山手線サイズの製鉄所がポータブルに。金属リサイクルを変える日本発の新技術
切削屑も研磨粉も、その場で再資源化。分散型“金属産業”をつくるSUN METALON
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「山手線の内側」と同じ横幅を要するほど巨大な製鉄所。それを持ち運べるようにしたら──。そんな突飛とも思える構想を現実の技術として形にしているのが、SUN METALON Inc. (以下Sun Metalon)だ。CO₂を排出せず、発生現場で金属屑をアップサイクルする同社の技術は、製鉄産業の分散化を進める“ゲームチェンジャー”となる可能性を秘めている。開発の背景、量産化に向けた展望について、Sun Metalon創業者兼CEOの西岡和彦氏に伺った。
「製鉄所をポータブルにする」と聞いても、そのスケールがうまく想像できないかもしれない。製鉄所は「千代田区より広い」「JR山手線を横断するほどの長さがある」などと例えられるほど、巨大な装置産業だ。この製造インフラを小型化・分散化して、どこでも金属を製造できるようにするのが、Sun Metalonの目指す技術である。
同社が手がけるのは、研磨粉や切削屑など、これまで「リサイクル困難」とされてきた金属くずを、その場で、かつCO₂を排出せずに再資源化する装置の開発だ。従来、水や油を含んだスクラップを再利用するには、大型の加熱炉と多量のエネルギーが必要だった。爆発や火災のリスクがあるため、安全性の観点からも扱いづらく、コスト的にも見合わない。結果として、ほとんどがダウンサイクルされ、一部は埋め立て処理されている。
Sun Metalonの技術は、そうした「見捨てられてきた金属」に再び価値を与えるものだ。現在開発中の装置は、基本6ユニットで構成され、生産規模に合わせて調整可能だ。加熱処理された金属の溶解歩留まりは90%を超え、しかも場所を選ばず、低コストで再生できるという。
製鉄業界では「ありえない」発想だった
製鉄業界は、規模の経済が支配する世界だ。設備は巨大であればあるほど効率がいいという常識があり、「ポータブル化」という発想は業界内にはまったくなかったという。
「このサイズの装置で製鉄をやろうという発想自体、現実味がないと思われるでしょう。僕自身もSun Metalonの技術を思いつくまでは、そんな発想は持てなかった。でも、この技術を着想したとき、“これなら本当にポータブル化できる”という確信が芽生えました。そしてその確信は、今ではさらに強まっています」(西岡氏)
Sun Metalonの装置は、金属加工現場などで出るスクラップを“その場で”処理できることが特徴だ。連続プロセスにより、少量からでも処理効率を高く保つことができ、再資源化に必要な工程を全自動化している。製鉄業界ではこれまで、大規模化・集約化によって効率を追求する「マクロな最適化」が限界まで進められてきた。一方で、Sun Metalonは「ミクロな生産」からスタートし、個別現場ごとに最適な形を模索していくという、逆方向からのアプローチでイノベーションを目指している。
「金属業界のような大型装置を前提とする産業では、一般的に大量生産によってコストを下げ、収益性を確保するのが通例です。一方で、Sun Metalonの技術は、コンパクトな装置でも少量生産で十分な経済性を実現できるという、極めてユニークな特徴を持っています」と西岡氏。
さらに、「この特性を活かし、私たちはまず、分散型の市場や用途に向けて小規模に導入し、価値と収益を確実に生み出しながら、段階的に装置単位の処理能力を高めていくという、スタートアップ的なアプローチを取っています。これにより、市場への柔軟な適応と、初期からの価値実証が可能になります」と語る。
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