《ニュース解説》陸自の新型装輪装甲車「AMV XP」を知る
- ニュース解説
2025-9-25 22:55
フィンランドのパトリア社が開発し、日本の日本製鋼所が製造した装輪装甲車「AMV XP」の量産初号機が、陸上自衛隊に納入されました。96式装輪装甲車の後継として最大810両が導入されるこの装輪装甲車は、高い防御力と柔軟な運用性を持つと言われています。軍事ジャーナリストの竹内 修が解説します。
フィンランドから日本へ 装輪装甲車「AMV XP」の初号車を陸自に納入
フィンランドの総合防衛企業パトリアは9月22日、同社が開発した装輪装甲車「AMV XP」の量産1号車が陸上自衛隊に納品されたと発表した。AMV XPは、陸上自衛隊が現在運用している96式装輪装甲車の後継として導入される。陸上自衛隊は最大810両の導入を予定しており、令和5年度と令和6年度に各26両、令和7年度には28両が予算化されている。
陸上自衛隊は黎明期にアメリカから供与された車両と、在外邦人の保護などを主な目的で「輸送防護車」の名称でオーストラリアから購入した4輪駆動装甲車「ブッシュマスター」以外に、外国で開発された車両の導入経験がない。このためAMV XPに関しても、ライセンス生産が行われることとなり、パトリアは2023年8月に日本製鋼所との間でライセンス生産契約を締結している。
日本製鋼所は火砲の開発・生産では日本を代表する企業だが、装甲車の生産経験はない。このため生産の初期段階では、パトリアからエンジニアの派遣や技術供与などの支援を受けながら、フィンランドなどで製造された部品の最終組み立てを行う、いわゆるノックダウン生産を行う。その後、段階的に日本国内で生産された部品などを使用して、ライセンス生産へと移行していく。
AMV XPの性能と実戦で証明された防御力
「Armored Modular Vehicle」と呼称されているため、新聞などでも「AMV」の名称で報じられているが、陸上自衛隊が導入するのは、能力向上型である「AMV XP」だ。AMVの原型はポーランド陸軍に「KTOロソマク」の名称で導入されている。同陸軍はアフガニスタンとチャドにKTOロソマクを派遣しており、アフガニスタンでは対戦車火器やIED(即席爆発装置)、地雷による攻撃を何度も受けたにもかかわらず、少ない損害で任務を継続した。イスラム原理主義武装勢力から「緑の悪魔」として恐れられたという逸話もあるほど、高い防御能力を備えた装甲車である。
AMV XPは、ポーランドなどが実戦で得た知見をAMVにフィードバックする形で開発された装輪装甲車で、防御力のさらなる強化が図られている。
AMVとAMV XPの外観は大差ないが、全長は8.1m(AMVは7.7m)、全幅は2.83m(同2.80m)、全高は2.4m(同2.30m)と、やや大型化している。兵員室のスペースは同クラスの車輌と比較してもかなり大きい10㎥を確保しており、兵員であれば最大11名を収容することができる。
最大戦闘重量はAMVの25tから32tへと増加している。これは96式装輪装甲車(14.5t)の倍以上に達するが、強力なスカニアディーゼル社製のDC13ディーゼル・エンジン(450kw)を採用したことで、96式装輪装甲車と同様に時速100km以上という高い路上速度を維持している。サスペンションはダブルウィッシュボーンの独立懸架式で、タイヤの空気圧調節システムとランフラット・タイヤも標準装備されており、高い不整地踏破能力を実現している。
フィンランド陸軍などが採用した基本型のAMVは浮航能力を備えているが、AMV XPは浮航能力をオプションとしている。
高水準な防御力と柔軟な兵装・運用
AMVは防御力の高さに定評のある車両だが、AMV XPはさらに防御力が強化されている。車体全周で距離200m、弾速911m/秒で発射された14.5mm弾の直撃、距離30mで炸裂した155mm榴弾の爆風や破片に耐えられるNATO(北大西洋条約機構)の標準規格、STANAG4569のレベル4を達成している。またオプションの強化型防弾板を使用すれば、車体前面の防御力を、口径30mmのAPFSDS弾の直撃に耐えるレベルにまで強化できる。
96式装輪装甲車は対地雷防御性能に重きを置いていなかったが、AMV XPは地雷に対する防御力も高い。耐地雷防爆性能は10kgの対戦車地雷の爆風に耐え、かつ対爆仕様のホイールと車輌中央下部を備えた、STANAG4569レベル4a/bを達成している。また車内には、被弾時に発生する二次被害から乗員を防護するためのスポールライナーが装着されているほか、NBC防護システムも標準装備されている。オプションとしてIED防御システムや、RPGシリーズなどの携帯対戦車火器を対象とする増加装甲の装着も可能とされている。
パトリアと陸上自衛隊が発表した写真のAMV XPには銃架のみが搭載されているが、おそらく96式装輪装甲車と同様、12.7㎜機関銃と96式40㎜てき弾銃が装備されるものと思われる。陸上自衛隊がAMV XPをどのように運用するのかは不明だが、車内等から銃塔を操作できるリモート・ウエポン・ステーションの搭載も想定されているようだ。兵装搭載能力の柔軟性もAMVの魅力の一つで、2017年の兵器見本市「IDEX2017」で発表された「AMV28A」にコングスベルク社製の無人砲塔システム「MCT-30」が搭載された例があるように、導入国の要望に応じて各種兵装の統合が可能であるとしている。
多様な派生型と後継車両としての可能性
AMVは「Armored Modular Vehicle」(装甲モジュラー車輌)の略で、人員輸送キット、指揮通信キット、装甲救急車キットなどのロールキットが用意されており、高い運用柔軟性を備えている。AMV XPには、基本モデルのほか、大口径火器システムの搭載に最適化したモデルと、兵員室の天井を高くしたハイルーフモデルの3種類のモデルが存在する。パトリア社はハイルーフモデルの用途として、指揮統制通信車や大型装甲救急車、工作車輌などを挙げている。
現在、陸上自衛隊は即応機動連隊の連隊本部などに指揮通信車両として82式指揮通信車を装備している。82式は運用開始から40年以上が経過しており、車体の防御力や電子機器の増加に対応するための電力などの面で、長期にわたって運用し続けるのは困難な状況にあると言わざるを得ない。
防衛省・陸上自衛隊は最大810両のAMV XPの導入を計画しているが、この数字には「派生型を含む」との断り書きが付いている。AMV XPのハイルーフモデルは、82式指揮通信車の後継車輌として、また装甲救急車型としても最適な車両なのではないかと筆者は思う。AMV XPの装甲救急車型は、より多くの医療器具を搭載でき、高い天井高により車内での負傷者の措置もしやすくなっている。有事の際、迅速な応急措置と医療施設への後送は不可欠であり、AMV XPのハイルーフモデルは、その条件を十分に満たしているものと思われる。
(以上)
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