■■■■■ 十二月に入ったばかりのある朝、甲東園駅の近くを歩いていると、世界が少しだけ他人事みたいに感じられた。冬の入口には、時々そういう瞬間がある。空気が透明すぎるのだ。その透明さが、現実と非現実の境界を曖昧にする。 「キョン、あんた遅い!」 背後から鋭い声が飛んできた。振り返ると涼宮ハルヒが、まるで冬の朝など関係ないというような勢いでこちらへ駆け寄ってくる。彼女はいつだって、季節よりも速い速度で生きている。 「別に遅かないだろ。まだ始業十五分前だぞ」 「私の気分的に遅いの。今日は重大な日なのよ」 重大な日。ハルヒがその言葉を使うとき、それはたいてい俺にとって重大じゃない。だが、彼女の機嫌を損ねるよりは、話を聞いた方がマシだということは知っている。 「何があるんだ?」 「風よ。朝からずっと変な感じがしてるの。ほら、聴こえない?」 俺は耳を澄ませた。駅前のロータリーには、通学途中の学生やら