大規模な金融緩和を中心とした安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の指南役として、当時内閣官房参与を務めた浜田宏一米エール大学名誉教授(87)は本紙のインタビューで、10年に及ぶ政策の効果について「賃金が上がらなかったのは予想外。私は上がると漠然と思っていたし、安倍首相(当時)も同じだと思う」と証言した。大企業の収益改善を賃上げへとつなげる「トリクルダウン」を起こせなかったことを認めた。 (渥美龍太、原田晋也、畑間香織)
日本の賃金や1人当たりGDP(国内総生産)は、アメリカの6割程度と低い水準だ。表面的に見ると、アメリカの成長率が高かったのに対し日本が成長しなかったことが原因だ。しかし、本来は為替レートが円高になって、この差を調整したはずだ。 “円安政策”を取ったことが日本を貧しくした基本原因だ。 日本の1人当たりGDPは アメリカの63%でしかない 日本の賃金が安いことが問題になっている。OECDの賃金データで見ると、2020年に日本が3万8514ドル。これはアメリカの6万9391ドルの55.5%だ(注)。 その他の類似指標でも同様の傾向が見られる。 (注)OECDの賃金データは、実質賃金の購買力平価評価だ。このため、過去の時点での国際比較はできない。しかし、2020年基準であるので、20年の値は名目値を市場為替レートで換算したのと同じ値になるはずだ。
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『1940年体制―さらば戦時経済』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』『仮想通貨革命』『ブロックチェーン革命』など。近著に『中国が世界を攪乱する』『経験なき経済危機』『書くことについて』『リープフロッグ 逆転勝ちの経済学』『「超」英語独学法』などがある。野口悠紀雄ホームページ ------------最新経済データがすぐわかる!-------
大学など高等教育機関での教育は、国の将来を担う人材育成のために重要な役割を果たす。アメリカや韓国に比べて日本の進学率はなぜ低いのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA 米国や韓国に比べ際立つ低さ 大学進学率は短大を含め64% 日本の大学進学率は54.4%だ。短大まで含めると64.1%になる。 ところが、この値はアメリカでは88.3%という高さだ。アメリカは日本よりずいぶん高学歴社会だと驚く。 さらに驚くべきことに、韓国では大学進学率は95%にもなる(注)。 大学など高等教育機関での教育は、国の将来を担う人材育成のために重要な役割を果たす。 だから、アメリカや韓国に比べて日本の進学率がなぜ低いのか、その原因を真剣に考える必要がある。 原因の一つとして、日本で大学進学が経済的に見て合理的なものかどうか、ということがある。 生涯賃金を単純に比較すると、大学に進学することは経済的に割に合
1990年代に、日本人は海外で貴族のような旅行をすることができた。ところが、その後、円の購買力が低下した。最近の購買力は、 2010年の7割程度で、1970年代前半の水準にまで戻ってしまった。 こうなったのは、円高になるとそれを阻止して、円安に誘導する政策が行われてきたからだ。つまり、日本は自ら望んで貧しくなったと言える。 この結果 、人材を日本に呼ぶことができなくなる。高齢化が進む日本にとって、これは深刻な問題だ。 90年代の夢のような豊かさ1960年代の末、1ドル=360円の時代に、私はアメリカに留学して、貧乏生活を強いられた。当時の私の日本での月給は、2万3000円程度だった。ところが、留学先のカリフォルニア大学ロサンゼルス校の周辺にあるアパートは、独身用一部屋でも、すべて100ドルを超えていた。日本とアメリカの豊かさの差を思い知らされた。 それから20年後の1990年代、事態は一変
ロシアの1人当たりGDPは日本の4分の1で、マレーシアと同じくらい。先進国には入らない。輸出の大半が原油なので、原油価格が下落すると、経済が痛手を受ける。それに加えて西側の経済制裁があったため、経済が大きく落ち込んだ。それにもかかわらず、なぜウクライナに侵攻したのか? ロシアは何と貧しい国!ロシアは、多くの日本人が想像しているよりずっと貧しい国だ。 百聞は一見にしかず。グーグル・ストリートビューで歩いて見ると、よくわかる。どんな都市に行っても、都心部には立派な建物が並んでいるが、そこから離れると、驚くほどの貧しい町並みになる。 シベリア鉄道の終点ハバロフスク中央駅は、壮大な建物だ。しかし、一歩裏に回ると、道路は水溜まりだらけで、掘立て小屋のような家もある。その様子をこの「風景」(クリックすると開示)でご覧いただきたい。 中央の遠景に、中央駅の壮大な建物が見える。ここは、東京でいえば皇居前広
