遠隔操作の建設機械を使う「遠隔施工」が当たり前に導入されるようになってきた。現場では労働環境の改善や人材不足解消の切り札として期待されている。新たな働き方が遠隔施工を軸に生まれ始めている。
後ろ向きに付けたダンプトラックにバックホー(油圧ショベル)が土砂を投入していく。積み込み終わるとダンプトラックが発進し、バックホーは向きを変えて次の積み込みに向けて土砂を器用にほぐし始める。普通の掘削作業に見えるが、実はバックホーの操縦席に人が乗っていない。
2025年5月、「新潟港(東港区)西ふ頭地区ふ頭用地整備(その2)工事」の現場で、無人のバックホーを使った土砂の積み込みが行われていた。受注者は新潟市に本社を置く社員数約190人の広瀬だ。
バックホーは現場から約23km離れた本社のオフィスに置いた操縦席から動かしていた。同社にとって2現場目となる遠隔施工での作業だ。新潟県が発注した同工事では新潟港のコンテナヤードの移設のため、土砂の撤去作業や路盤整備などを進める。掘削する土量は約2万5000m3だ。
現場代理人を務める同社の星山祐介氏は「積み込み作業をする他の有人建機と遜色ない作業量をこなす」と、満足げだ。
この現場には通常の現場では見慣れない設備がある。例えば、操縦席と建機を通信でつなげるための中継車両。車両の上部に米スペースXの衛星通信網「スターリンク」のアンテナを搭載する。車両に積んだ親機から建機に載せた子機にWi-Fiを使って信号を送り、建機を動かす。他にも、バックホーを俯瞰(ふかん)して見られるように、現場の2カ所に三脚を立ててカメラを1台ずつ配置。建機に搭載したカメラの死角となるエリアの情報を補う。
広瀬が導入した建機の遠隔操作システムはコマツとその子会社のアースブレイン(東京・港)が開発した「Smart Construction Teleoperation」だ。建機のオペレーターが乗るコックピットのような操縦席には複数のモニターやスピーカー、操作レバーが備わる。中央のモニターには建機に搭載したカメラが撮影したアームやバケットの動きを映し出す。ダンプの位置情報や積載量も上下のモニターに大きく表示される。
入社したばかりの社員が操作
建機を動かすのは広瀬土木事業部工事システム管理部ICT推進室の小林栞莉(しおり)氏。25年1月に転職して入社したばかりだ。前職は小売業で建設現場の経験はない。自社敷地内で建機に乗り込んでの練習を重ね車両系建設機械の資格を取得。25年4月から遠隔施工の「遠隔オペレーター」として、初めての現場を担当する。
同社は遠隔施工の実施に当たって、新たにオペレーター人材を募集。5人を採用した。全員が女性だ。出産や育児などで一時的に働けなくなった場合に工事を止めないよう、人員を多めに拡充した。小林氏はその1人で、「新しい取り組みに興味が湧いて」(小林氏)、建設業界に飛び込んできた。
広瀬は現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)に積極的で、ICT(情報通信技術)建機などを新潟県内で他の建設会社に先駆けて導入したという。23年3月には建設現場の生産性向上に関して優れた工事を表彰するインフラDX大賞優秀賞を受賞した。
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