“3Dネイティブ世代”の高校生たちと考える、PLATEAUの新たなユースケース
広島高校とのコラボレーション授業を実施したアジア航測が考える“これから”
提供: アジア航測株式会社
都市デジタルツインの実現を目指し、国土交通省がさまざまなプレイヤーと連携して推進する「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。今年度もPLATEAUを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2025」において、幅広い作品を募集している。賞金総額は200万円となっている。
本特集ではPLATEAU AWARD 2025の協賛社とともに、PLATEAUに携わる人々が、その先にどんな未来を思い描いているのかを探っていく。
アジア航測×広島高校によるコラボレーション授業の様子(アジア航測プレスリリースより)
「いまの若い方々は、初めからデジタルデータがあり、それをすぐに活用できる環境に生まれた新しい世代です。3D都市モデルに対しても、わたしたちの世代とはまったく違うアプローチで活用方法が考えられるのではないか――そう期待しています」(アジア航測 中田隆司さん)
2025年5月、広島県立広島高等学校(以下、広島高校)で、「3D都市モデル」をテーマとした体験型の授業が行われた。この授業を担当したのは、地理空間情報技術のプロフェッショナルであるアジア航測 空間情報技術センター。集まった生徒たちは、専門家による指導の下で、オープンデータを活用した3D都市モデルづくり、点群データなどを基にした建物の3Dモデル作成などにチャレンジし、全国で整備が進む3D都市モデルへの関心と理解を深めた。
このコラボレーション授業のきっかけとなったのが、広島高校にある部活動のひとつ、情報部の「PLATEAU AWARD 2024」受賞(審査員特別賞)だ。
ゲームやVR/ARアプリなどでデジタルの3次元空間に親しんできた“3Dネイティブ世代”の高校生たちは、PLATEAUにどんな面白みを見いだしたのか。また、Project PLATEAUを支援してきたアジア航測では、新たな感性を持った若い世代にどんな期待を寄せているのか。角川アスキー総合研究所の遠藤諭が聞き手を務め、アジア航測と広島高校の両関係者に話をうかがった。
高校生の彼らはどのようにしてPLATEAUに出会ったのか
広島高校は広島県の中央部、東広島市にある県立の中高一貫校である。「高い知性 豊かな感性 強い意志」という校訓を掲げ、高い水準の授業を通じたグローバルリーダーの育成を教育目標とする。
そんな同校の部活動のひとつが、コンピューターを用いたプログラミングやゲーム、音楽・動画の制作など、パソコンを使った制作活動を行う「情報部」だ。昨年、この情報部に所属する河久洋徳さんと檜山誓七さんが、PLATEAU AWARDにエントリーし、審査員特別賞を受賞した。
まずは高校生の彼らが、どのようにしてPLATEAUを知ったのかから尋ねてみた。
「PLATEAU AWARD 2024」授賞式の様子(PLATEAU公式サイトより)
――(アスキー 遠藤)そもそも河久さんと檜山さんは、どんなふうにしてPLATEAUと出会ったのですか?
