韓国の文化理論季刊誌『文化科学』104号(2020年冬号)の特集が「拡張するフェミニズム」である。特集の英語表記は「Stretching Feminism」であり、雑誌の巻頭文によれば、ここでいう拡張とは、帝国主義的な拡大「expansion/extension」ではなく伸縮性や弾力性をもって「拡がり/広がり/伸び行く」という意味であると規定している(イ・ユンジョン「フェミニズムの拡張性を志向して」同誌、25頁)。 本記事では、この雑誌に掲載された二つの論考を紹介し、韓国においてフェミニズムの名で語られ行われるトランスジェンダー排除の運動や議論(TERF)に対して、いかなる批判的議論が提出されているのかを確認することを目的とする。2016年5月の江南駅女性殺人事件以降盛り上がりを見せている韓国現代フェミニズムについては日本でも注目の対象になっているが、その動きは当然のことながら一面的ではな