2024年秋に放送され、大きな話題を呼んだTBS系金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』。主人公は、市役所で働く真面目で優しい青年・小森洸人(柳楽優弥)。弟の美路人(坂東龍汰)は自閉スペクトラム症の特性を持ち、二人は静かに寄り添いながら暮らしている。朝は同じ時間に家を出て、仕事のあとも一緒に帰宅。常に弟の歩幅に合わせながら、静かな日常を大切に守ってきた。だが、ある日“ライオン”と名乗る少年(佐藤大空)が現れたことで、兄弟はある事件に巻き込まれていく。
ドラマの中で、美路人(通称・みっくん)が描く数々の絵を手がけたのは、福岡に住む画家・太田宏介さん。みっくんと同じく、自閉スペクトラム症の特性がある。この連載では、その宏介さんの兄・太田信介さんの視点から、弟との関係や家族の物語を綴っていく。障がいのある弟と生きるということ。兄として、何を感じ、何に悩み、どんな道を歩んできたのか。第1回では、兄弟の人生の転機となったドラマ『ライオンの隠れ家』からオファーを受けたときの話についてお伝えした。第2回では、信介さんが弟の存在を隠していたときのことを振り返る。
第1回はこちら
【前編】自閉スペクトラム症の弟の絵がドラマ『ライオンの隠れ家』に。「TBSと申します」と電話を受けた日の話
【後編】『ライオンの隠れ家』撮影前、坂東龍汰が自閉スペクトラム症の弟のもとに?兄が見た役作りの裏側
弟の存在を隠していた
2024年秋にTBS系金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』に取り上げていただき、全国の百貨店で個展、そしてライブペイントイベントで忙しくしているアーティストの太田宏介ではありますが、幼少期は自閉傾向が強く、キーキー喚き、物を叩き、1分たりとも落ち着いて座ることもできませんでした。そんな弟のことを、私自身、10歳くらいの頃には「正直ちょっと嫌だな」と感じてしまう時期がありました。
弟は7歳下。私にとっては可愛い存在でしたが、はたから見れば、自閉傾向のある彼の様子は決して可愛い訳でもなく、戸惑いや驚きを感じる方も多かったかもしれません。宏介に対する周りの目が私も気になり始め、やがて距離をあけることになります。
『ライオンの隠れ家』の第2話で、兄・洸人(柳楽優弥)が、学生時代に友達と楽しそうにバスに乗っているときに、自閉傾向の強い弟・みっくん(坂東龍汰)が同じバスに乗ってきたシーンがありました。そのとき、洸人はみっくんを避けるようにしてバスを降りてその場を離れます。
私はドラマのなかで、このシーンが一番、障がいのあるきょうだいを持つ人の気持ちがリアルに反映されていると思いました。私も同じ行動をとったと思うからです。友達と話しているときに、弟の話をしたくないのです。弟の存在をカミングアウトすることで、自分が惨めな気持ちになるようで、嫌なんです。
また、友人にどのように障がいのことを伝えていいかわからないですし、友人がそれをどう受け止めるのか、どう解釈するのかとても不安です。もし友人から、からかわれたり、心無い言葉を言われたりすると、立ち直れないぐらい落ち込むと思います。なので、柳楽さんがバスを降りてその場を立ち去ったあのシーンは、私にとって気持ちが痛いほどわかる、心に残る場面でした。