冷凍庫に肉まんやらハスの実まんやら、中華饅頭がぎっしり詰まっている。中でも私のお気に入りは、チャーシューまんで、具がみっちり詰まったお饅頭は、食べ応えがある。出来立ても販売されているので、その場で食べることもできるが、私は、大量パック(8個で8ドル)を購入して、家で蒸すようにしている。レジ横に1個1ドルで売られているゴマ団子も、安さに釣られてついつい買ってしまう。絶品デザートも外せない。
さらに、もう少ししっかり点心を食したい時には、中国人の友人がおすすめしてくれた「Dim Sum Go Go」に直行する。2階建て、広々として小奇麗なレストランは、いつ行っても大にぎわいだ。何を食べてもおいしいが、エビ蒸しギョーザ、小籠包(ショーロンポー)、ニラ饅頭など、一つ一つがアメリカンサイズで、数個食べたらお腹いっぱいになってしまう。他にも、手作りの厚揚げやパンなど、チャイナタウンには、わざわざ足を運びたくなるお店がたくさんある。
漢方食材ツアーにも参加
もちろん食べるだけでは終わらない。チャイナタウンには、本格的な漢方薬局がある。先日、ニューヨークで活動する薬膳師ちゆき先生の薬膳食材のツアーに参加した。薬局には、瓶や袋詰めにされた食材が所狭しと並べられていて、あれもこれも気になるものがいっぱい。ハトムギ、干し貝柱、山薬(サンヤク)、貝母(バイモ)、バラの花などなど、見聞きしたことはあったものの、詳しくは知らない食材に吸い寄せられた。早速、受験生の娘には、キンモクセイや雪梨干(雪梨〈ユキナシ〉を干したもの)を、夫には菊の花を購入して、毎日、煮出して飲ませている。病は気からというから、漢方の力も借りて、なんとか元気に季節の変わり目の不安定な気候を乗り切りたいと思う。
お腹(なか)と心と身体の元気の源、チャイナタウン探訪はまだまだ続きそうだ。