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【関西レポート】特別展「CELADON―東アジアの青磁のきらめき」大阪市立東洋陶磁美術館で11月24日まで 多彩で繊細な青磁を唯一無二の空間で楽しむ

国宝《 飛青磁花生》元・14世紀 龍泉窯

大阪市立東洋陶磁美術館で特別展「CELADON―東アジアの青磁のきらめき」が11月24日まで開催中です。

均整のとれた黄金比に近いプロポーションを持ち、艶やかな翠色に茶褐色の鉄斑の配置が美しいことで知られる国宝《飛青磁花生とびせいじはないけ》など同館の青磁コレクションから中国・韓国の名品、日本や近現代の青磁作品を総覧できる展覧会です。

特別展「CELADON―東アジアの青磁のきらめき」
会場:大阪市立東洋陶磁美術館(大阪市北区中之島1-1-26)
会期:2025年4月19日(土)~ 11月24日(月・振替休日)
休館日:月曜日、11月4日(火)※ただし11月3日(月)は開館
開館時間:午前9時30 分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
入館料:一般2,000円、高校生・大学生800円
※中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1 名を含む)、
大阪市内在住の65 歳以上の方(要証明)は無料
詳しくは公式サイトへ。

ひとくちに青磁といっても、その美しくも繊細な“青”は実に多彩です。青磁最大の魅力である釉薬の色(釉色)は、焼成環境や胎土の色などによっても変わり、他にも時代や生産地によっても色合いは異なります。

重要文化財《青磁刻花牡丹唐草文瓶》北宋・11~12世紀 耀州窯 釉薬の下に彫り文様を施し、オリーブグリーンの釉薬を施した青磁

私達が一般的に青磁に対してイメージする色である青緑やヒスイのような「翡色ひしょく」だけなく、淡黄色、深いオリーブグリーン、黒に近い褐色、「天青てんせい」と呼ばれる雨上がりの空のような青味の強いものまで、実に幅広く豊かな色彩と味わいを持っています。そんな青磁の魅力や楽しみ方を同館学芸課長代理の小林仁さんに教えてもらいました。

世界初で唯一の自然採光展示室 「陶磁器が持つ本来の色や質感」を引き出す“光”へのこだわり

自然採光展示室の展示風景

「陶磁器(焼き物)の美しい色は、自然光の中で観るのが一番です」と小林さん。そのため、同館は、作品本来の色合いや質感を引き出す光にこだわっており、展示ケースのなかに天窓から自然光を取り込む世界初で唯一の「自然採光展示室」があります。

小林さんは、「これだけのレベルで青磁本来の微妙な色合いである“本当の色”を観ることができるのは、当館だけだと思います。美術品としての陶磁器を理想的な条件で鑑賞していただきたいとの思いで取り入れたシステムです」と力を込めます。

青磁水仙盆 北宋・11世紀末~12世紀初 汝窯

こちらは、北宋時代末に宮廷用の青磁を生産した汝窯じょようのもので、汝窯青磁は、世界にわずか90点余りしか残されていないため、大変貴重であり、日本で唯一の汝窯青磁水仙盆です。

汝窯青磁の特徴は、「天青」と呼ばれる釉色で、それは「雨上がりの雲の切れ間からのぞく空の色」(雨過天青)にたとえられるような、格調高い独特の淡いブルーです。

光によって色合いが左右されやすい陶磁。なかでも青磁について、小林さんは、「古来、秋の晴れた日の午前10時頃、北向きの部屋で障子一枚へだてたほどの日の光で観るのが一番良いと言われています」と説明します。写真は、9月の11時半頃に撮影した自然採光展示室に展示されている《青磁水仙盆》です。自然光の下で観ると「空の色」にふさわしい青味が強く感じられました。光によって、見え方が違うことを深く実感した作品です。

「この作品を観ていると、青磁は人工のものですが、天に例えるほど、自然を理想として、まるで自然を作り出しているようにも感じます」と小林さん。

生産地や時代ごとに特徴が違う、奥深い青磁の世界

《青磁印文四耳壺》後漢・1~2世紀 越窯

この《青磁印文四耳壺しじこ》は、中国・後漢時代の越窯で作られたもの。本展では、後漢時代から明代までの越窯、耀州窯、汝窯、南宋官窯、龍泉窯など中国歴代の青磁をコレクションで通覧できます。

《青磁輪花碗》五代・10世紀 越窯

古代中国で青磁の釉色は、権力者から重宝されてきた石「ぎょく」に例えられてきました。なかでも、唐・五代の越窯の最高級の宮廷用青磁は、「秘色ひしょく」と呼ばれ、玉のような色合いが好まれました。

翡色や文様が美しい高麗青磁

東アジア(中国・韓国・日本)で作られた青磁は、生産地や時代によっても特徴が異なります。本展では、高麗青磁(第2部)や日本の青磁(第3部)も詳しく紹介されます。

《青磁陽刻菊花紋碗》高麗・12世紀 翡色の釉薬による濃淡のグラデーションが美しい

10世紀頃、中国・浙江地方から朝鮮半島に青磁の技術が伝わり、生産されるようになった高麗青磁。12世紀前半には、中国青磁から離れて独自に発展し、ヒスイのような「翡色青磁ひしょくせいじ」を生み出します。

12世紀後半以降、彫った部分に白土や赤土を塗り込んで白黒の文様を施した象嵌ぞうがん青磁が盛んになりました。象嵌による装飾技法によって、高麗独自の青磁の世界が展開していきます

《青磁象嵌蓮唐草文鶴首瓶》高麗・12世紀後半~13世紀前半

《青磁象嵌蓮唐草文鶴首瓶かくしゅへい》は、胴部の文様の背景部分を削り落とし、白土を象嵌した「逆象嵌」の技法で蓮唐草文が施されています。「この作品は、逆象嵌の鶴首瓶としては、唯一無二の作例です」と小林さん。

《青磁染付雪中山水図皿》江戸 17世紀末~18世紀初 鍋島藩窯(伊万里・大川内山窯)大阪市立美術館(田原コレクション)

日本では、平安貴族の間で中国の青磁が珍重されるなど、古代から中国の青磁が尊ばれてきた歴史があります。そして、江戸時代に入ると、有田(佐賀県)で青磁が作られるようになり、その後、全国でも作られるようになっていきます。

青磁の楽しみ方

最後に小林さんに青磁の楽しみ方を聞きました。

まずは、少し離れたところから、色と形のバランスを楽しみ、最高のライティングのもとで青磁最大の魅力である「色」、そして艶や質感を味わいます。そして、今度は、近づいてよく見てみると、釉薬の中に生じた気泡など、ミクロの世界に気付くことができるでしょう。

光によって常に見え方が変わる不思議な魅力を持つ青磁の虜になってみませんか。(ライター・いずみゆか)

◇本展の関連書籍として刊行された、厳選された青磁の至宝約50点を紹介する1冊。美術展ナビオンラインストアで発売中です。3300円。