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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第359回

高市首相が狙う“テクノロジー立国” AI、半導体、スタートアップを総合支援

2025年10月28日 07時00分更新

文● 小島寛明

 高市早苗・自民党総裁が初の女性首相になり、新しい政権がスタートした。

 2025年10月24日には、高市首相は就任後初めての所信表明演説をした。主要メディアでは、経済や安全保障、物価高対策に関わる政策に注目が集まったが、高市首相の所信表明演説や関連する文書を確認すると、この連載のテーマであるテクノロジーに関連する分野への言及は多い。

 テクノロジーに関わる政策について、新政権の方針がもっとも端的に表現されているのは、以下の部分だろう。

 「AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、サイバーセキュリティ等の戦略分野に対して、大胆な投資促進、国際展開支援、人材育成、スタートアップ振興、研究開発、産学連携、国際標準化といった多角的な観点からの総合支援策を講ずることで、官民の積極投資を引き出します」

 この総花的な一文だけでは、具体的にどんな政策を意図しているのかまでは読み取れないが、可能な限り、高市政権のデジタル政策について、読み解いていきたい。

「世界で最もAIを使いやすい国」

 産業全体へのインパクトや注目度の高さから、AIを巡る政策を最初に確認しておきたい。高市首相は所信表明演説で、次のように述べている。

 「『世界で最もAIを開発・活用しやすい国』を目指して、データ連携等を通じ、AIを始めとする新しいデジタル技術の研究開発及び産業化を加速させます」

 この「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」については、石破政権の時代から使われている考え方だ。2025年9月には新しい法律であるAI法が全面施行されたが、欧州などと比較して、規制よりも振興に軸足を置くことで、米国や欧州のAI関連企業の進出や投資を呼び込むことを狙った法律と受け止められている。

 AIは極めて新しい分野であるだけに、想定外の問題も次々に発生するリスクがある。法律よりも改正が容易なガイドラインなどを重視し、問題があれば、速やかに改正を重ねることで、問題に対処していく方針だ。ただし、この方針についても、前の政権を踏襲すると考えていいだろう。

 高市首相は、内閣の発足にあたり、各大臣に「指示書」という文書を渡している。18人の大臣に対して、首相が「この方針にしたがって仕事を進めてね」と指示する内容の文書だが、23日の日経新聞がその全文を記事にしている。

 この指示書を確認すると、AIを担当する小野田紀美経済安全保障相に対して、次のような指示が出ている。

 「AI法に基づき、『世界で最もAI研究開発・実装がしやすい国』を目指し、AI政策を総合的・計画的に実施する」

 メディアやSNSを見ていると、高市政権と前の石破政権は対立関係にあるように思えてくるが、同じ自民党であるだけに、引き継ぐべき政策は、淡々と引き継いでいる。率直に言って、AIについては今のところ、あまり目新しい内容は含まれていない。AI法が全面施行されたばかりのタイミングであることも影響しているだろう。

第3の大規模半導体工場の誘致も?

 高市首相は所信表明演説で次のように述べ、半導体関連では、国内外からの投資を呼び込みたい意向を示している。

 「国による一歩前に出た支援の結果、TSMCが進出した熊本県、ラピダスが立地した北海道では、関連する投資が誘発され、様々な経済効果が現れ始めています。こうした事例を、全国各地に次々と生み出していこうではありませんか」

 あらためて説明するまでもないが、首相が言及したのは、半導体の受託製造で世界最大手の台湾TSMCの熊本工場。そして、日本の大手企業各社の出資で2022年に設立され、経済産業省が全面的に支援し、先端半導体の量産を目指す半導体ラピダスの事例だ。

 大臣への指示書を見ると、赤澤亮正経済産業相に対して、次のような指示が出ている。

 「半導体・人工知能(AI)など輸出産業を中心としたサプライチェーンを国内で整備し、中小企業を含めた高付加価値化・賃上げを実現するため、税制などで民間投資を刺激しつつ、国の投資も強化する」

 この指示からは、半導体分野への進出を目指す国内の企業や、日本で製造拠点の設置を目指す企業に対しては、引き続き経産省が支援していく方針であると理解できる。海外からの輸入に依存する半導体の製造を、日本に置き換えていく方向は、経済安全保障を重視する高市氏の方針とも合致するはずだ。

「世界に伍するスタートアップエコシステム」

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