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“納得の1社”を選ぶ時代へ。「ピンポイント就活」の実態~2026年卒新卒採用の振り返り~

井出 翔子
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
SHOKO IDE

政府の関係省庁連絡会議では、就職・採用活動日程における正式な内定日を卒業・修了年度の10月1日以降としている。多くの企業が内定式を執り行うこのタイミングに合わせて、マイナビキャリアリサーチLabでは、2026年卒学生の動向や企業の採用活動について講演を実施した。本コラムはその内容を紹介するものである。

2026年卒採用の予想

2025年(前年)卒採用の結果

前年の2025年卒採用では、採用充足率(内定者数/募集人数)は70.0%(前年比5.8pt減)と、採用スケジュールが変更された2017年卒以降、同時期の調査と比較して過去最低の結果だった。また、内定者満足度について聞いた結果をみても、「量・質とも満足」の回答はコロナ禍以降、減少傾向となり、2025年卒では22.5%と、前年と同程度に低い水準となった。【図1】

【図1】 「採用充足率」と「内定者満足度」の年次推移 / 2025年卒企業新卒内定状況調査
【図1】 「採用充足率」と「内定者満足度」の年次推移 / マイナビ2025年卒企業新卒内定状況調査

2026年卒採用開始前の採用環境の見通し

前年までの傾向も踏まえ、2026年卒採用の予定を聞いた調査では、新卒全体の採用環境の見通しが「厳しくなる(非常に厳しくなる+厳しくなる)」と回答した企業は78.1%と、前年より1.5pt増加した。【図2】

【図2】採用環境の見通し / マイナビ2026年卒企業新卒採用予定調査 
【図2】採用環境の見通し / マイナビ2026年卒企業新卒採用予定調査 

2026年卒学生の動向

学生優位の売り手市場となれば、学生の活動量の減少や、内々定保有社数の増加が予想される。

しかしながらその予想に反し、近年平均エントリー社数は減少傾向であったところから一転し、2026年卒では増加となった。【図3】

【図3】平均エントリー社数・経年比較 / マイナビ2026年卒 大学生キャリア意向調査6月<就職活動・進路決定>
【図3】平均エントリー社数・経年比較 / マイナビ2026年卒 大学生キャリア意向調査6月<就職活動・進路決定>

また内々定を保有する社数についても近年増加傾向であったが、2026年卒では減少し、1.73社となった。【図4】

【図4】保有内々定社数(平均) / マイナビ 2026年卒 内定者意識調査
【図4】保有内々定社数(平均) / マイナビ 2026年卒 内定者意識調査

このような結果をみると、売り手市場だと思われた2026年卒は買い手市場だったのではないかという疑問が浮かぶ。

ピンポイント就活

売り手市場か、買い手市場かを結論付ける前に、2026年卒においてみられる特徴的な動きである、ピンポイントで行われる就職活動についてみていきたい。

平均エントリー社数・経年比較(2月までの活動)

平均エントリー社数の累計結果をみると、近年減少傾向であったのが2026年卒では増加に転じていた。しかしながら、これを2月までの結果のみに着目すると、近年増加傾向にあったのが2026年卒では減少に転じるという、逆の動きがみられる。【図5】

【図5】平均エントリー社数・経年比較(2月まで) / マイナビ2026年卒 大学生キャリア意向調査6月<就職活動・進路決定>
【図5】平均エントリー社数・経年比較(2月まで) / マイナビ2026年卒 大学生キャリア意向調査6月<就職活動・進路決定>

これまでに参加したことのあるインターンシップ・仕事体験の参加期間

この背景にあるのは、インターンシップ等の活動だ。三省合意でのインターンシップの定義改正により、インターンシップと呼称できる条件の一つとして、5日間以上であることが定められた。その結果、企業の開催内容としても、学生の参加としても、5日間以上のプログラムが増加している。【図6】

【図6】これまでに参加したことのあるインターンシップ・仕事体験の参加期間 / マイナビ 2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(中間総括)
【図6】これまでに参加したことのあるインターンシップ・仕事体験の参加期間 / マイナビ 2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(中間総括)

