本記事要約(本記事は以下の内容を含みます)
・だが循環が壊れているため、MMTの前提が作動しない。
・結果は「非循環→不景気のバブル→三すくみ」という三重苦。
『読む目安:約10~12分』
- 本記事要約(本記事は以下の内容を含みます)
- 現代日本は“無自覚MMT”:実態から始める現状確認
- MMTの前提崩壊①:発行→循環→税回収が止まる
- 前提崩壊②:CPI(消費者物価指数)ではなく“資産”だけが膨らむ
- 前提崩壊③:政府・企業・家計が互いに需要を潰す
- 三重苦の経済構造
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現代日本は“無自覚MMT”:実態から始める現状確認
さて、現状を整理するならば、まずやるべきことは現状確認だ。
そしてその上で、MMTの実装を望む人、望まない人、双方に喜ばしくない事実を発表しよう。
それは、『現代経済は既にMMTの理論を実践している』という事だ。
こう言うと、MMT賛成派は『いや、現にまだ国債の発行や税金の意味さえ、政治は理解してないじゃないか』と思うだろうし、MMT反対派は『いや、MMTerがいうような野放図な財政は抑制されている』と思うかも知れないが……それは立場における現状認識の違いでしかなくて、MMTの要素をまとめる限り、現状は既に『MMTを実装した状況』と言っても過言ではないのだ。
MMTの要素は、前回も説明した通り以下の5点だった。
1.政府は通貨の発行者
2.税金の目的は「通貨の価値」を保つこと
3.本当の制約は“財源”ではなく“インフレ”
4.雇用保証プログラム
5.国債は「借金」ではなく「通貨循環の調整装置」
さて順番に行こう。
1については、もう説明するまでもないだろう。金本位制を廃止した時点で、政府は金という価値の裏付けに縛られない、通貨の発行者だ。これに反対する人はいないと思う。
2については、確かに『通貨の価値を保つ』為に税金を取っている、という意識は今の政府にはないだろう。だが、ここで大事なのは当事者がどんな意識を持っているか、ではなく、税金が『ある』か『ない』かだけだ。つまり、意識はどうあれ税金がある現状は、MMTとしては2が機能している状態、という事が出来る。
3も意見は分かれそうだが……すでに税金が『財源』としての役割を果たしていないことは、国債の発行状態から明らかだ。ただし、インフレを監視することによる貨幣価値の管理をしているか、と言われると、制度として十分に位置づけられていない 。
とはいえ日本のインフレ率は、各種見通しによると、2025年から2029年までで概ね2%ほどで推移していく、と予想されているわけで、これは『インフレが加速しない程度』に新規通貨の発行を制限する、というMMTの趣旨には合致している。
4は実装している、とは言い難いが……そもそも現状は人手不足。政府で雇用保証を強くして人を集める意味は無い。
そして一番論争の的になる5だが……日本の国債が本当に『借金』ならば、日本政府はとっくに財政破綻しているだろう。それよりも、MMTが考える『通貨循環の調整装置』としての側面の方が強い、と考えた方が妥当だ。
――だってそこを根拠に新規通貨を発行するわけだから。
というわけで、MMT推進派にも反対派にも不本意かも知れないが……現状の分析だけで考えるなら、日本経済は実質MMTを実装しているのと近い動きをしている、という事になる。
無論、『実装するという意識を持っているかどうか』という差はあるし、無視も出来ない。
日本経済がMMT的な動きをしているのはあくまで結果論であり、理論として採用したMMTを活用しよう、という段階には無いからだ。
――だが、MMTに近い動きをしているのであれば、MMTが実装された時のモデルとして観察することは可能と言える。
そこで、今回は『江戸時代』を持ち出すのではなく、『現代日本』をモデルにして、MMTの理論の課題について触れていきたい。
MMTの前提崩壊①:発行→循環→税回収が止まる
以前からこのブログを読んでくれてる人は知っていると思うが、私はいくつかの独自理論を出している。
それらは、現状の日本経済の行き詰まりを示した物なのだが……日本がMMTの理論に近い動きをしているという事は、同時にMMTの課題を示した物でもある。
記事に出した順に行こう。
まずはこれ、『非循環資本モデル』だ。
これはMMTの根幹、『発行→循環→税で回収』が成立しない事を示す内容になる。
具体的には、政府が国債を発行して新規通貨を発行すると、それを追うように企業の内部留保も増加していく、という事を示した図だ。
つまり、『政府が発行した貨幣』が、実体経済を殆ど循環せず、大企業の内部留保に収まってしまう事を示している、というわけで『非循環資本モデル』と名付けることにした。
無論これを言うと、内部留保も投資や株式市場で経済を循環している、と主張する人もいるだろうが……
内部留保が投資や株式市場で回ったとしても、『実物経済』と『労働所得』には還流しない。
