日本を代表する通信キャリアの一つ、ソフトバンク。だが、同社の事業は通信だけではない。日本の企業、そして日本社会の変革を側面から支援するエンタープライズ事業(法人事業)が成長を続けている。本連載では、『ソフトバンク もう一つの顔 成長をけん引する課題解決のプロ集団』(中村建助著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。多くの関係者への取材に基づき、ソフトバンクの次世代の成長の原動力となる法人事業の概要、目指す未来、企業文化に迫る。
今回は、企業変革支援の好例として全日本空輸(ANA)の働き方改革をソフトバンクがいかに支援してきたかの事例を紹介する。
(文中敬称略。社長、CEO/COOに関しては代表取締役を、所属部門が複数階層に及ぶ場合は一部を省略したケースがあります。本書は、役職、組織名などに関して、予定を含め2024年2月末時点で公開された情報を基にしています)
全日本空輸
ANAブランドの全客室乗務員がiPadで「働き方改革」
世界の航空会社の中で、初めてiPadを大量導入したことが話題になったのが全日本空輸(ANA)である。
2011〜2012年にかけて、ANAブランドの全ての客室乗務員(CA)約6000人に1台ずつiPadを配布した。このころ低価格を売りにするLCC(格安航空会社)の台頭も著しく、多くの航空会社が競争力を高めるための、サービス品質や生産性の向上を求められていた。
iPad導入は話題づくりが目的ではなく、当時はまだ言葉がなかったが、これらの課題に応えるDXそのものだ。導入のきっかけは「働き方改革」だった。オフィスで働くデスクワーカーと異なり、CAやパイロット、整備士といったフロントライン部門のIT化は簡単ではない。携帯性が高いiPadでこれらの業務をこなせる意味は大きい。
現在では、CAのほか、操縦士、整備士、空港地上係員まで含めて、ANAグループでは1万台を超える規模でiPadを業務に活用する。導入から10年以上たった現在も、iPadの活用範囲は拡大の一途だ。システム設計と業務効率化をソフトバンクが二人三脚で支援してきた。
ANAのデジタル変革室イノベーション推進部業務イノベーションチームのマネージャーを務める渡部由紀子は自分の業務とソフトバンクのかかわりをこう説明する。