小泉悠・評「『ラスボス』が語る地経学入門」 地経学という言葉を頻繁に目にするようになったのはいつ頃からだろうか。私の場合、「オッ、地政学かと思ったら違うのか。地経学なんていう言葉があるのか」というようなことを数年前に思った記憶があるので、おそらく横文字ではなく日本語で遭遇したのだろう。とすると、2020年代に入る頃には、もうこの概念が日本語になって言論空間で流通していたことになる。 そうこうするうちに2022年には地経学研究所(IOG)が設立されて、我が国における外交・安全保障議論の中心に「地経学」がドーンと鎮座しているということになった。本書『地経学とは何か─経済が武器化する時代の戦略思考─』の著者である鈴木一人教授は、まさにそのIOGの所長を務める人物である。ということは、日本における地経学議論のラスボスみたいな存在だ。そのラスボスが地経学について語る本書は、入門編として最適の一冊と言