つまり、資金が投資や株式市場に流れるという事は、MMTが期待しているであろう、通貨の循環活動は起きていない事を意味している。
加えて、MMTでは『税金を払うために貨幣に需要が発生する』ことを想定している。
つまり、『発行した貨幣が最終的に政府に戻ってくる』という循環構造を考えているわけだ――が、現実には発行した国債の大半が、企業の内部留保に吸われている。
つまり最初に説明した、MMTが想定している『発行→循環→税で回収』の構造が崩れているわけだ。
これはMMT的には非常に不味い。
何故なら、『政府が貨幣を回収』しなければ、理論的には貨幣価値の管理が出来ないからだ――が、事実として日本にそんな急激なインフレは訪れていない。
これが意味するところは、つまり政府が通貨を回収して貨幣価値を管理しなくても、企業が収益を上げて内部留保にため込むことで、貨幣価値の管理が結果的に成立してしまう、という事だからだ。
うん、MMTにおける税金の根拠が揺らぐ――江戸時代の例でとっくに崩れ去ったような気がしなくもないが……
にしても、MMT的経済活動も結果論、貨幣価値管理も結果論、日本の経済は本当に結果論だらけだ。
これでそれなりに回っているのが信じられない――というか、回っていないから貧困者が増えているわけだが。
だが、暴論を覚悟で言うのなら、『企業が収益を上げることで、市場から貨幣を吸収しインフレを調整してくれるなら、思い切った財政政策も可能なのではないか?』という発想も無くはない。
では、この『貨幣循環』が壊れた現代で、MMT的な『大胆財政』を実行したらどうなるのか?
その答えが『不景気のバブル』になる。
本章のポイント:内部留保の“金融内循環”は実物・賃金に届かない=MMTの循環とは別物。
前提崩壊②:CPI(消費者物価指数)ではなく“資産”だけが膨らむ
MMTは――経済学の理論としては素晴らしかった。
いや、江戸時代を持ち出して貨幣価値の根拠を崩して、現代経済で経済が循環してない現実使って追撃までしておいて、何で今更そんなことを言い出す? と思うかも知れないし、私がMMTの信望者でないことは、今更説明する必要も無いと思うのだが――そんな私が、それでも何度も強調したくなるのが、MMTという理論だ。
確かに、この理論は完璧には程遠かったが……それでも現代経済を機能させるには、十分な完成度だったはずなのだが――“前提”に裏切られたのだ。
理論には“前提”がある。
そして経済における理論には、その全てが一つの“前提”を共有している。
それが、『経済は循環する』という前提だ。
『経済学』とは『物やサービス、お金、情報などの流れである経済活動の仕組み』を研究する学問なのだ。
なのに現実は、流れねばならないはずのお金は流れず、底の無い人の欲望を満たすように、ひたすら溜まり、停滞し続けている。
……現代経済は、『経済学』という学問の想定を超える状況にある、というのがここから分かるわけだ。
では、循環のない世界で財政を拡大したとき、『バブル』は誰の手で膨らみ、どんな結果を招くのか?
それを示したのが、『不景気のバブル』の記事になる。
リンクを読んで詳しい事を知ってほしい思いはあるが、この理論は端折って言うなら、財政拡大によって増えた資金がどこに流れ、どんな結果を生むか、を示した物になる。
どこに流れるか――は今更説明するまでもないだろう。
企業の内部留保を膨らませ――投資や株式市場に流れ込む。
これが『実物経済』と『労働所得』には還流しないことは、さっき言った通りだが……問題はそこに収まらない。
企業の内部留保は膨らみ続け、その内部留保は現金ではなく、投資や株に形を変えている。
つまりそれは、国債によって発行された貨幣によって、『株価が押し上げられ続けている』事を意味する。
株高とは景気が良くて結構な話だ――と思うかも知れないが、これは大問題なのだ。
何せ、『実物経済』と『労働所得』には還流していない。つまり経済環境は『不景気』なのに、株価だけ『バブル』状態になってしまうのだ。
これが私の言う『不景気のバブル』である。
詳細は記事本編を読んで欲しいが――ここでこう思う人もいるだろう。
ならば皆、株を買えばいいじゃないか、と。
だが、そうは問屋が卸さない。
そもそも『実物経済』と『労働所得』は低いままなのに、株価だけ高騰しているのだ。
株式購入のハードルは、時間が経つに連れてドンドン上がっていく事になる。
しかも、株価が上がれば株主は、それに見合った配当を要求するようになり――実物経済が冷え切った経済環境で活動している会社は、その配当を出すために、さらに厳しい労働環境を労働者に強いる可能性が出てくる。
つまり『不景気のバブル』とは、『貧富の差を固定する仕組み』なのだ。
これが『循環せず停滞した経済構造』における『積極財政』の行きつく先になる。
――が、会社内部留保を膨らませているという事は、収益を上げているという事だ。
ならば、企業は十分な収益を上げているなら、循環に回すことだってできるはずじゃないか?
