第6回「それは機密事項です」米国で生産始まった移植用ブタ、見据える未来

有料記事ブタは人類を救うのか 臓器移植が変わる日

合田禄=ワシントン 野口憲太
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A-stories 「世界競争」の始まり(2)

 日本で初めて生まれた、ヒトへの臓器移植を目的にした遺伝子改変ブタ。そのルーツは米ハーバード大発のバイオベンチャーにある。

 異種移植をめざす米企業「eGenesis(イージェネシス)」。日本で生まれた遺伝子改変ブタの元となる細胞を提供した。

 同社は米国で今年、遺伝子改変のブタから取り出した臓器のヒトへの「移植」に立て続けに成功している。

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 今年3月。イージェネシスの遺伝子改変ブタの臓器が62歳の男性患者に移植された。

 ボストンにあるマサチューセッツ総合病院で手術を受けたのは、末期腎不全の患者。一度、ヒトの腎臓を移植する手術を受けたが、その腎臓もうまく機能しなくなり、2度目の移植をすぐに受けられる状況ではなかった。

 ブタの腎臓を移植した後、患者は順調に回復して、約2週間後に退院した。

 執刀したハーバード大教授の河合達郎は、手術後の取材に、「手術はうまくいき、腎臓も機能している。少なくとも2年、希望としてはもっと長く腎臓が機能してほしい」と話した。

 河合はこれまで、数千例の腎臓移植を手がけてきた。5年ほど前から異種移植の研究にも携わるようになり、ブタの臓器を移植されたサルが長く生き続けるのを見て、異種移植の可能性を感じてきた。

 世界初となるヒトからヒトへの臓器移植も1954年、ボストンの関連病院で実施され、その臓器は腎臓だった。「ようやくここまで来た。(今回の異種移植は)54年の腎移植に次ぐマイルストーンになるだろう」

 だが病院は5月11日、患者が移植から約2カ月後に亡くなったと公表した。病院は「移植の結果だと示すものはない」とコメントを出していて、死亡と移植との関連はわかっていない。

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 イージェネシスが腎臓よりも早く、現実的に患者の治療に結びつく可能性があるとみているのが肝臓だ。

 今年1月、米東部の名門ペンシルベニア大の移植研究所で、同社の遺伝子改変ブタの肝臓を体外で脳死患者とつなぎ、患者の血液をめぐらせる研究が実施された。

 ブタの臓器に人間の血液を巡らせ続け、拒絶反応が起きないかを確かめる。それが目的だった。

 予定されていた72時間、血流や血圧は安定し、うまく胆汁も産生できた。拒絶反応はみられず、肝臓は健康な状態を保った。

 この研究の先にある将来的な…

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