水は1日にどれくらい人体を出入りするのか、初の計算式

人は1日にどれくらい水分を失い、どれくらい水を飲めばいいのか

2023.02.01

 水は、私たちの体に欠かせない。ごく当たり前のことだが、体を日々出入りする量は、これまで科学的に明らかにされてはいなかったそうだ。その量を推定する計算式を、医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN=ニビオン)などの国際研究グループが初めて開発した。体や環境のデータを基に、1日に失う水分量の目安を算出できるという。人生のさまざまな時期や災害時などに必要な量を予測できれば、健康管理に役立ちそうだ。

「重水素」手がかりに大規模調査

 私たちの体のおよそ半分は水。一般的な成人男性で体の53%、成人女性で45%、乳児では60%を占めるという。この量を維持するため、私たちは飲んだり、食事や呼吸をしたりして水分を取る。ここでストック、つまり体に含まれる水分の量は分かっていたが、フローである1日の出入り量は正確な把握が難しかった。従来は小規模な調査や、主観に頼るアンケートに限られてきたという。

体を出入りする水(代謝回転)のおよその内訳(医薬基盤・健康・栄養研究所=NIBIOHN=提供)
体を出入りする水(代謝回転)のおよその内訳(医薬基盤・健康・栄養研究所=NIBIOHN=提供)
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 そこで研究グループは、23カ国の生後8日~96歳の男女5604人を対象に、体の水分の量を求め、出入りする量を推定することに挑んだ。

 調べる仕組みはこうだ。普通の水素原子より中性子が1個多い安定同位体の「重水素」をわずかに含んだ水を飲んでもらった。体内に一時的に重水素が増えた後、数カ月以内に元の量に戻る。この微細な変化を正確に捉える装置を使い、体の水分量を求められるほか、増えた重水素の値が元に戻る速度を手がかりに、水の出入り量も算出できるという。

体格、生活、環境…さまざまな要因

 その結果、1日に体を出入りする水分の量は、男性では20~35歳、女性では30~60歳が最も多く、それぞれ平均4.2リットル、3.3リットルと分かった。成人では体の全水分の10%、乳児では25%が、わずか1日で失われていた。水分を3日間取らないと、命の危険にさらされるという。これは従来、経験的に言われてきたことだが、今回の調査で科学的に裏付けられた。高齢者は水の出入りが少なかった。

(左)体の水の出入り量「代謝回転」と、(右)体の水分量で割った「代謝回転率」。年齢とともに変化している。いずれも平均値で、実際には個人差が大きい(同研究所提供)
(左)体の水の出入り量「代謝回転」と、(右)体の水分量で割った「代謝回転率」。年齢とともに変化している。いずれも平均値で、実際には個人差が大きい(同研究所提供)
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 水の出入り量は、脂肪を除いた体重や総エネルギー量、体を動かす程度と正の相関があった。体脂肪率との間には負の相関があったほか、平均気温や緯度との間にも関係性が見いだされた。暑い所や赤道付近で出入り量が多いのは想像通りだが、極端に寒い場所や北極圏などでもやや多くなったという。

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