と思う人もいるだろう。
だが、そうはならないのだ……それが、ここで紹介する最後の独自理論、『三すくみの経済構造』である。
本章のポイント:CPI目標運用は資産価格の肥大を目的関数に持たないため、制御ループが外れている。
前提崩壊③:政府・企業・家計が互いに需要を潰す
これも『三すくみの経済構造』の記事に詳細があるので、詳しくはそっちを見て欲しいのだが――とりあえずザックリ行こう。
この理論は、経済を三つの主体、『政府』『企業』『国民』に分けて、それぞれの立場によって合理的な経済活動とは何か、を整理したものだ。
そしてここで言う『合理的な経済活動』とは、現在の経済の現実、即ち、経済の循環が機能せず、『不景気のバブル』が進行しつつある環境における『合理的な経済活動』である。
すると、各主体の動きはざっくりこうなる。
1.政府:経済活動を止めないため、国債を発行し新規通貨を市場に流し続ける。
2.企業:冷え切った経済環境で活動を維持するため、資金をため込む。
3.国民:不景気と低所得の中で生活を維持するため、資金防衛に走る。
ようするに、三者が各々の立場で合理的に活動した結果――不景気のバブルはさらに進行し、経済は詰んでしまうわけだ。
ちなみに、ここで言う『企業』とは大企業の事を示しており、中小企業は国民と経済活動が近いはずなので、厳しい環境に晒され、最悪、倒産する会社も出てくるだろう。
逆に資金を潤沢に持った『投資家』は、大企業に紐づいているので、この環境における受益者になる可能性が高いが……うん、恐らく政府もこの構造には気づくので、どうせ国民の大多数は株を買うほどの余力もないのだし――という事で投資から得る利益への税金を増やしていく事が考えられる。
基本的に、全員揃って不幸になるのが、この構造の恐ろしいところだ。
うん、『誰かの赤字は誰かの黒字』とか言ってられる状況じゃないのである。
無論、大企業だって安心できない。
大企業を支えるのは中小企業なのだ。
中小企業の活動とノウハウがなければ、大企業もまた詰んでしまう。
身を削って材料提供をしている中小企業が潰れたら――そこから材料を卸してもらっている企業すべてが煽りを食うわけだ。
この状況で株価だけ上がっても、正直どうにもならないし――いよいよ足元が崩れて株価が現実を反映しだした時にはもう手遅れ……というわけだ。
本章のポイント:個別最適の集合が社会最適に一致しない典型事例としての合成の誤謬。
※合成の誤謬とは、個々人にとっては合理的で正しい行動が、全員が同じ行動をとった場合に、全体として不都合な結果を招いてしまうという経済学上の考え方 です。
三重苦の経済構造
これがMMTの行きつく果て……私の示す三重苦、というわけだ。
こういうと、『いや、何でお前はそう思っておきながらMMTを高く評価してんだよ』と思う人もいるかも知れないが……理由は簡単、そもそもこの構造にしなければ、ここまで辿り着くことさえ出来なかったからだ。
うん、金本位制を維持したような経済システムを強行したら、圧倒的貨幣不足でとっくに破綻していたはずである。
つまり、MMTの示す経済構造は、ここまでの経済の延命を可能にしたわけだ。
その実績があるから、その構造を理論にしているMMTに、私は非常に好意的なのだ――まぁ、説明すればどうしてもこの惨状になるわけだけど……
加えて言えば、これはMMTが悪いわけではない。
経済の循環が機能していないのが悪いのだ。
私に言わせれば、『最初から循環する構造を、経済の設計に取り入れておかなかった設計ミス』という話になる。
というわけで、だいぶ長くなってしまったし、本三部作の当初目的、MMTの限界は示すことが出来たと思うので、本記事はここで閉じたいと思う。
なお、ここまで話す以上、私は当然『ならどうすれば良いのか』という対策を用意しているわけだが……それはもう少しこのブログが知られてから記事にしようかと思っている。
うん、今出しても埋もれるだけだし、ここで読者諸兄に納得してもらえても、今回説明したことを認識していない人に説明しようとしたら、読者諸兄を『変なことを言い出した人』にしてしまいかねない。
なのでまぁ、続きはもうしばらく待ってもらいたい。
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なお、何度か言っている通り、私は『税金不要論』という本を世に出している。
もし『これらの問題に対応した経済システム』を、私が記事にする日が待ちきれない人は、kindleで800円なので、売り上げに貢献してくれるととても嬉しい。
「“循環を設計に埋め込む”方法を先に読みたい人へ(Kindle/800円)」 →『税金不要論リンク』
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• 非循環資本モデル — 企業内部留保が“最終吸収”になる回路の可視化
• 不景気のバブル — 実体経済が冷えたまま資産だけ膨らむ仕組み
• 三すくみの経済構造 — 政府・企業・家計の合理が全体最適を壊す
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