【プレビュー】「磯崎新:群島としての建築」 茨城・水戸芸術館で11月1日から 没後国内初の大規模回顧展 代表的な建築作品から現代アートとの関わりまで
水戸芸術館(茨城県水戸市)で「磯崎新:群島としての建築」が11月1日から開催されます。
磯崎新は20世紀を代表する最も創造的で先駆的な建築家として知られ、2019年に建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞しました。建築プロジェクトや都市計画にとどまらず、著作活動、芸術家や知識人とのコラボレーション、さらにはキュレトリアル・ワークを通じ、60年以上にわたり思想、美術、文化論や批評分野においても卓越した地位を確立しました。
磯崎は自身の著書『建築における「日本的なもの」』において、「グローバリゼーション状態のなかに沈殿物が発生し、これが〈しま〉をつくり、世界は無数の凝固の集合体としての、群島(アーキペラゴ)となるだろう。そのひとつの〈しま〉のつくりだされかたは、(中略)もっと多様に開発されねばなるまい」と記しています。
この「群島」という概念はイタリアの哲学者マッシモ・カッチャーリの著書『Lʼarcipelago』(1997年)に端を発しています。磯崎はこの概念を構想の手がかりとし、自身の思想や実践における重要な空間概念として積極的に用いるようになりました。
「群島としての建築」と題した本展では、決して単一の領域にとどまらない磯崎の活動を「群島」の様に構成します。「都市」「建築」「建築物」「フラックス・ストラクチャー」「テンタティブ・フォーム」「建築外(美術)」をキーワードに、建築模型、図面、スケッチ、インスタレーション、映像、版画、水彩画などの様々なメディアを通じて、磯崎の軌跡を辿るとともに、自身が設計した水戸芸術館を舞台に、建築の枠を超えた磯崎の活動を俯瞰的に紹介します。
| 磯崎新:群島としての建築 | 
|---|
| 会場:水戸芸術館 現代美術ギャラリー(〒310-0063 茨城県水戸市五軒町1-6-8) | 
| 会期:2025年11月1日(土)〜2026年1月25日(日) | 
| 開場時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで) ※館自体は9:30開館 | 
| 休館日:月曜日(11/3、11/24、1/12は開館)、11/4(火)、11/25(火)、年末年始(12/27〜1/3)、1/13(火) | 
| 観覧料:一般 900円、高校生以下・70歳以上無料 ※障害者手帳等をお持ちの方と付添1名は無料(年齢等の確認書類が必要) ※First Friday(学生・65〜69歳対象/毎月第1金曜:11/7、12/5、1/9)100円(学生証・年齢確認書類が必要) | 
| 問い合わせ:TEL029-227-8111(代表) | 
| アクセス:[JR]東京駅から常磐線特急で約72〜84分、水戸駅下車。北口バスターミナル4〜7番のりばより「泉町1丁目」下車、徒歩2分 [高速バス]東京駅八重洲南口から「みと号」水戸駅行で約100分、「泉町1丁目」下車、徒歩2分 [車]常磐自動車道 水戸ICより国道50号で水戸市街方面へ約20分。市営五軒町駐車場あり | 
| 展覧会の詳細は水戸芸術館 公式サイトまで。 | 
展覧会の概要
建築模型、図面、スケッチ、映像、写真、大型インスタレーション、アーカイブ資料などをもとに、磯崎の「建築」概念を検証します。さらにそれをどのように建築や都市プロジェクトとして実践してきたか、磯崎のあゆみと作品を包括的に振り返ります。
見どころ1:磯崎の手掛けた代表的な建築作品を網羅
磯崎が東京大学丹下健三研究室所属時に関わった《東京計画1960》(1961年)に始まり、アーバンデザイナーとして提案した《空中都市―新宿計画》(1960-61年 )、《空中都市―渋谷計画》(1960-62年)、《コンピューター・エイディッド・シティ》(1972 年)などアンビルトの都市計画、《大分医師会館》(1959-60年)や《福岡相互銀行本店》(1968-71年)、《旧大分県立図書館(現・アートプラザ)(1962-66 年)をはじめとする初期作品から《群馬県立近代美術館》(1971-74年)、《北九州市立美術館》(1972-74年)、《つくばセンタービル》(1979-83年)、《なら100年会館》(1992-98年)、《ラ・コルーニャ人間科学館》(1993-95 年)、《カタール国立コンベンションセンター》(2004-11年)など国内外の代表作を紹介します。
