「この世で一番大きい生命体って何か知ってる?」
友人からの素朴な疑問にすぐ答えられずにいた。“シロナガスクジラ”と答えたけれど、友人の答えは、カリフォルニア中央部に生息するジャイアントセコイアと言われる巨木。“世界最大の生命体”には諸説あるようだが、セコイア・キングスキャニオン国立公園にその巨木の育つ森がある。壮大なアメリカ大陸から生まれた世界最大級といわれる生命体を、この目で見に旅してきた。
取材協力:カリフォルニア観光局、バイセリア観光局、スターラックス航空
セコイアの巨木“シャーマン将軍の木”
その木は“シャーマン将軍の木”と呼ばれ、南北戦争の北軍の指導者ウィリアム・シャーマンにちなんで名付けられた。現存する世界最大の樹木とされ、根元の幹の周囲31.1メートル、高さ83.8メートル、樹齢およそ2200年、体積は約1487立方メートルと推定されている。
そんな知識を詰め込み、頭でっかちのまま国立公園に向かったものの、公園のエントランスからすぐ見られるものではかった。公園の広さは東京都の1.6倍、目的の“シャーマン将軍の木”まではエントランスから車で50分ほどかかる。道はまるで日光の「いろは坂」のように曲がりくねり、車酔いの心配をよそに、車窓からの景色は緑の海へと変貌(へんぼう)していった。
車を走らせていると、森が焼けた箇所を何度も見かけた。実は、自然に起きた山火事は、ジャイアントセコイアの繁殖に重要な役割を果たす。火事の熱で種子を放出し、火事でできた灰はセコイアの種子の発芽を助けるのだという。
それにしても“将軍”はなかなか顔を出してくれない。じらされつつ「いろは坂」をこれでもかと進むと、徐々にセコイアの赤い巨木がポツンポツンと見えてくる。“将軍”はこれ以上にでかいのか。そしてエントランスから約1時間、ようやく出会えた。
森に静かに佇む古代の巨人
カメラ片手にその巨大な生命体に圧倒された。一体どうやったらこの存在感とスケールを写真で伝えられるだろう。人間の驚きや反応など関係なく、2千年以上もここに佇(たたず)んできた姿に感動が込み上げてくる。古代の巨人と同じ時を過ごす貴重な時間が静かに流れていた。
この威厳のある堂々としたカラダを持っているものの、実はとても繊細な生態を持つ。ジャイアントセコイアは、カリフォルニアを縦貫するシエラネバダ山脈の西側、標高約1200~2500メートルの限られたエリアにしか生えていない。また、ヨセミテ国立公園などでみられる長さ30センチもあるシュガーパインの松ぼっくりに比べて、セコイアの実はとても小さい。
“フレンドリー”なセコイアの巨木たち
“シャーマン将軍の木”を見ることに集中していたが、実はそれ以外にも惹(ひ)かれるジャイアントセコイアは国立公園内にたくさん生えている。
“シャーマン将軍の木”は、保護のために塀で囲まれていて、触れることはできない。ある意味、神木化されていて少し距離を感じていた。だが、この森には“フレンドリー”で自由に触れられるジャイアントセコイアがたくさんある。そういった木に触れて、抱きついて、匂いを嗅ぐと、この木を、この森をもっと身近に感じることができる。
いくつか木を見ていると黒く焼けた箇所があることに気づく。かさぶたのような、黒い傷のようなものは、山火事を生き抜いてきた証しだ。焼けた草木は、ジャイアントセコイアが成長するための栄養素になり、それを吸収して巨木はさらに成長していく。最近の気候変動による乾燥化は生態系に悪影響を及ぼす可能性もあるらしいが、自然に起こる火事によってこの森は自然な循環が保たれている。
自然に触れ、癒やされる場所
この森には、至る所に倒木があり、ベンチやテーブルがわりにしてピクニックを楽しんだり木陰で休んだりしている人もいる。少し弾力があるから座っていても痛くない。この場所に身を置いて巨木を眺めているだけでも、癒やされてくる。ここで話す仲間との会話はきっと街でする会話と違ってくるはずだ。
木陰に腰掛けてこの大自然を感じていると、草むらから物音が。振り向くと、突然目の前を野生の鹿が走り抜けていった。入山制限されている国立公園では人間のことをあまり気にせず、野生動物もリラックスして過ごせているのかもしれない。
遊び心を忘れないカリフォルニア人
倒木をただの椅子だけにしておかない遊び心を持つのもカリフォルニア人。木をくりぬいて、人だけでなく車さえも通れる大きなトンネルを作った。皆がそこを通りたくて車も人も渋滞するほど。元々倒木があるところに道を作ったのか、もしくは、道に倒木を置いたのかは定かではないが、この大胆な体験をできるのもカリフォルニアだ。
悠久の時間が流れる森は、とても静か
アメリカ大陸に深く根を下ろし、何世紀にもわたって時を刻んできたジャイアントセコイアの森は悠久の静けさがあった。家族や友人と訪れている人も、一人で来ている人も、その巨木を前にそれぞれのゆったりとした時間を過ごしている。
ただただ巨木はそこに佇み、他の植物や動物たちと共存している。2千年以上の間、ここでどんな風景を眺めてきたのだろう。その静寂の中、その木をこの目で見て触れながら、この大地を、この地球のことをぼんやりと考えた。 
カリフォルニア観光局 https://www.visitcalifornia.com/jp
バイセリア観光局 https://www.visitvisalia.com
スターラックス航空 https://www.starlux-airlines.com/ja-JP