2025年1月にアメリカ大統領に復帰したドナルド・トランプに世界がかく乱されている。相互関税など強硬な姿勢を見せたかと思えばすぐに撤回し、再び強硬に転じるというパターンの繰り返しに、各国は翻弄されている。BBT大学学長の大前研一氏は、トランプの復権はアメリカそのものの変容であると危惧する――。

※本稿は、大前研一『ゲームチェンジ トランプ2.0の世界と日本の戦い方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

「ドナルド・トランプ」という現象

政治や経済におけるダイナミズムは、しばしば私たちの予測を超えた展開を見せる。とりわけ現代においては、従来の常識や国際秩序が揺らぎ、混迷を深める局面が少なくない。その最たる例が、アメリカのドナルド・トランプ大統領の政治手法と、それが世界にもたらす影響である。

私は「ドナルド・トランプ」という存在を、単なる一人の政治家ではなく、一種の「現象」であると捉えている。彼の登場はアメリカの民主主義における一大転換点であり、その根底にはアメリカ国民の変質、そしてアメリカという国家のアイデンティティの揺らぎがあると考えている。

トランプ最大の罪は、アメリカ社会を分断したこと

まずは、トランプ氏の人物そのものに対する評価から始めたい。トランプという人物を正しく理解するには、彼の言動の是非ではなく、彼がなぜアメリカ国民の約半数の支持を集めているのかを考えなければならない。

トランプ氏は歴代アメリカ大統領の中で、最も品性に欠け、歴史に対する無知を隠そうともしない人物である。にもかかわらず、いまだに共和党の岩盤支持層を中心に熱烈な支持を受けている。彼らは「トランプは言ったことを必ずやる」と評価する。

しかし、その内容は、国際秩序を破壊し、アメリカ国内を分断するものに他ならない。

この現象は、アメリカにおける政治の「大衆化」「ショービジネス化」が進んだ結果であるとも言える。SNS時代の大統領として、トランプ氏は一貫して「目立つ」ことに長けていた。彼は政策ではなく、話題性と敵づくりによって支持を集めた。

その象徴が敵に対する「フェイクニュース」というレッテル貼りであり、民主党だけでなく、CNNやワシントン・ポストといったメディア全体を敵視する姿勢に表れている。

ドナルド・トランプなどの風刺人形
写真=iStock.com/Roman Tiraspolsky
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