広島高校 河久さん:PLATEAUについて最初に知ったのは、たしかYouTube動画だったと思います。そこで「国土交通省が作っている3Dの都市モデルがあって、全部無料で使える」と聞いて、初めはゲームのような、3D空間が求められるものを作るのに使えそうだと思いました。
一方で、自分たちの部活動での研究テーマとして「災害時の情報共有・コミュニケーション」といったものを考えていました。そこでPLATEAUに出会ったので、これを使えば3Dハザードマップとコミュニケーションを一つにまとめたシステムが作れるんじゃないか。そう考えて、開発をスタートしました。
――なるほど。湯浅先生は情報部の顧問をされていますが、その当時、PLATEAUについてはご存じだったのでしょうか。
広島高校 湯浅さん:正直に言いますと、最初にPLATEAUを見つけてきたのは生徒たちのほうですね。彼らが「こういうものがあるんです」と持ってきたのを見て、なるほど面白そうだね、と。
わたし自身でも、それからいろいろ調べたり勉強したりはしたのですが、作品づくりそのものは、生徒たち自身が「こういうものが作りたいんだ!」とどんどん進めていったようなかたちです。
――PLATEAUを使って開発されたシステムは、具体的にはどんなものでしょうか。
河久さん:端的に言えば「PLATEAUの表現力を利用して、3Dモデル上にハザードマップを実装しよう」というものです。2次元地図のハザードマップから表現力を向上させつつ、紙と同じように情報が書き込める、そんなシステムです。
広島高校 檜山さん:実際のUIはこのように、ハザードマップが中央に大きく表示されます。左のメニューから、表示する地図を切り替えたり、ハザードマップの情報を切り替えたりできます。
あとは、情報が書き込める機能ですね。地図上をクリックすれば“ピン”を指すことができて、さまざまな情報が簡単に書き込めるようになっています。
――PLATEAU AWARDの審査員も、このシステムが「多様な災害リスクデータやユーザーが投稿したコメントを統合的に扱うことができる」点を評価していますね。
3Dモデルを自在に扱う若い世代の意見を聞いてみたかった
――アジア航測さんでは、高校生のお二人が受賞されたのをどう見ていたのでしょうか。
アジア航測 中田さん:そもそもPLATEAUのような3D都市モデルは、わたしのようにずっと2次元の地図を扱ってきた人間にとっては“難しい技術分野”という印象があるんですよ。そんな中で昨年、高校生のお二人が審査員特別賞を受賞したと聞いて、とても興味を持ちました。
わたしにとっては取っつきにくい3次元のデータを、高校生たちが自在に扱って課題解決に役立てようとしている。データを作っている側のアジア航測としては、そうしたデータを使う側の若い人たちの意見も聞いてみたい。そんな思いがありました。
――そこから、広島高校でのコラボレーション授業実施につながったわけですね。
中田さん:そうです。わたしから広島高校さんにアプローチして、湯浅先生とWeb会議でいろいろとお話もさせていただきました。最初の段階では、具体的に何をするかは決まっていなかったのですが、弊社がPLATEAUの3D都市モデルを整備しているので「その整備方法を知りたい」とリクエストをいただいて、それならコラボレーション授業をやってみようという話になりました。
湯浅さん:PLATEAU AWARDの受賞後、本校としては「これを単発で終わらせたくない」と考えていました。「この二人がすごかったから受賞できたんだよね」だけで終わらせるのはもったいない。二人が切り開いた道を、部のメンバーや後輩、学校全体で引き継げるようにしたい、そんなイメージです。
ただし二人の研究は結構レベルが高く、他の生徒が引き継ぐといってもなかなか大変だな、とも感じていました。そんなときにアジア航測さんからご連絡をいただいたので、まさに“渡りに船”だったわけです。
高度な授業も“興味の熱量”で乗り越える高校生たち
アジア航測による第1回のコラボレーション授業には、3D都市モデルや測量に興味を持つ30名以上の生徒と教員が参加した。航空測量の技法や理論についての講義、オープンデータ(都市の点群データ)を加工して建築物の3Dモデルを作成する演習などを、3~4時間ほどかけて行ったという。
この授業は全体で3回構成となっている。すでに開催された第1回、第2回でモデリングや計測などの手法をレクチャーしており、最終回はメタバースの構築に挑む予定だという。ここからは現在、情報部の部長を務める2年生の中島亮幹さんにも加わってもらった。
――実際に授業を行ってみて、生徒たちはどんな反応でしたか。
