第162回 「次に何が来るか?」鎌を持つカマバチから擬態無限展開
Dryinid wasp (Chrysidoidea: Dryinidae), female
葉の下、茎の部分で休んでいるところ。
体長:7 mm 撮影地:コスタリカのモンテベルデ、標高1500 m
今年のコスタリカのモンテベルデは、1カ月ほど遅めに雨季に入った。途端に生きものたちが活発に動き始める。
さて、今年の3月末、野外調査中、長いカーボンの枝切り竿が電線に接触してしまい、15万ボルトもの電流が体を突き抜けていき、自分は一度死んで蘇った。特殊な火傷を負ったが、引き続き同じ人生を歩み続けている。不便はつきものだけど、幸いにも日本からの二人の若者、FumiさんとToshiくんに日常生活のことも含め調査など手助けをしてもらっている。
その二人がなぜか最近、滅多にお目にかかれないカマバチという小さな寄生バチを1種ずつ見つけてくれた。カマバチの季節なのか? それともぼくとの視点が違うのか? ともあれカマバチの姿かたちや生きざまが興味深い。今回はカマバチから展開していった短編ストーリーを書いてみよう(久しぶりの記事なので画像も多めに、笑)。
先日、夕方前、薄暗い中、家路へと林道を歩いているとFumiさんが何かを見つけた。「アリ? それともアリに擬態したクモ?」。ちょこまか葉の上や裏を行き来している。「前脚がカマ?? カマキリ??? え、なんだ?」とFumiさん。体長は5ミリほどで、ぼくは、もしや! と思い写真を撮ってよく見ると「なるほど〜、カマバチや!!」。見た目も動きもアリそっくり! 生きたカマバチに20年ぶりぐらいに出会えたので嬉しくなった。さっそく採集して、ラボで写真撮影することにした。
体長:5 mm 撮影地:コスタリカのモンテベルデ、採集地標高1600 m
その5日後、Toshiくんが早朝に、ラボ近くの庭で「小さいカマキリを見つけた!」というので写真を見せてくれた。「まあ、カマキリの幼虫でも見つけたんやろう、どれどれ・・・」と思いきや、びっくり! 「違うやん!カマバチやん!」。カメラを持って現場へと急行、撮影と採集だ!
探すと居ましたいました! まだ朝早く明るくなく、アリのように動きまくるので、1000枚以上も写真をとった(笑)。その時に撮影した内の2枚が次の写真だ。
体長:7 mm 撮影地:コスタリカのモンテベルデ、標高1500 m
さて、「昆虫でカマ!」といえば、カマキリ(第14回、38回、番外編20を参照)とミズカマキリ(タガメやタイコウチ、コオイムシの場合はカマというよりかは、鉤爪(かぎづめ)だろうか)。それから、このカマバチ以外にスグに思いつくのがカマキリモドキ(第52回)とサシガメの仲間のカモドキサシガメ/アシナガサシガメ亜科、そしてカマバエだろうか(3ページ目でそれぞれ紹介)。
しかしカマバチのカマはカマを持つ昆虫たちの中でも一風変わっている。「通常の」上から下へとカマを振りかざし獲物を捕えるのに対し、下から上へとすくい上げるようにカマが付いている(前の2枚の写真)。そして自らが食べる獲物を捕らえること以外に、産卵するための獲物を捕まえて操作するためにもカマは使われるのだ。と言うのは、カマバチは寄生バチ(他の昆虫などに産卵して寄生、最終的に寄主を「食べ尽くす」)で、オスにはカマがない。産卵用の寄主昆虫は、頚吻群(けいふんぐん:ツノゼミやヨコバイ、ウンカ系)の小さなもので、寄主の体内で孵った幼虫は、大きくなるにつれ寄主の体外へと出てくる(次の写真、矢印)。そしてマユを作ってサナギなりカマバチの成虫が出てくるという生態だ。
カマバチの幼虫の体長:約1.5 mm 撮影地:コスタリカの首都サンホセ近郊、標高1200 m
カマはカマキリのものに似ていないが、頭(顔)のカタチが三角形なのと、複眼の黒い点の偽瞳孔(ぎどうこう=ニセの目玉のように見える部分)があることが、カマキリに似ているのでオモシロイ(冒頭と次の写真がわかりやすい)。
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