インターンシップ・仕事体験参加率

その結果、インターンシップ・仕事体験(※)の参加率は前年と同程度だったが、参加社数は前年から減少し、2026年卒では5.2社となった。取り組む期間が長くなった分、参加社数が減少したものとみられる。【図7】

※2013~2015年卒の調査時期は11月、2013~2023年卒までは「インターンシップ」として聴取
平均値の集計方法が卒年によって異なるため、2024年卒以前の結果は参考値
(2013年卒:数値回答、2014~2024年卒:選択肢式「1~5,6社以上」、2025年卒以降:選択肢式「1~20,21社以上」)

【図7】インターンシップ・仕事体験参加率/平均参加社数 / マイナビ 2026年卒 大学生広報活動開始前の活動調査
【図7】インターンシップ・仕事体験参加率/平均参加社数 / マイナビ 2026年卒 大学生広報活動開始前の活動調査

低学年時にキャリア形成支援活動に参加した経験

また2026年卒学生は、1・2年生のうちからキャリア形成支援プログラムに参加している割合が前年以上に増え、約半数の学生が経験している。【図8】

【図8】低学年(大学1・2年)時にキャリア形成支援活動に参加した経験 / マイナビ 2027年卒大学生キャリア意向調査4月<インターンシップ・キャリア形成活動>
【図8】低学年(大学1・2年)時にキャリア形成支援活動に参加した経験 / マイナビ 2027年卒大学生キャリア意向調査4月<インターンシップ・キャリア形成活動>

これまではインターンシップや仕事体験は半日や1日のプログラムも多く、本選考へのエントリーは“浅く広く”することが多かった。しかし、2026年卒では、長期のプログラムや低学年時からの参加など、丁寧なキャリア形成活動が浸透し、“狭く深く”エントリーするスタイルに移り変わっているようだ。

保有内々定社数の内訳

内々定を得た学生について、保有する内々定社数の内訳をみてみると、「1社」の割合が前年から2割ほど増加し、2026年卒では62.2%となった。【図9】

【図9】保有内々定社数の内訳 / マイナビ 2026年卒 内定者意識調査
【図9】保有内々定社数の内訳 / マイナビ 2026年卒 内定者意識調査

入社意志の最も高い企業への満足度

内々定先の中でもっとも入社意志の高い企業への満足度を5段階で聞いた結果を、内々定保有社数別にみてみると、「十分満足している」割合は、内々定「1社」と「5社以上」の場合の満足度は同程度だった。しかしながら内々定が「2社」「3社」「4社」の場合は、それよりも満足度が低い。【図10】

【図10】入社意志の最も高い企業への満足度/内々定保有社数別 / マイナビ 2026年卒大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>
【図10】入社意志の最も高い企業への満足度/内々定保有社数別 / マイナビ 2026年卒大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>

内々定が複数あれば幅広い選択肢から入社先を決定することができるため、内々定「1社」の学生よりも複数内々定を得ている学生の方が満足度が高いのではないかと思われたが、内々定が「1社」の方が満足度が高い結果となっている。

ピンポイント就活のイメージ

これまでは短期のインターンシップ・仕事体験の参加企業に加え、全体で20社程度の企業に“浅く広く”エントリーをし、2・3社の内々定を得て、最終的な1社を選ぶのが一般的だった。

しかしながら2026年卒では低学年向けのプログラムに参加した企業や、長期のインターンシップ・仕事体験に参加した企業を中心に数を絞って“狭く深く”エントリーをし、満足度の高い1社から内々定を得て、そのまま就職活動を終了する、という動きがトレンドとなってきている。【図11】

【図11】ピンポイント就活のイメージ
【図11】ピンポイント就活のイメージ

ピンポイント就活を「1社内々定×満足度高群×活動終了」と定義すると、7月の調査時点で44.4%が対象の層であることがわかった。【図12】

【図12】ピンポイント就活の実施率 / マイナビ 2026年卒大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>
【図12】ピンポイント就活の実施率 / マイナビ 2026年卒大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>

