急患の搬送にも使われてきた長崎県五島市の奈留島で唯一の海上タクシーが、11月で廃業する。運航会社は操船スタッフの高齢化や船の老朽化などに加え、厳格化された国の安全基準への対応も重荷となり、苦渋の決断に至った。島民の命や物流などを支えてきたインフラを失う危機に、人口約1700人の島が揺れている。 「家族を病院に連れて行けない」 「海上タクシーは海の救急車。なくなれば死活問題だ」。奈留島で建設業を営む小田宣治さん(72)は声を強める。3年前、心臓の血管が詰まり体調が急変。点滴を受けながら海上タクシーに乗せられ、福江島の県五島中央病院へ。命をつないだのは、機動性に富む海上タクシーだった。 奈留島唯一の「奈留海上タクシー」は定員50人の船2隻と12人乗り1隻を所有し、操船は60~80代の3人が担う。船はいずれも船齢30年を超え、老朽化で部品調達も困難。国の制度改正による新たな安全基準への対応も重荷