「定年」という言葉にはどこか「終わった人」の響きが感じられ、何か暗い気持ちにさせられる。作家の楠木新さんは「私自身、70代になって『隠居』こそ目指すべきひとつのゴールだと思えるようになった。『仕事を退いてのんびり暮らす』だけでなく、『好きなことをして過ごす』という意味合いが含まれているからだ」という――。(第5回/全5回)

※本稿は、楠木新『定年後、その後』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

隠居のススメ

日本には、定年に近い概念として「隠居」がある。隠居は、辞書を見ると「仕事や生計の責任者であることをやめ、好きなことをして暮らすこと(人)」とされている。

実は、8年前に『定年後』を執筆した時に、隠居についていろいろ調べたことがある。その時は、「定年」をいくつかの角度から検討するために参考として取り上げた。

しかしながら、今回「定年後、その後」を吟味していくなかで、まさにこの隠居こそが目指すべきひとつのゴールのように思えてきた。隠居には、単に「仕事を退いてのんびり暮らす」というだけでなく、好きなことをして過ごすという意味が含まれているからだ。

自然の中で家族を見ている老夫婦
写真=iStock.com/skynesher
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老いても自分で考える

京都・錦小路にあった青物問屋の主人だった伊藤若冲いとうじゃくちゅうが40歳で家督を弟に譲って動植綵絵どうしょくさいえを描き始めたことや、49歳で家業をすべて長男に譲って全日本地図の作成に携たずさわった伊能忠敬いのうただたかなどが隠居の例として挙げられる。

好きなことをして暮らす点がポイントなのだ。

「定年」は、退職・引退という点が中心で、その後のことにはイメージが及んでいない。「定年後、その後」を隠居の位置づけにするためには、主体的な意思や姿勢が不可欠だといえる。老いても自分で考えることが重要だ。

「定年後、その後」になったら、多額のお金を稼いだり、地位や役職に執着したりするのはみっともない。趣味に興じ、草花を愛し、ゆったりした時間を過ごす。

働くにしても道楽として取り組み、若い世代を盛り立てて応援するなど、社会との新しい関わり方を個人個人が見出すことが大切だろう。

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