湯浅さん:いまの生徒たちにとってデジタルの3次元空間表現、3Dモデルなどは、ゲームやメタバース、VRなどを通じて本当に身近なものになっています。そうしたものがこうやって作られているのだと理解できたことで、「機会があればさらにチャレンジしてみたい」と関心を高めた生徒もいました。
――授業の内容としては高度だと思うんですが、皆さんついていけたんでしょうか。
湯浅さん:アジア航測さんにはしっかりと資料を準備いただき、少人数のグループ分けなどもしたうえで、とても丁寧にご指導いただきました。本校の生徒たちは気になったらすぐに質問するのですが、そうした質問にもじっくりと耳を傾けていただいたと思います。
授業が始まる前は「点群データ」という言葉すら知らなかった生徒たちですが、授業が終わるまでに、自分たちの手で3Dモデルが作れた。みんな「楽しかった!」と言っていましたし、わたし自身も楽しかったです。
中田さん:生徒の皆さんからは、本当にデジタルに対する強い好奇心、興味を感じました。第1回の授業は13時から17時までの予定だったのですが、皆さんの熱量が高く、終了時間が1時間以上オーバーしてしまいました。それでも最後まで参加していただけました。
――中島さんは第1回、第2回の授業に参加されたんですよね。実際、どう感じましたか。
広島高校 中島さん:いちばん楽しかったのは、点群データの測量実習です。iPad Proに無料のアプリを入れると点群データが取れるので、それを使って校内のいろいろな場所を測量しました。iPadを構えて前に進むと、周りの壁や廊下がどんどん点群データになっていく、その過程が見ていてすごく楽しくて。
一方で、きれいにデータを取る「難しさ」も実感しました。建物のように大きなものは、重なり合う部分を作りながら分割して点群データを取り、あとでつなぎ合わせるのですが、何か目印になるものがないとうまくつながらないんです。もっとも、そんな難しさも含めて、すごく新鮮な体験で楽しかったです。
――いいですね! 校内をくまなくデータ化できたら面白そうですね。
湯浅さん:実はわたしもそれを考えていまして。県立広島高校を略して「県広」と呼ぶんですが、「VR県広プロジェクト」として、学校のデジタルツインが作れたら面白いだろうなと。そうした取り組みに興味関心の高い情報部の生徒が主導して、情報部じゃない生徒たちも参加しながら、自分たちの手で作っていけたら面白いと思っています。それができれば、さまざまな用途で使えるでしょう。
中島さん:先日、3年生の卒業研究の中間発表会に参加したのですが(※注:広島高校には卒業研究制度がある)、そこで「県広にもっと植物を増やして、グリーン化しよう」という研究提案があったんです。県広自体の3Dモデルがあれば、そういう研究でもシミュレーションやビジュアル化に使えそうです。VR県広があれば、学生の研究面でも十分に生かせるだろうなと思いました。
“3Dネイティブ世代”の参加で、PLATEAUのユースケースはさらに広がる
コラボレーション授業で教える側に立ったアジア航測としても、この取り組みは大きな刺激になっている。中田さんは、今回のような“3Dネイティブ世代”との取り組みは、これからのPLATEAUにとっても大きな意味を持つのではないかと語る。
――アジア航測さんとしては、PLATEAUと今回の取り組みを、どう結びつけて考えているのでしょうか。
中田さん:Project PLATEAUでは「2027年度末までに500都市の3D都市モデルを整備する」という目標を掲げてきましたが、今後は整備したデータの更新、持続性が課題になっていきます。データが活用されなければ持続性につながりませんから、これからは「ユースケースづくり」が鍵を握るでしょう。
そうしたときに、初めからデジタルデータがあって、それをすぐに活用できる環境に生まれた若い世代の方々は、わたしたちの世代とはまったく違うアプローチで、新しいユースケースが考えられるのではないかと思います。
――そうですね。“新しい世代だからこそ発想できるユースケース”を、もっと見てみたいです。
中田さん:昨年のPLATEAU AWARDでの広島高校さんの発表がまさに良い例ですが、PLATEAUのデータを使えば、高校生でも地域課題を解決するユースケースを提案できる。あるいは、ユースケースを広げていくうえで足りないデータを指摘したり、自分たち自身で付け加えたりすることもできます。
“3Dネイティブ世代”の人材が増え、わたしたちの世代には想像もつかない新しいユースケースを提案してくれれば、PLATEAUのすそ野はさらに広がり、持続性にもつながっていくだろうと期待しています。