興収で読む北米映画トレンド
テイラー・スウィフト、2年ぶりに映画館を席巻 映画・音楽チャート独占の快挙
歌姫テイラー・スウィフトが、2年ぶりに北米の映画館を席巻した。10月3日~5日の北米映画ランキングは、『Taylor Swift: The Official Release Party of a Showgirl(原題)』が週末3日間で3300万ドルを記録し、初登場No.1を獲得。海外54市場でも1300万ドルを稼ぎ出し、全世界累計興収は4600万ドルとなった。
本作はタイトルの通り、スウィフトにとって12作目のスタジオアルバム『The Life of a Showgirl』の“リリースパーティー”。自ら監督した「The Fate of Ophelia」のMV初公開をはじめ、MVのメイキングや収録楽曲のリリックビデオ、スウィフト自身による解説などで構成された89分間だ。
2023年10月、全米映画俳優組合のストライキによってスタジオ各社が劇場公開作品の不振と調整に苦しむなか、スウィフトはコンサート映画『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』を公開して、北米興収1億8075万ドル、世界興収2億6165万ドルという大ヒットを記録。映画スタジオを通さず、北米最大の映画館チェーン・AMC Theatresと直接提携する配給戦略も話題を呼んだ。
スウィフトは『Taylor Swift: The Official Release Party of a Showgirl』でもAMCと直接提携したほか、配給会社Variance Filmsの協力を得て、AMC以外の映画館を含む北米3702館で上映を実施。チケット料金は12ドル(プレミアムラージフォーマット上映を除く)、北米での上映期間は10月3日~5日の3日間のみという大胆な企画となった。
しかも映画興行として特筆すべきは、本作がギリギリまで極秘のプロジェクトとして進められており、劇場公開が発表されたのはわずか2週間前の9月19日だった。しかも予告編や劇場ポスターは制作されず、街中の看板やウェブサイト、SNSなどのオンライン戦略のみでこの成績なのだから、ライバル会社からすればまさに青天の霹靂だろう。
同時にこの現象は、テイラー・スウィフトという“ポップカルチャーのアイコン”たる人物が、一種の巨大IP(知的財産)であることを物語っている。“リリースパーティー”である映画のみならず、アルバム『The Life of a Showgirl』も発売初日に累計270万枚を売り上げ、アルバム初日のセールス記録で歴代第2位(1991年以降)を獲得。2025年のアメリカで最も売れたアルバム、かつスウィフトにとっても過去最高の滑り出しとなった。
映画・音楽のチャートNo.1を、ひとりの人物が同時に獲得するという快挙はまぎれもなく前代未聞。8月にNetflix映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』のシングアロング版が(こちらも2日間限定で)劇場公開され、週末ランキングのNo.1に輝いた際には音楽チャートの席巻ぶりも話題を呼んだが、たった一人でそれ以上の数字を叩き出すのだからすさまじい。
ところでスウィフトと組んで本作を配給しているAMCは、「自宅で観られる映画は上映しない」という方針ゆえに『KPOPガールズ!』の上映を断っていた。まさしく興味深い対照だ。
『Taylor Swift: The Official Release Party of a Showgirl』はこのあとも世界100以上の国と地域で上映される計画で、詳細は順次発表されるという。日本での上映情報は不明。