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2025-09-10

沈む陽の方へ

広場には旗がはためき、群衆叫びが渦を

巻いていた。

石壇に最初に立った者は声を張り上げた。

「我こそは力を示す者」

その声が響いたとき、一羽の鳥が空を

裂いて囁いた。

「力は影にすぎぬ」

次に壇に立った者は胸を張って言った。

「我こそは血筋を継ぐ者」

鳥は舞い降りて囁いた。

血筋は名にすぎぬ」

やがて別の者が壇に立ち、群れを背にして

叫んだ。

「我こそは群れを導く者」

鳥は屋根にとまり囁いた。

「群れは風向きにすぎぬ」

最後に壇に立った者は声を強く放った。

「我こそは声を届ける者」

鳥は枝を震わせて囁いた。

「声はやがて霞む」

だが群衆はその囁きを聞かなかった。

いや、そもそも耳を傾けてはいなかった。

壇に立つ声にも、鳥の囁きにも興味を

持たず、ただ日々の暮らしに疲れ、

沈む陽を追っていた。

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