米国はITやAIなど先端分野になるほど強く、企業の収益力が高い。対する日本はどうか。この違いは、大学の水準の高さにある。日本の大学教育は、伝統的な教育システムであるOJTなどによって立ち後れた。もはや日本の状況は「危機的」と言わざるを得ない。 1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。 noteアカウント:https://note.com/yukionoguchi Twitterアカウント:@yukionoguchi10 野口ホームページ:https://www.noguchi.co.jp/ ★本連載が書籍化されました★ 『どうすれば
※写真はイメージです(Getty Images) この記事の写真をすべて見る 日本の国際的地位が低下している。2012年には日本はG7の中で上位グループだったが、いまや最下位に転落した。経済学者の野口悠紀雄氏は、「いまの状態が続けば、日本は、先進国の地位を失う可能性が強い」と指摘する。『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。 【意外なグラフ】日本のGDPは増えてきたが、一人あたりは…? * * * 一人当たりGDPで韓国や台湾とほぼ同水準 2022年は、日本が貧しくなったことが痛感される年になった。急激に円安が進んだため、様々な指標で日本の国際的地位が下がったからだ。 10月に公表されたIMF(国際通貨基金)のデータによると、2022年には、台湾の一人当たりGDPは4万4821ドル(世界第24位)となり、日本の4万2347ドル(27位)
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『1940年体制―さらば戦時経済』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』『仮想通貨革命』『ブロックチェーン革命』など。近著に『中国が世界を攪乱する』『経験なき経済危機』『書くことについて』『リープフロッグ 逆転勝ちの経済学』『「超」英語独学法』などがある。野口悠紀雄ホームページ ------------最新経済データがすぐわかる!-------
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『1940年体制―さらば戦時経済』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』『仮想通貨革命』『ブロックチェーン革命』など。近著に『中国が世界を攪乱する』『経験なき経済危機』『書くことについて』『リープフロッグ 逆転勝ちの経済学』『「超」英語独学法』などがある。野口悠紀雄ホームページ ------------最新経済データがすぐわかる!-------
日本企業からイノベーションが失われた。そのため、博士人材を増やすべきだとの意見が増えている。これは決して簡単な課題ではない。むしろ、博士号の取得者数は減少し、日本企業による採用も進んでいない状況だ。日本で今、何が起きているのか。 1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。 noteアカウント:https://note.com/yukionoguchi Twitterアカウント:@yukionoguchi10 野口ホームページ:https://www.noguchi.co.jp/ ★本連載が書籍化されました★ 『どうすれば日本経済は復活
韓国の賃金は日本より高くなった。様々な指標で、韓国はすでに日本を抜いている。 30年前、日本は世界のトップにいた。90年代末に両国は経済危機に見舞われたが、対応が違った。韓国人は、大学を充実させ英語力をつけて、競争力を向上させた。日本人は何もしなかった。その結果がいま現れている。 韓国は日本より豊かな国になりつつある。OECDのデータによると、2020年における年間平均賃金は、日本が38515ドル。韓国が41960ドルだ。韓国は日本より豊かな国になりつつある。 実際、韓国はすでに日本より強い経済力を持つ国になっている。様々な世界ランキングで、韓国は日本より上位にある。 スイスの国際経営開発研究所が作成するランキングでは、2021年の順位は、韓国が23位で、日本は31位だ。「デジタル技術」では、韓国8位、日本が27位だ。 国連が発表した電子政府ランキングでは、2020年で、韓国は世界第2位で
日本の賃金は韓国に抜かれるなど、賃金下落への対応は喫緊の課題だ。しかし実は日本の統計では正確な国際比較はできていない(写真はイメージです) Photo:PIXTA 日本の賃金は韓国の77%でしかない?? 賃金構造基本統計は正確なのか 日本の賃金が他国に比べて低くなっている。最近では、韓国の賃金より低くなったことが話題になっている。 では、日本の賃金はどのぐらい低いのか? 賃金の国際比較でよく用いられるOECD(経済協力開発機構)のデータを見ると、2020年の韓国の年間賃金は4万1960ドルだ。 これに対して日本の平均賃金は、「賃金構造基本統計調査」によると男女計で月額30.77万円だ(2020年)。年にすれば369.2万円だ。1ドル=114円でドルに換算すると3万2386ドルになる。 これは韓国の77%でしかない! 一方、「毎月勤労統計調査」では、2020年の平均月間給与(現金給与)は31
