第19回「あの男の妻として死にたくない」増える老年離婚 積年の恨み限界に

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本田靖明
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 「なんで俺が、アイツに頼まれて離婚しなきゃならないんだ」

 長野県内の裁判所に、夫(82)の怒声が響いた。妻(81)が夫の暴力を理由に起こした離婚訴訟。夫婦になって60年がたとうとしていた5年前、離婚が成立した。

 「老い先も短いのに。離婚するには遅すぎた」

 元妻は、そう悔やむ。

 日本が高度経済成長に沸いていた1960年代に、会社員の元夫と結婚した。出世の陰でストレスもあったか、管理職になった40歳ごろから酒量が増え、暴力を振るうようになった。

 「俺は戦前の生まれ。気性が荒いのは仕方ない」。悪びれずに言う元夫をどこかで受け入れ、子どもをかばって暴力に耐えた。

2度の「事件」が離婚の引き金に

 60歳で元夫が定年退職し、年金暮らしになって10年ほどたった頃、「事件」が起きた。

 「監視されてる」「悪口が聞こえた」。異常な言動が目立つようになった元夫が勝手に隣家に入り、住居侵入容疑で逮捕された。警察の取り調べでアルコール依存症による心神喪失が疑われ、起訴は猶予された。入院して治療を受けると、元夫は別人のように穏やかになって帰ってきた。

 「お互い高齢なので、何かあった時に困らないようにしたい」。元夫はそう言って、自分の親から相続した現金の一部にあたる約1500万円を、元妻の銀行口座に振り込んだ。

 だが、しばらくするとまた酒を飲み出し、気性の荒い元の姿に戻っていった。そして80歳を前に、また「事件」が起きた。

長年連れ添った高齢夫婦がなぜ離婚の決意に至るのか。専門家が背景を解説します。シリーズ【熟年離婚のリアル】、次回は6月7日夕配信予定です。離婚後の年金分割について考えます

 「あの金を返せ」。元夫が…

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この記事を書いた人
本田靖明
デジタル企画報道部
専門・関心分野
50~60代の中高年世代の働き方や生き方
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    岩本菜々
    (NPO法人POSSE代表理事)
    2025年5月31日22時31分 投稿
    【視点】

    <離婚した親の面倒は子供が見るべき?アドバイスに疑問>  夫婦の不仲の解決のために、「母親を引き取って同居」するなど、子供が住居やお金を支援せよ、という弁護士のアドバイスに、強い違和感を感じます。  今の若者世代の多くは、金銭的には、単身で

    …続きを読む
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    本田由紀
    (東京大学大学院教育学研究科教授)
    2025年5月31日23時26分 投稿
    【視点】

    「死ぬ前に名前を変えたい。あんな男の妻として死にたくない」。夫婦同姓に固執する保守政治家の頭の中にある幻想の「美しい夫婦の絆」の実態が、この記事には描かれている。名前を結婚前の姓に戻して、自由な本来の自分に戻って死にたい。これまでの我慢は限

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連載熟年離婚のリアル(全23回)

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