人気不動産YouTuberが考える「消費者による家の選び方」と「不動産業者のあり方」
「YouTube不動産」のチャンネルを運営する印南和行氏は、同チャンネルで消費者向けに家の選び方を解説する。登録者数は約10万人。新築住宅におけるおすすめの間取りから、食洗器の有無など、一級建築士の経験を活かした細かい視点で解説している。
なお、印南氏の本業は不動産業者向けのコンサルであり、株式会社南勝の代表を務める。昨今、不動産業界では都市部の住宅価格が高騰する一方、地方では空き家問題が取りざたされており、状況は著しく変化している。こうした状況で消費者はどう家を選ぶべきか、そして不動産業者はどうあるべきか。印南氏に取材し、知見を伺った。
YouTubeは啓蒙活動の一環
一級建築士の資格を有する印南氏は現場監督としての経験を積んだのち、2011年にインスペクション(住宅診断)を手がける株式会社南勝を設立した。「中古住宅を見に行ったけれどヒビがあって心配…」といった、消費者のニーズをつかんで事業を展開していった。後述の通り、現在の主力事業は不動産業者向けのコンサルだが、コロナ禍期間中にYouTubeチャンネルを立ち上げ、一級建築士の視点で家や設備の選び方を解説する動画をあげている。すでに登録者数が約10万人に達しており、短い期間で伸びていった。

「消費者に正しい情報を届けたいという思いから、YouTubeを始めました。10万人まで伸びた秘訣はわかりませんが、頻繁に更新しているうちに、伸びましたね。ネットや雑誌の特集、SNSの動向を見て、『今、何が求められているか』を考えながら動画の内容を決めています。動画編集はスタッフに任せることもあれば、自分で手がけることもありました」(印南氏)
動画の内容は間取りや設備に関するもの。住宅選びに悩む一般の消費者向けに建築士としての知見を提供している。「【注文住宅】一級建築士が絶対選ばない最悪の間取り7パターン!必ず避けてください。」は200万回以上視聴されたヒット動画だ。都内の平均マンション価格が1億円を超えるなど、昨今では不動産価格が高騰している。都内のマンションか、地方の戸建てか、消費者はどちらを選ぶべきか聞いてみた。
「まず、利便性を重要視するか特定の自然環境を重要視するか、決める必要があります。テレワークしながら子供と一緒に自然の中でのびのびと過ごしたいのであれば、郊外の庭付きの住宅です。しかし、都市部の仕事場から近距離を重視するなら別の選択肢になります。自然環境を重視しているのに、都市部の手狭なマンションを選ぶのは本末転倒です。家族にとって重要視する内容を決めるのが、最初の一歩ですね」(同)
本業は不動産業者向けのコンサル
YouTubeで消費者向けの情報を発信し続ける印南氏だが、意外にもYouTubeは本業ではないという。
「経営する南勝の主な事業は不動産業者向けのコンサルです。一方でYouTubeの内容は、一般の消費者をターゲットにしています。両者の顧客は異なり、YouTubeはあくまでも消費者向けの啓蒙活動の一環にすぎません。両者の収益もあまり相関してないです。とはいえ、YouTubeが本業における信頼獲得にはつながっていると思います」(同)

本業の南勝では不動産業者向けのコンサルを手がけている。現在の顧客は450社。ニーズに対応していくうちに、当初のインスペクションから事業内容が変化していった。
「消費者がインスペクションを依頼するのは、不動産業者に対して不安があるからです。消費者が納得するように情報を開示して、しっかり説明すれば消費者は不安がらない。たまたま、物件が売れないという業者に出会った際、それまでの知見をもとに『どう見せれば不安がらないか』をお伝えしました。それが好評だったようで、口コミを通じて業者からのコンサル依頼が来るようになりました」(同)
不動産業者に対しては、売主・買主と接触する際のアピールの方法やロジックを活用した資料の作成、提供など、業者の悩みに応じてコンサルを行う。例えば、一括査定サイトで消費者に選ばれ、専任媒介を獲得するためのノウハウなどを提供する。不動産会社の中には、査定の部分で課題があるという会社が少なくないと印南氏は話す。
今後の不動産業者の「あり方」
都市部の不動産需要が旺盛とはいえ、国内全体では人口減少が続いている。不動産業者から見れば客を取り合うような状態だ。コンサルの視点から、今後の業者のあり方を聞いてみた。
「空き家が増えて売主が増える一方、人口減少で買主が減っていく状態です。買主から見て、どの業者を通じて買っても物件自体は同じなので、購入者向けのサポート内容が業者の明暗を分けることになります。買主を満足させる資料作りも重要ですし、話す内容や態度といった細かい部分にも気を配らなければなりません。対応が遅いのも消費者の心証を悪くします。購入したい物件について問い合わせして、すぐに連絡が来れば業者に対して良い印象を持ちます。インサイドセールスについては、他社に代行してでも対応を早くすべきです」(同)
今後は消費者に対しての営業担当者の差別化が重要になるため、内勤業務はツールやアウトソースを通じて効率化し、不動産業者は対面での営業に専念すべきだと印南氏は主張する。なお、自身はYouTubeでの目標を定めておらず、本業のコンサルで事業の幅を広げていく方針だ。消費者による”買い手市場”にある不動産業界において、コンサルの依頼は増えていくかもしれない。
(取材・文=山口伸/ライター)
 
						




