新米が出回り始めた。再び価格高騰は免れないのか。東京大学特任教授の鈴木宣弘さんは「『令和のコメ騒動』に至るルーツを探ると、アメリカの小麦戦略に行きつく。根本原因が除去されない限り、米価高騰は起こりうる」という――。
2025年5月23日、精米店を視察後、記者団の質問に答える小泉進次郎農林水産相(東京都江東区)
写真=時事通信フォト
2025年5月23日、精米店を視察後、記者団の質問に答える小泉進次郎農林水産相(東京都江東区)

「アメリカの小麦戦略」が騒動の淵源

日本列島は、コメ不足による米価高騰という「令和のコメ騒動」に見舞われた。なぜ、このような事態に陥ったのか。

政府は「コメは足りているが流通業界が隠している」と責任転嫁してきたが、根本原因は違う。

コメ過剰が叫ばれる中、長年の減反政策、生産調整政策でコメ生産を減らし続け、また低米価が続いて、コメ農家の所得は時給換算で10円にしかならないような深刻な状況に追い込まれてきた。国の政策と「もう稲作は続けられない」という農家の疲弊とで、そもそもコメ生産が激減しているのだ。

それでは、日本の稲作農家を取り巻くこの苦境の発端は何か。実は、「コメの代わりに小麦を日本人の胃袋に詰め込む」というアメリカの小麦戦略が、日本人のコメ消費を減少させ、コメ減反政策を不可避としてきた大元なのである。

食生活が「自然に」洋風化したのではない

ここで食生活について考えてみよう。例えば、アメリカの環境活動家レスター・ブラウンの著書『だれが中国を養うのか?――迫りくる食糧危機の時代』(ダイヤモンド社、1995年)の背景には、中国の食生活が際限なく洋風化していくという前提がある。

ブラウンにかぎらず欧米人は、自らの食生活が「進んで」おり、日本や他のアジア諸国は何十年か遅れてその後を追いかけていくと思い込んでいる節がある。このような認識もあって、日本人の食生活は「自然に」洋風化したとか、遅れた食生活が経済発展とともに洋風化したのは必然だとか言われることが多いが、そうではない。

研究者も含めて大多数の日本人は、「食料自給率が下がったのは、食生活が急速に洋風化したため、日本の農地では賄い切れなくなったのだからしょうがない」と信じているが、この「常識」は間違いである。現象的にはそうだが、それはアメリカの政策の結果だということを忘れてはならない。

戦後、アメリカの要請で貿易自由化を進め、輸入に頼り、日本農業を弱体化させる政策を採ったのだ。しかもアメリカは、日本人の食生活をアメリカの農産物に依存する形に誘導・改変した。原因は政策なのだ。