ドイツビールの取材を30年以上続ける作家・写真家の相原恭子さんが、オクトーバーフェストで知られるミュンヘンを出発点に、欧州屈指の醸造所密集地帯「フランケン・ビール街道」の6つの町を北上するビール紀行*。伝統的なビール文化と現代のライフスタイルの深い関わりを、おいしい郷土料理や地ビールの写真とともに全4回で紹介します。第1回は、ミュンヘンとニュルンベルクを訪れました。
*ミュンヘンとその他6つの町はすべてバイエルン州に属します
ミュンヘン最古のビアガーデンへ
バイエルン出身のドイツの友人たちと東京を散歩していた時のこと、「キョウコ、ビアガーデンへ行きたい!」と言うので、ビルの屋上のビアガーデンへ行くと「え?これがビアガーデン? ビアガーデンとは広い庭に大きな栗や菩提樹(ぼだいじゅ) の木が何本もあって、木の椅子とテーブルに腰かけて…」と彼らは熱っぽく語りました。ビアガーデンの伝統を誇りにしているバイエルン人の気質を実感しました。
ミュンヘンは世界最大のビール祭りであるオクトーバーフェストで知られますが、春から夏、秋にかけて戸外で過ごせる時期にはビアガーデンははずせません! ミュンヘン中央駅から歩いて15分ほど、アルヌルフ通りにある「アウグスティーナー・ケラー」のビアガーデンへ向かいました。ミュンヘン最古のビアガーデンとされ、レストランもあります。
1812年のミュンヘン市街図にこのビアガーデンが記されており、今も19世紀末の外観を保っています。100年以上も前の伝統的なスタイルが今に受け継がれて、現代人にも魅力的であることの証しといえます。
大通りに面していますが、一歩ビアガーデンへ入ると、緑の香りがして森の中へ入ったような気分です。バイエルン人が言ったように、ここは広大な庭(ガーデン)で100本以上もの大きな栗の木がそびえ、コンクリートを打っていない地面に木のテーブルと椅子5,000席が並んでいます。
気の合う仲間と、好みのビールを飲んで「幸せな気分!」と上機嫌。リラックスできる癒やしがあるのがビアガーデンです。8月の午後8時はまだ明るくて、あちこちでビールを囲む人々の姿があります。盛り上がるのはこれからです。
ビアホールやビアガーデンには「シュタムティッシュ(Stammtisch)」と呼ばれる常連客用のテーブルがあります。近年は設けていない店もありますが、この店にはシュタムティッシュはもちろん、ビアガーデンへ自分たちのテーブルを持ち込んで設置している人たちがいます。手作りのテーブルに好みの焼き印を押して、ビアガーデンのシーズンが終わるとテーブルを自分たちの倉庫に運んでメンテナンスして保管して、来シーズンにまたテーブルを持ち込むそうです。
ビアガーデンに自分の居間があるような気がしてうれしくなるそうです。人と人との関係が希薄になったといわれる今も、店と常連客たちとの親密なつながりが大都市ミュンヘンに生きています。