東日本壊滅はなぜ免れたのか? 取材期間13年、のべ1500人以上の関係者取材で浮かび上がった衝撃的な事故の真相。他の追随を許さない圧倒的な情報量と貴重な写真資料を収録した、単行本『福島第一原発事故の「真実」』は、2022年「科学ジャーナリスト大賞」受賞するなど、各種メディアで高く評価された。文庫版『福島第一原発事故の「真実」検証編』より、その収録内容を一部抜粋して紹介する。
『福島第一原発事故の「真実」検証編』連載第13回
40年間、ただの“装置”として眠っていたイソコン。しかし、その沈黙は事故の8ヵ月前、密かに破られていた。なぜこれまでの数々のトラブルでは一度も動かなかった冷却装置が、東日本大震災発生直後、突如起動したのか。その謎を解く鍵は、取材班のもとに届いた一通のメールに隠されていた。
『なぜ「非常用冷却装置の停止」を見過ごしていたのか? 背景にある危機感の欠如と日本の構造的問題を明かす』より続く。
「実動作試験」が取り入れられるか
福島第一原発事故から6年が経った2017年4月、日本の原子力の安全規制を担う原子力規制委員会は、原発の検査制度の大幅な見直しに着手した。事故から得た教訓を踏まえ、事故リスクを減らす検査制度に変えていくのが目的だった。この見直しで取材班が注目したのは、日本でも「実動作試験」が取り入れられるかどうかだった。
実動作試験とは、原発の重要な機器を実際に動かすことで、正常に作動するかどうかを確認する試験である。アメリカではこの実動作試験が行われていたからこそイソコンが定期的に動かされていたのである。
検査制度の見直しが始まる時点で、原子力規制庁の幹部は取材班に対し、「福島第一原発事故の問題の一つは、イソコンの作動状況を誤認してしまったことだと、我々も考えている」と明らかにした。そのうえで「運転員が機器を動かす経験をきちんと積んでいるかが重要だ」と述べて、実動作試験は運転員の経験にもつながるということも踏まえて検討していく考えを示した。
ただ、幹部は、実動作試験は運転中の原発で行うことがあるため、設備によってはトラブルにつながるリスクもあることから、導入は極めて慎重に検討していかなければならないとも付け加えた。
確かに、運転中の原発で、イソコンのような冷却機器を実際に動かすことは、場合によっては、原子炉の状態が変化して不安定になり、トラブルにつながりかねない。日本では、こうしたリスクに慎重になる傾向がある。
一方で、実動作試験を行ってこなかったことで、運転員は、事故発生時にぶっつけ本番で冷却装置を動かすことになった。弁の開閉試験や研修は行っていたとはいえ、経験不足という大きなリスクを背負ったことも否めない。