これまでは複数社の内々定を得て、満足度高く終了する層が、売り手市場における学生の典型的なイメージであった。しかし、2026年卒の売り手市場においては、この「1社内々定×満足度高群×活動終了」のピンポイント就活の層が、ニュースタンダードとなってきているようだ。

ピンポイント就活層の内々定時期

ピンポイント就活を実施している層について、入社予定先から内々定を得た時期を聞くと、3~6月と幅広いピークとなっていた。昨今の企業の採用活動の早期化が指摘される状況にあっても、周囲に流されず、じっくり見極めているような様子がうかがえる。【図13】

【図13】入社予定先(入社意思の最も高い企業)から内々定を得た時期 ※ピンポイント就活層のみ / マイナビ 2026年卒大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>
【図13】入社予定先(入社意思の最も高い企業)から内々定を得た時期 ※ピンポイント就活層のみ / マイナビ 2026年卒大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>

部分売り手市場

部分売り手市場とは

2月までのエントリー数の減少は、「ピンポイント就活」という新たなトレンドが要因となっていることがわかった。しかしながら、【図3】の通り、累計のエントリー数は増加している。

これは売り手市場であっても苦戦している学生が一部おり、彼らが全体のエントリー数を引き延ばしているからだ。それは、内々定を保有しながらも活動を継続する学生と、未内々定の学生である。【図14】

【図14】売り手市場であっても苦戦している学生層 / マイナビ 2026年卒大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>
【図14】売り手市場であっても苦戦している学生層 / マイナビ 2026年卒大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>

4月時点で、それ以降、何社くらい選考を受けようと考えているかを聞いた結果では、未内々定者、内々定を保有しながら活動を継続する学生の双方ともに、前年より増加していた。【図15】

【図15】今後、何社くらい選考を受けようと考えているか(4月時点) / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動・進路決定>
【図15】今後、何社くらい選考を受けようと考えているか(4月時点) / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動・進路決定>

活動継続者の不安

未内々定者に就職活動の不安とその内容を聞いた結果では、約8割が不安があると答え、またその内容としては、「1つでも内々定をもらえるかどうか(66.7%)」が最多であった。【図16】

【図16】就職活動に対する不安(未内々定者のみ) / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動・進路決定>
【図16】就職活動に対する不安(未内々定者のみ) / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動・進路決定>

また内々定を保有しながら活動を継続する学生においても約6割が不安があると回答しており、その内容としては「現在の内々定先に入社してよいのか(52.8%)」がもっとも多かった。【図17】

【図17】就職活動に対する不安(内々定あり活動継続者のみ) / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動・進路決定>
【図17】就職活動に対する不安(内々定あり活動継続者のみ) / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動・進路決定>

内々定を得ていても納得できず、前年以上に活発に活動する学生の動きがうかがえる。

以上のように売り手市場であっても一部の学生は苦戦を強いられている状況だ。2026年卒の市場はひとまとめに「売り手市場」と語るには難しい、複雑な様相となっている。

おわりに

2026年卒の就職活動は、従来の“浅く広く”から“深く狭く”への転換点となった。そして1社の内々定で活動を終了する「ピンポイント就活」が、新たなスタンダードとして台頭している。一方で、未内々定者や活動継続者の動きは前年以上に活発化しており、“部分売り手市場”という実態も見えてきた。

インターンシップ等を通じ、キャリアの焦点化が進むことは望ましいが、行き過ぎた「ピンポイント就活」には注意が必要である。「これしかない」と思える仕事に出会えたなら迷わず進めばよいが、万が一うまくいかなかった場合、再始動に苦労するリスクもある。

もしかすると、就職先として検討していた企業と、顧客や協業先、もしくは競合として再度出会うかもしれない。転職や副業の場面で思い出すこともあるだろう。キャリアには多様な可能性が広がっている。だからこそ、今の選択が将来の選択肢を狭めないよう、少しだけ視野を広げておくことが、未来の自分にとって価値ある経験となるのではないだろうか。

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