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「Zoom疲れ」の正体は通信品質じゃなかった。ソニー発カーブアウトの『窓』がつなぐ“心”の距離感

「会う」を再定義する。テレプレゼンススタートアップ・MUSVIの挑戦

連載
このスタートアップに聞きたい

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 オンライン会議で、「なんとなく話が噛み合わない」と感じたことはないだろうか。言いたいことは伝えた。相手もうなずいていた。出社するほどでもないし、移動もしなくていい。効率はいいのに、なぜか疲れる。そんな“Zoom疲れ”を感じている人も少なくないだろう。

 背景には、人の存在感や感情の微妙な揺れが、画面越しでは伝わりにくいという問題がある。そんなモヤモヤに対して、「リアルな臨場感」をテクノロジーで取り戻そうとしているのが、MUSVI(ムスビ)株式会社だ。

 同社が開発したのは、どこでもドア、ならぬ“どこでも窓”。大型ディスプレー越しに人が立つと、まるで“相手がすぐそこにいる”ような感覚が生まれる。一見すると、ただの高精細モニターに見えるが、その中身は“話す”ではなく“会う”ための徹底的なこだわりのかたまりだ。

 その臨場感を支えるのは、相手と“同じ空間にいる”と感じられるよう設計された、ディスプレー、カメラ、音響の配置や、視線のズレを極力減らすための筐体構造。VRのような没入型でも、プロジェクターのような演出型でもなく、“違和感なくそこにいる”と感じられる自然さを徹底的に追求している。その技術の背景と、MUSVIが目指す“会う”という体験について、MUSVI株式会社代表の阪井祐介氏に聞いた。

 「コロナ禍を通じて、私たちは“リアルで会うことの価値”がよりはっきりしてきたと思います。だからこそ『窓』では、まるで本当にその場で相手と会っているような感覚を大事にしています」と阪井氏。

 阪井氏が違和感を覚えたのは、音声も映像もつながっているのに、“存在が伝わらない”ということ。“話せている”のに、なぜ“会えていない”と感じるのか。そこに、ビデオ会議が抱える本質的な課題がある。

 「普通に話していても、視線のズレとか、うなずくタイミングが合ってないとか。例えば、誰かがふっと笑ったときに、同時に笑い合えることってすごく大事なことなんですよ。でもそれがずれると『あれ?』ってなって、笑えなかったりするんです」(阪井氏)

 オンラインでの会話が「なんとなく気まずい」「なんか疲れる」と感じる理由は、このような“感情のズレ”や“同期の失敗”にある、と阪井氏は分析する。MUSVIが目指すのは、効率的な会話ではなく、“ちゃんと会えている”状態を届けることだ。

“没入”ではなく、“違和感のなさ”を重視

 VRやプロジェクター、さらにはメタバースなど、仮想空間での臨場感を追求する技術が急速に進化している。MUSVIが重視するのは、そうした“没入感”ではなく、「違和感のなさ」だ。

 「VRは、臨場感を出すための手段としては面白い技術ですが、VRゴーグルをかけると、視覚だけが過剰に刺激されて、他の感覚とのバランスが崩れます。僕は10秒で酔っちゃう(笑)。お年寄りや子どもが継続的に使うのは難しいと思います」

 近年では、目を覆わずに複数人で視聴できるプロジェクター型のVRソリューションも登場しているが、明るい場所では映像が見えづらく、光が直接目に入って疲れやすい。そこで、MUSVIが選択したのは、ヘッドセットもプロジェクターも使わない「大型ディスプレー」という一見シンプルな手法だ。

 「Zoomの映像を16Kにしても、リアルと同じ体験にはなりません。それは、人間の自然なコミュニケーションが持つ“違和感のなさ”を再現するのが、いかに難しいかということなんです」と阪井氏。

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