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猫学 ニャンコロジー

[猫学]猫も鳥も大事にする日本発のプロジェクトを学ぼう

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科学部 宮沢輝夫

 私と暮らすノネコのハニー(メス、推定5歳)は東京23区に住んでいますが、出身地は同じ東京でも本土から1000キロ離れた小笠原諸島です。彼女は「ノネコ引っ越し作戦」によって、私のもとにやってきました。2月11日に開く、よみうりカルチャーの公開講座「猫学(ニャンコロジー)」(後援・東京都獣医師会、特別協賛・いなばペットフード)では、今年20年を迎えるノネコ引っ越し作戦について学びます。

“濡れ鼠”から飼い猫に

 このコラムで何度かご紹介したように、ハニーは推定生後5か月まで、小笠原諸島の父島で暮らしていました。巨大な台風が通り過ぎた父島の山中で、やせ細った ()(ねずみ) のような姿で捕獲され、地元のNPO法人小笠原自然文化研究所が運営する一時飼養施設「ねこ待合所」(ねこまち)に収容されました。2019年11月のことです。

 ねこまちでは、ノネコ世話係の石間紀子さんからハニーと名前を付けてもらい、1か月弱お世話になりました。本土に向けて出発したのは19年のクリスマス。定期船おがさわら丸で丸1日かけて東京・竹芝桟橋に着き、新ゆりがおか動物病院(東京都稲城市)の小松泰史院長に引き取られました。

濡れ鼠で捕獲されたハニーも今では飼い猫に。私を見上げてあくびをする
濡れ鼠で捕獲されたハニーも今では飼い猫に。私を見上げてあくびをする

 そのハニーは2020年4月、私のもとにやってきました。一緒に暮らして5年ほどになりますが、あわれな濡れ鼠だった姿とは別猫のように、生き生きと走り回っております。

「良い意味でびっくりした」

 世界自然遺産の小笠原諸島では2000年代、ノネコと呼ばれる野生化した猫が野鳥などを襲い、激減させていました。小笠原の生物の研究や保護に取り組む小笠原自然文化研究所は05年、ノネコの殺処分の方法を教えてもらおうと、東京都獣医師会副会長だった小松さんに電話を入れました。「ノネコを殺す必要はありませんので、送ってください」。この小松さんのとっさの一言から、今年で20年になるノネコ引っ越し作戦は始まったのです。

 今では環境省や林野庁、東京都、小笠原村のほか、定期船「おがさわら丸」を運航する小笠原海運なども協力し、約1100匹のノネコが飼い主を得ています。絶滅寸前だった国の天然記念物アカガシラカラスバトの生息数が大幅に回復するなどの成果を上げました。

カツオドリを襲い、小笠原諸島・母島で捕獲されたノネコ(後のマイケル)。人が近づくと、カゴが1メートルほど跳ね上がるくらい暴れた(NPO法人小笠原自然文化研究所提供)
カツオドリを襲い、小笠原諸島・母島で捕獲されたノネコ(後のマイケル)。人が近づくと、カゴが1メートルほど跳ね上がるくらい暴れた(NPO法人小笠原自然文化研究所提供)

 世界自然遺産の登録に先立つ2010年、私は国際自然連合(IUCN)から派遣された調査官に同行取材しました。ノネコ引っ越し作戦について、IUCNの調査官は「人道的なやり方ですばらしく、良い意味でびっくりした。NPOや住民が参加し、環境教育の機会にもなっている」と高く評価していました。小笠原にとってノネコは固有種を脅かす外来種で、海外で同様のケースがあれば、駆除の対象になり得るためです。

猫への深い理解につながる

 ノネコ引っ越し作戦の正式名称は小笠原ネコプロジェクトといいます。この日本発の独創的なプロジェクトを一人でも多くの人に知ってほしい。そんな願いから、「猫も鳥も守る――20年を迎えるノネコ引っ越し作戦」と題した、公開講座「猫学」を企画しました。

本土の動物病院に到着した当時のマイケル。小松さんは防護用の手袋を着けている(小松さん提供)
本土の動物病院に到着した当時のマイケル。小松さんは防護用の手袋を着けている(小松さん提供)

 当日はまず、小松さんが、最初に捕獲され、マイケルと名付けられたノネコがペットになった様子を画像や動画で解説します。100匹以上のノネコを迎え入れた小松さんの講義のタイトルは「凶暴な猫と仲良くなるコツ教えます」。警戒心が強い猫の扱い方を学びましょう。

人にかわいがられ、穏やかになったマイケル(小松さん提供)
人にかわいがられ、穏やかになったマイケル(小松さん提供)

 アニコム先進医療研究所研究員の松本悠貴さんは「小笠原の猫は欧米系?」と題して講義します。和猫の研究で画期的な成果を上げている松本さんは、現在進行形でハニーなどノネコ3匹の遺伝子解析を進めています。サンプルはまだ少ないですが、ゲノム情報によって小笠原のノネコのルーツの一端がわかるかもしれません。私もハニーの先祖がどこから来たのかが判明するのではとわくわくしています。

 都獣医師会副会長の中川清志さんは「小笠原ネコプロジェクトから学べること」をテーマに講義します。今回の公開講座の肝となるもので、NPOや獣医師会、行政、民間企業、動物園など様々な機関、個人が力を合わせて進めてきたノネコ引っ越し作戦の意義と課題を取り上げます。

 ノネコは野生化した猫です。猫は犬と違って、完全な家畜化はされず、半家畜と言われることもあります。祖先のリビアヤマネコと現代の猫は、その性質や身体能力に差はほぼありません。ノネコを知ることは、ペットの猫を深く理解するうえで、とても役立つと私は思っています。

 公開講座は2月11日午後2時から、東京・大手町の読売新聞東京本社3階「新聞教室」で開かれます。受講者には、読売新聞日曜版の人気漫画「猫ピッチャー」のグッズ、特別協賛のいなばペットフードから人気商品「CIAO(チャオ)ちゅ~る」などの詰め合わせのお土産もあります。

 受講の申し込みは、 よみうりカルチャーのサイト からお願いします。

―猫学事始め―

 人間にとって、猫という存在はなんなのか。猫にとって、人間という存在はなんなのだろう。

 古今東西の人々は猫を愛し、あるいは忌み嫌ってきた。猫は宗教や伝統をはじめ、絵画、文学、音楽といった芸術活動とも浅からぬ縁がある。

 昨今の日本ではペットの猫の数が犬を上回り、海外でも似た現象がある。猫は家族と同様の扱いを受け、一部では熱烈な愛護の対象ともなっている。他方で、野生化した「ノネコ」は希少な野鳥を絶滅に追いやりかねない「小さな猛獣」であることが、科学的な調査で判明している。

 猫学では識者へのインタビュー、猫にまつわるちまたの話題、科学部記者と暮らすノネコの日常をつづりながら、猫と人とのより良い関係に思いを巡らせていく。

 

プロフィル
宮沢 輝夫( みやざわ・てるお
 科学部次長。猫学者(ニャンコロジスト)。ノネコのハニーの飼い主。1998年入社。昆虫少年かつ文学少年として育ち、大学時代は動物写真家が目標だった。在学中の95年、小説「ハチの巣とり名人」で第7回舟橋聖一顕彰青年文学賞を受賞。著書に「生きのこるって、超たいへん!めげないいきもの事典」(高橋書店)、「秋田犬」(文春新書)など。趣味は筋トレで、ボディービル大会に出場したこともある。

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6284375 0 コラム 2025/02/04 11:00:00 2025/02/18 16:00:42 /media/2025/01/20250124-OYT8I50044-T.jpg?type=thumbnail

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