見どころ2:磯崎の建築界における功績を紹介
磯崎は建築のキュレーションともいえる仕事を通じ、一人の建築家という枠を越えて建築のプロジェクトを構想しました。本展では、多くの建築家を起用した《くまもとアートポリス》(1988-98年)、国際的に活躍する国内外の建築家6名に集合住宅を競作させた《ネクサスワールド》(福岡、1989-91年)のコミッショナーといったプロジェクトを通じて、磯崎の建築界における功績を紹介します。
見どころ3:現代美術との関わりについて
《奈義町現代美術館》(岡山、1994年)、《ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ》(2011-13年、アニッシュ・カプーアと協働)のようなアーティストとコラボレーションした建築プロジェクトや、パリ装飾美術館で開催された『間展』(1978-79年、79年に米クーパー・ヒューイット美術館巡回後、海外4都市で開催)のキュレーションなどにみられる戦後日本美術や現代美術との関わりを紹介します。
見どころ4:建築以外の仕事にも着目~水彩画や秘蔵のスケッチブックなど~
磯崎は建築模型や図面以外の様々なメディアで自身の作品を発表したことでも知られています。本展では群馬県立近代美術館などの70年代の主要建築をシルクスクリーンとして遺した「還元」シリーズ(1983年)、そして80年代後半から90年代前半に手がけた建築をモチーフにした24点の水彩画(1994年)を発表いたします。また、欧州、アメリカ、アジアをはじめとする世界の旅先で古典建築やモダニズム建築等を訪れ、その姿を70冊以上にもおよぶスケッチブックに記しました。これらスケッチブックには旅の記録だけではなく当時手掛けていた建築や展覧会そして執筆活動などの構想も残されています。磯崎のインスピレーションの源泉となった膨大な数のスケッチからその一部を紹介します。
見どころ5:水戸芸術館で磯崎建築を体感
1990年3月に開館した水戸芸術館は、画一的な近代建築を批判し、建築の根源的価値を再考するポストモダン建築の理念と実践を結実させた磯崎の代表作です。本展では水戸芸術館そのものを、出品作品のひとつとして“展示”します。あわせて刊行する『水戸芸術館ガイドブック』(監修・執筆:五十嵐太郎/デザイン:イスナデザイン)を手に美術館の内外を巡り、磯崎建築を体験できます。
磯崎新・プロフィール
1931年大分市生まれ。1954年東京大学工学部建築学科卒業。1963 年磯崎新アトリエを設立。以後、国際的な建築家として、大分県立図書館(現アートプラザ)、群馬県立近代美術館、ロサンゼルス現代美術館、バルセロナオリンピック競技場などを設計。近年では、カタール国立コンベンションセンター、ミラノアリアンツタワー、上海シンフォニーホール、湖南省博物館、中央アジア大学、中国河南省鄭州市の都市計画などを手がけた。世界各地の建築展、美術展のキュレーションや設計競技の審査員、シンポジウムの議長を務めた。代表的な企画・キュレーションに「間-日本の時空間」展(1978-81)、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館コミッショナー(第6~8回)、同展日本館展示「亀裂」で金獅子賞受賞(1996)など。建築思想の国際会議「ANY会議」を10年にわたり企画(1991-2000)。著書に『建築における「日本的なもの」』(新潮社、MIT Press) 、過去50年間にわたり書いてきた文章を編集した『磯崎新建築論集』(全8巻、岩波書店)など多数。建築のみならず、思想、美術、デザイン、文化論、批評など多岐にわたる領域で活躍。2019年「プリツカ―賞」受賞。
2025年は日本各地で多くの著名な建築家の展覧会が開催されていますが、磯崎新の没後初の大規模回顧展となる本展もまた、この秋注目したい屈指の建築展。巨匠が手掛けた建築の数々をはじめ、インスタレーション、映像、版画、水彩画まで、その活動の全容が楽しめる力の入った展示内容となっています。また、水戸芸術館は、磯崎が手掛けた代表作のひとつとしても知られます。本展とともに刊行される『水戸芸術館ガイドブック』を手に、シンボルタワーに昇ったり、館内をじっくり鑑賞して回るのも面白そうです。(美術展ナビ)
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