イランのライシ大統領や外相ら全乗員死亡 ヘリ墜落で 現地報道

テヘラン=佐藤達弥
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 イラン北西部の東アゼルバイジャン州で19日、ライシ大統領(63)を乗せたヘリコプターが墜落し、大統領のほか同乗していたアブドラヒアン外相ら搭乗者9人全員が死亡した。イラン国営メディアが20日伝えた。

 国営放送などによると、ほかに死亡したのは同州の知事や宗教指導者ライシ師の護衛役ら。ライシ師は19日、隣国アゼルバイジャンと共同で建設したダムの落成式に出席するため、同国との国境地帯を訪れていた。

 ライシ師は式を終え、午後1時ごろにヘリで離陸し、約30分後に交信が途絶えた。20日、軍などによる捜索活動の結果、同州の森林の中でヘリの残骸が見つかった。

 このほか、政府関係者らを乗せたヘリ2機が同時に離陸し、濃霧などの悪天候のため、緊急着陸したが、無事だった。イランのバヒディ内相は19日、トラブルの理由を悪天候と説明していた。

 ライシ師らの死去を受け、イラン政府は20日声明を発表。「大統領はイランの偉大な国民に奉仕すること以外を知らず、国家に命を捧げた」とし、「全能の神の助けと高潔な人民との絆により、国の運営にはいささかの問題もない」と強調した。

 ハメネイ最高指導者は20日、「勤勉だった人民の大統領の殉教に関するつらい知らせを受け取り、非常に悲しんでいる」とする声明を出し、5日間を国民が喪に服する期間と宣言した。

 ライシ政権の閣僚らは20日に緊急の会議を開き、今後の対応を話し合った。イラン憲法の規定では、大統領が死亡するなどして欠けた場合、第1副大統領がその職務を引き継ぐことになっている。

 第1副大統領は国会の議長、司法長官との間で協議会をつくって50日以内に大統領選を行う。ライシ政権を支えてきた保守強硬派や、同政権に批判的だった改革派と呼ばれる人々の間で今後、候補者選びをめぐる議論が加速するとみられる。

 ライシ師はイスラム法学者で、イラン北東部にあるイスラム教シーア派の聖地マシュハドに生まれた。今のイスラム共和国体制が成立したイラン革命を18歳で経験後、司法界に身を置いた。テヘラン州副検事長だった88年には反体制派の大量処刑があり、関与が取りざたされてきた。

 検事総長や司法長官を経て、2021年の大統領選で初当選。イランでは最高指導者が権力を握り、体制に大きな影響はないとみられるが、ライシ師は80歳を超えたハメネイ師の側近で、後継者の有力候補だっただけに、後継者選びで動揺が生じる可能性がある。

 米国の経済制裁が続く中、外交面では中国やロシアへの傾斜を強めた。22年には、ウクライナに侵攻中のロシアにドローンを提供したとして米欧の批判を浴びた。昨年7月には、中ロが主導する国際協力の枠組み「上海協力機構」の正式加盟承認にこぎ着け、その翌月には中ロやインドなど新興国の枠組み(BRICS)への加盟も決まった。

 一方、米国を後ろ盾とするイスラエルとは激しく対立した。昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まると、イスラエルへの非難を強めた。今年4月に在シリアのイラン大使館がイスラエルによるとみられる空爆を受けると、報復措置としてドローンやミサイルで史上初となるイスラエル本土への攻撃に踏み切った。(テヘラン=佐藤達弥)

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