水分補給の6大誤解、「1日2L」「コーヒーやお茶はNG」ほか

水分が足りているかどうかのサイン、飲むべきタイミングと量など、専門家が伝授

2025.07.04
喉(のど)の渇きを感じなくても脱水していることがある。水分補給に関するよくある俗説が、必要な水分摂取を妨げていると専門家は警告する。(PHOTOGRAPH BY CARLOS HERNANDEZ, GETTY IMAGES)
喉(のど)の渇きを感じなくても脱水していることがある。水分補給に関するよくある俗説が、必要な水分摂取を妨げていると専門家は警告する。(PHOTOGRAPH BY CARLOS HERNANDEZ, GETTY IMAGES)
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 水は人体に最も多く含まれる物質だが、その重要性は必ずしも十分に知られていない。米世論調査会社CivicScienceが2900人近くを対象に行った2023年の調査によると、米国の成人のおよそ半数が、1日に推奨される水分量を取っていないことがわかった。これは困った問題だ。なぜなら、適切な水分補給は、健康を保つうえで非常に手軽で、かつ効果的な方法の1つだからだ。

 まず、水分は体温の調節や関節の潤滑、消化、解毒、栄養素の運搬、エネルギーの生成、そして心臓や脳の機能に不可欠だ。さらに、米国立衛生研究所(NIH)の最近の研究によれば、適切な水分補給は、慢性疾患の発症リスクや早期死亡のリスク、生物学的年齢が実年齢を上回るリスクの低下とも関連している。(参考記事:「脳を7.5歳若く保つ「マインド食」とは、認知症のリスクも半減」

「水分補給は、体内のあらゆる細胞機能の基盤です」と語るのは、米ニューヨーク市で統合医療を専門とする医師であり、共著に『「食べる水」が体を変える : 疲労・肥満・老いを遠ざける、最新の水分補給メソッド』(講談社)などがあるダナ・コーエン氏だ。

「ですが、多くの人が軽度の脱水状態のまま日常を過ごしており、自覚すらしていません。こうした慢性的な水分不足は、疲労や頭痛、集中力の低下、関節の痛みを引き起こすだけでなく、空腹だと勘違いしてしまう状態を招くこともあります」(参考記事:「水分の不足は腸内環境を悪化させ、感染症にかかりやすくする」

 こうした落とし穴にはまらないために、水分補給にまつわる代表的な俗説の真偽をひも解いていこう。

誤解1:成人は毎日2リットルの水を摂取すべき

「毎日約2リットルという教えは、私たちの頭の中に刷り込まれています。ですが実際には、必要な水分量は体格や活動量、生活環境によって人それぞれ異なります」と、米サンディエゴを拠点にする栄養士で健康専門家のウェンディ・バジリアン氏は語る。氏は、ポッドキャスト「1,000 Waking Minutes」のホストも務める。

 実際、全米科学・工学・医学アカデミーは、体の適切な水分量を維持するには、食事からの分も含めて成人女性は1日あたり2.7リットル、成人男性は3.7リットルの水分を摂取するよう推奨している(編注:厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、十分な情報が整っていないとして水の目安量は定めていない)。(参考記事:「水は1日にどれくらい人体を出入りするのか、初の計算式」

 気温や湿度が上がる夏場には、特に屋外で過ごしたり運動をしたりする場合、必要な水分量はさらに多くなる可能性がある。たとえ汗をかいていないように見えても、呼吸や皮膚の表面からの蒸発によって、体は水分を失っている。高温多湿の環境や標高の高いところなどでは、その傾向が強くなる。軽い作業中でも、あるいは休息しているときでさえ、水分補給が重要とされるのはそのためだ。(参考記事:「マラソンをすると脳が激変すると判明、驚きの柔軟性、高齢者にも」

 軽度の脱水状態であっても、熱けいれん、熱疲労、熱射病といった熱中症のリスクが高まるので注意が必要だとコーエン氏は語る。

「暑いときは、汗が目に見えて流れていなくても、発汗による水分の損失は加速します。つまり、夏は水分補給がいっそう重要になるのです。目安として、暑い屋外にいるときや運動中は、1時間ごとに少なくとも約470ミリリットルの水分を補給しましょう」(参考記事:「熱中症をウエアラブル端末で防ぐには、スマートウオッチは有効?」

誤解2:喉の渇きは水分補給のサイン

「喉(のど)の渇きは確かに参考になるサインですが、実際には『今の状態』を示すリアルタイムの指標というより、遅れて点灯する警告灯のようなものです。例えるなら、車の燃料残量表示のEマークが点いたときのようなものです」と、バジリアン氏は説明する。

「喉が渇いたと感じたときには、すでに水分補給のタイミングを少し過ぎている状態」だという。この傾向は特に高齢者に当てはまる。加齢とともに喉の渇きを感じるメカニズムが鈍くなるため、脱水のリスクが高くなる。

 どの年代であっても、体内の水分がわずか1~2%失われるだけで、「身体能力や認知機能に悪影響を及ぼすおそれがあります」とコーエン氏は指摘する。男子大学生を対象とした2019年の研究では、軽度の脱水状態が活力や気分、短期記憶、注意力に悪影響を与えることが確認された。幸い、水分を補給することで、疲労感や気分、反応時間、思考力は速やかに回復した。

 コーエン氏によれば、脱水状態を判断する上でより確かな目安となるのは、トイレに行く頻度だという。「起きている時間帯には、2~3時間おきに排尿があるのが理想的です」と氏は語る。

 その際、尿の色にも注目するべきだ。透明~薄い黄色であれば、水分が足りているサインだ。もし蛍光のような鮮やかな黄色だったとしても、慌てる必要はない。特定の薬やサプリメントの影響でそうなることもある、とコーエン氏は説明する。

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