結論は「疑問符だらけの愚策」
高市内閣組閣時に行われる各大臣の所信表明の時から、鈴木新農水大臣の「米高騰に対処するためにおこめ券を配布する」という発言は思慮遠望のない、ある種のパフォーマンスに近い “やっつけ仕事” 的なものだと感じていた。
始めて聞いた時は軽い違和感程度のものだったが、条件や発行団体、自治体の関与などを知るにつれて、検討に値しない愚策だと確信するようになっている。
とても一つひとつの発言に極めて大きな責任が生じる大臣レベルの発言ではない。それも農林水産省という官僚組織の責任まで問うようなレベルである。
商品券でありながら、発行元負担が一般的な必要経費を使用者(消費者)が負担することになるとは驚きでしかない。しかも発行元の利益まで使用者が負担するというではないか。いったい、どこの世界に「額面通り使えない商品券」があるのだろう。農水省と発行元との間でどんなネゴシエーションがあったのかまで疑ってしまう。
配布を担うことになる各自治体が施策に反対表明したり、様子見に徹している現状のほうがよほど健全で理解できる。
そもそも米高騰に対処するための施策は「米を買いたいけれど高くなりすぎて自分のサイフには痛手だ。なんとかしてほしい」というところから始まっている。消費者目線で言えば食材としては低価格で安定していたが、一方で、その価格設定は生産者の生産意欲を削ぐような仕入れ価格でしかなかった。
この “値ごろ感” を無視した価格設定を補正するために国、つまり農水省は補助金で補ってきた。この政策を実施するために、集荷業者は国の出先機関的な役割を果たしてきた。
戦後の米不足対策や生産者支援体制を維持するためにはこれでよかった。しかし時代は変わったのだ。新農水大臣が所信表明で語った「価格はマーケットが決定する」という論理で言うなら、卸業者が「高く売れるものは高く売る」と考えて当然。誰も庶民の味方などと気取ったことを考える者はいない。
そもそも、筆頭集荷業者が田植えの前から予想価格を発表し、一時金まで支払っているのだから生産者価格(ひいては消費者価格)が高止まりになるのは目に見えている。
農水省出身の新大臣は、農水省がこれまでどこを向いて政策を策定してきたのかを明確に示してくれた。消費者より生産者という視線である。
同時に新大臣は、図らずも自身の視野の狭さを示した。どんなバックグラウンドであろうとも、国家経営を担う大臣には常に俯瞰した目線が求められるはずだが、氏には狭い視野での発想しかなかったのだろう。うがった見方だが、ひょっとすると官僚と集荷業者が忖度して大臣の就任祝としてこんな愚策を提案したのかもしれない。
今、国民が求めているのはおこめ券などという愚策ではない。根幹に根付いてしまった「収入不足」の解消を図る中長期的な政策と、即効性の高い収入補填を組み合わせたもののはずだ。
==[season16]Dec.06 2025 小雪末候 ==
〈Twilight Time Approaches〉
Minami Ikebukuro, Toshima city
Photographed on Nov.09 2024