「ママは治らない」絵本で伝えたお別れ がんの妻は娘たちを信じた

有料記事がんとともに患者を生きる

松本千聖
[PR]

 「胸にしこりがあるよね」

 東京都の天野暁(あまのさとる)さん(39)が、妻の亜美(あみ)さんから相談されたのは2021年6月のことだった。

 亜美さんは当時38歳。夫婦で教員の仕事をし、6歳の長女と、2歳の長男の子育てに忙しかった。すぐに病院で詳しい検査を受けた。

 診断は乳がんだった。腫瘍(しゅよう)は数センチほどの大きさで、抗がん剤を使って小さくしたうえで、乳房の部分切除をすることになった。

 治療方針が決まったが、子どもたちに「ママのがん」をどう伝えるか。夫婦にとって大きな悩みのひとつになった。特に小学生になったばかりの長女は、繊細な性格で心配だった。

 「薬で悪いものを倒すんだけど、倒し過ぎちゃって体が弱くなっちゃうんだ」。亜美さんと暁さんは「がん」という言葉を出しつつ、脱毛など抗がん剤治療の副作用について説明した。

「余命6カ月」と告げられ

 21年の年末、亜美さんは切除手術を受けた。その後の病理検査で、再発・転移のリスクが高いことがわかった。

 「悔いのないように生きる」。年が明けた22年1月、亜美さんは日記にそう書き込んだ。

 11月、亜美さんは息苦しさ…

この記事は有料記事です。残り2215文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

  • commentatorHeader
    磯野真穂
    (東京工業大学教授=応用人類学)
    2024年5月12日11時0分 投稿
    【視点】

    涙を禁じ得ない記事でした。 「死者と生きる」とは、どういうことかをよく考えます。それには色々な回答があるのだと思いますが、私にとってそれは、迷った時に帰る場所です。 絵本を通じて、お別れを直接伝えられたお子さん二人は(特に6歳の長女さん

    …続きを読む