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 生成AI(人工知能)の登場で「問い合わせ対応」業務が変わろうとしている。問い合わせ業務をビジネスにしてきたコールセンターも大きく影響を受けた。生成AIを業務に組み込み、生産性と品質の向上を狙う。

 前回、生成AIによって進化するチャットボット(自動応答システム)を解説した。しかし、「問い合わせ対応」を強化しているのはチャットボットだけではない。問い合わせ業務を請け負うコールセンター業界も生成AIを自社のサービスに組み込む道を選んだ。

 ともすれば生成AIはコールセンター業界の脅威にもなり得る。利用者が製品やサービスの質問を生成AIに聞くようになってしまってはコールセンターが不要になるかもしれないからだ。そこでコールセンターは自社のサービスに生成AIを取り入れて顧客への回答の質を高めようとしている。

生成AIで「エスカレーション」を6割削減

 コールセンター大手のトランスコスモスは、生成AIを活用してオペレーターの生産性を高めようとしている。電話を受けたオペレーターでは答えられない、難しい質問が来た場合に、オペレーターは生成AIを呼び出して質問する。生成AIは過去の社内ドキュメントなどを参照してオペレーターに回答する。オペレーターは生成AIからの回答を参考にして顧客へ回答するという流れだ。

トランスコスモスの生成AI活用
トランスコスモスの生成AI活用
(出所:トランスコスモスの資料を基に日経クロステック作成)
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 生成AIが参照するのはFAQ(よくある回答と質問)や製品の仕様書などだ。生成AIは、米Microsoft(マイクロソフト)のクラウド型AIサービス「Azure OpenAI Service」をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由で使う。

 オペレーターの生成AI活用を検証した結果、難しい問い合わせでも顧客を待たせず即座にオペレーターが回答できるようになることを確認した。従来は電話を受けたオペレーターが回答できない場合は、より専門知識を持つスタッフへ質問を引き継ぐ「エスカレーション」の作業が発生し、その間、顧客を待たせていた。生成AIを活用すればエスカレーションを6割削減できる見込みだという。専門知識を持つスタッフの業務負荷は減り、より重要なエスカレーションに集中して対応できるとみる。

 「顧客の待ち時間をいかに短くするかがコールセンターの永遠の課題だった」とトランスコスモスの森田寿常務執行役員は言う。同時にオペレーターの人手不足もあり、作業負荷の軽減も求められていた。生成AIの活用でサービス品質と効率性の向上を期待できる。

 トランスコスモスはオペレーター支援のための生成AI活用のほか、自社が手がけるチャットボットサービスに生成AIを組み込んだり、顧客の声の分析や要約に活用したりすることも検討している。