GoTo政策は、一見したところ、観光業や外食業、あるいは娯楽業という「弱者」を助けようとする政策に見える。しかし、実際には、これらの業種の大企業を助けるだけで、零細企業を助けることにはなっていない。また、新型コロナ下においても所得が減少しない人々に補助を与える結果にもなっている。 第3波の真っただ中で人々の接触を進めようとしている新型コロナ第3波で、病床使用率上昇など、医療体制逼迫への懸念が強まっている。 それにもかかわらず、政府はGoTo政策を実施している。観光旅行を促し、会食を勧めている。コロナ感染拡大に全力を挙げなければならない緊急局面で、人々の交流と接触を増やそうとしているのだ。 感染が広まってくると、高齢者は旅行を控えろとか、東京発着旅行は自粛せよということになった。マスクをしながら会食をせよとの指導もあった。アクセルとブレーキの両方を踏んでいるわけだ。一体どうなっているのだろう
スタンフォードのAI Indexでは 日本はAIで世界第9位 AI(人工知能)の教育や研究について、世界ランキングでの日本の順位が非常に低いことを、前回コラム(2025年3月6日)『AI「トップ100大学」中国49校で日本は“ゼロ”、在米トップ研究者の半数も中国出身者』で指摘した。日本の大学も研究機関も世界のトップリストには姿を見せない状況だ。 研究・教育以外の指標を含めたAIに対する取り組みの全般的な評価はどうか。 例えば、スタンフォード大学のAI Index研究チームが開発したThe Global AI Vibrancy Tool 2024(24年11月)は、研究開発や責任あるAI、経済、教育、多様性、政策とガバナンス、世論、インフラの8つの柱に基づき、42の指標を用いてAIの状況を国・地域別に評価している。 このランキングでもアメリカと中国がトップを競っていることに変わりはない。 開
日本の平均賃金は先進国の5割から8割程度 アメリカの賃金が著しい高さになっている。では、他の国はどうか? OECDが加盟国の平均賃金(Average annual wages)を公表している。いくつかの国について2020年の数字を示すと、つぎのとおりだ(2021年基準実質値、2021年基準実質ドル・レート)。 日本3万8194、韓国4万4547、アメリカ7万2807、ドイツ5万6015、フランス4万6765、イギリス4万8718、イタリア3万8686。人口が少ない国を見ると、スイス6万6039、オランダ6万1082、ノルウェー5万7048、アイルランド5万382、スウェーデン4万8206。 日本の平均賃金は、ここに挙げたどの国より低くなっている。トップのアメリカと比べると、52.5%でしかない。大雑把にいえば、「日本の水準は先進国の5割から8割程度」ということになる。 日本の賃金についての
新型コロナウイルス感染の緊急事態宣言が再発令され、営業時間短縮に応じた飲食業には1店舗あたり1日6万円の時短営業協力金が支給される。 この額は飲食店の経営をどの程度、助けることになるのか。 法人企業統計調査で見ると、2020年7~9月期で飲食サービス業の零細企業では、1企業あたり1日4.7万円の赤字だ。企業あたりの店舗数が2、3店と考えられるので、協力金で赤字をカバーできる。それだけでなく、売上高を前年並みに補填するほどの効果がある。 今回、売り上げなどの落ち込みが、どの程度になるかは分からないが、零細個人事業者にとっても赤字はほぼ十分に補填され、家賃支援給付金などで重複した支援を得られる事業者もある。
国際ランキングで、トップから34位に転落 さまざまな国際比較ランキングで、日本の地位は低下を続けています。スイスの国際経営開発研究所(IMD)の世界競争力ランキングで日本の順位をみると、ランキングの公表が開始された1989年から1992年まで、日本は1位を維持していました。その後、順位が下がったのですが、1996年までは5位以内でした。 しかし、1997年に17位となり、その後、低迷を続けました。そして、2019年では、過去最低の30位まで落ち込んだのです。ここで止まらず、2020年版では、日本は34位にまで低下しました。30年の間に、トップから34位という、大きな変化が生じたのです。 デジタル技術では、2020年に日本は62位でした。対象は63の国・地域ですから、最後から2番目ということになります。 日本がこのように凋落し、世界の中での地位を下げてきたことは、日本国内で、必ずしも明確に認
岸田自民党新総裁は、格差是正により中間層を復活させる「令和版所得倍増」を掲げた。日本国内では、大企業と零細企業の間で資本装備率に大きな差がある。これが日本の賃金が国際的に見て低い原因でもあり、国内賃金格差の原因でもある。しかし、資本装備率を平準化するためには膨大な投資が必要であり、不可能に近い。今回は、これを解決する方法について提言したい。 1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。 noteアカウント:https://note.com/yukionoguchi Twitterアカウント:@yukionoguchi10 野口ホームペー
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