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ボクサーの動きを記号化した「拳譜」でトレーニングの概念を変える「SheetBoxing」

2025年04月16日 06時00分更新

文● 中田ボンベ@dcp 編集● ASCII STARTUP

 ボクシング技術の向上のひとつにコンビネーションの習得が挙げられる。ただし、通常は手本を見て覚えるのが一般的だ。しかし、複雑になると当然ながら見て覚えるのが難しくなり、ビギナーだとさらに困難になる。こうした問題を解決すべく、「株式会社ウェブサービスは残らない」がリリースしたのが、拳譜(けんぷ)を記録するアプリ「SheetBoxing」だ。

「拳譜」はボクシングのための書き言葉

「SheetBoxing」を生み出したのは、無料の受験動画サイト「manavee」や、他人に作業を監視されるアプリ「JAILER」など製作した、株式会社ウェブサービスは残らないの花房孟胤代表だ。「拳譜」とは、花房代表がボクシングの動きを楽譜を基に独自に拡張し、記号化したもの。いわゆる「ボクシングのための書き言葉」だ。

「拳譜」を生み出した理由について花房代表は、「自分自身の経験として、ジムや動画でコンビネーションを学んだものの、把握できるのはせいぜい同時に2、3のコンビネーションです。加えてシャドーとかスパーは即興的に思い出さないといけないので、相当習熟してないと頭に浮かびません。結局、自分が得意な動きばっかり強化されて変な癖がついてきます。そこで、『映像に依らないボクサーの当事者の視点での書き言葉』というものの必要性を感じました」と話す。

 コンビネーションを記号化した拳譜で表すことで、「学習効率のアップ」というメリットが得られる。

 花房代表によると、拳譜を用いての学習は「書き言葉にすることで座学で覚えることができる」ため、例えばジムに行けない日でも効果的な「戦術の側面だけを切り出したボクシングの練習」が可能になる。

 また、「分析手法の発達」も拳譜を用いることもポイントのひとつ。

「書き言葉が定着すると、分析手法が発達します。試合動画を分析するというけれど、具体的にビデオを巻き戻したりスローにしたり、手法として不明瞭に思われます。拳譜があれば、試合を拳譜に書き起こす、採譜するという作業が考えられます。そうすると、そこからAIで戦略を抽出したり、確率モデルで似たような動作をするボクサーを自動生成できます」とのことで、これまでにない形での研究が生まれる可能性も考えられるだろう。

新しいボクシングトレーニングにつながる研究

 ボクサーの動きを記号化した拳譜は、音符のように「音」で表現することが可能になっている。そのため、「SheetBoxing」では、単にコンビネーションをメモするだけでなく、拳譜の並びを音楽に変えて聞くことが可能になっている。花房代表は「『シャドーボクシングのサウンドガイド』として新たなシャドーボクシングの形態を可能にします」と話している。

 この「SheetBoxing」は、花房代表が「ボクサーは音を聴いてボクシング動作に変換できるか」という英語のリスニングのような研究課題に取り組む際に生まれたもので、自身で使用している限りでは「普通に機能しているというのが所感」だという。そのため、今後はプロのボクサーが使用して機能するかという段階への挑戦を検討している。

 また、「ボクサーは音と闘えるか」という「レ、ド、ファのような音を聴いて自分自身が動くかわりに、眼の前の架空の選手がその音のように動いているとイメージして闘えるのか」という研究にも着手している。

 例えば、シャドーボクシングの際は相手をイメージしてトレーニングを行うが、そのイメージはイマジネーションの密度や経験で差が生じる。しかし、音を聞くことでよりイメージがしやすくなれば、イマジネーション・経験に頼らずに効果的なイメージトレーニングが可能になるだろう。

 他にも、花房代表は先述の「拳譜を使用した試合の分析」にも取り込んでおり、将来的には「未来のボクサーの教育マテリアル」になることを目指している。

「拳譜」というこれまでにない表現方法用いて、ボクシングのコンビネーションを音で学ぶ「SheetBoxing」。従来とは異なるものの、トレーニングに一石を投じる練習アプローチだといえる。運動を記号に変換するアプローチは非常にユニークで、今後のどのような形で発展していくのかに注目だ。

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