安倍元首相銃撃事件の現場にいた県議の後悔…「いつもやっているから大丈夫やという感覚だった その心の隙が現れた一瞬だった」
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「警備の隙をつかれ、痛ましい事件が起きてしまった」。2022年7月8日、安倍晋三・元首相が奈良市で参院選の応援演説中に銃撃され死亡した事件を、自民党奈良県連幹事長だった県議の荻田義雄さん(77)は悲しみと後悔の念を抱いて振り返る。安倍氏の来県が決まったのは事件前日で、急ごしらえの警備体制だった。「政策を訴える貴重な演説の場を守るには、党と県連が連携して備えなくてはならない」と訴える。(吉田清均)
荻田さんは当時、近鉄大和西大寺駅前の演説場所で安倍氏のすぐ後ろに立っていた。演説が始まった約2分後、背後で「ドーン」と鈍い破裂音がした。振り返ると、3メートルほど先の道路上に黒い筒を構えた男がひざまずいていた。「報道のカメラマンか」。最初はそう思った。
再び前を向くと、安倍氏がこちらを見ていた。その直後、2発目の破裂音が聞こえた。安倍氏ののど元が黒ずみ、そこから白煙が漏れ出たように見えた。安倍氏はその場に崩れるように倒れた。「銃撃だ」と直感した。「おい、みんな抱きかかえてくれ」と周囲に呼びかけ、ぐったりとした安倍氏を地面に横たわらせた。救急車が到着するまでの時間が、とても長く感じられた。
この事件を機に、街頭演説会での警護のあり方を問題視した。安倍氏の来県が県連に伝えられたのは、事件前日の7日午後。その夜に県連幹部らが警察署を訪れて演説会の警備計画を協議し、県警本部で決裁されたのが当日の朝という慌ただしさだった。事件から1か月後に県議会の応接室で会った鬼塚友章・県警本部長(当時)が泣きながらわびる姿が、今も頭から離れない。
「候補者事務所にとって準備の時間も取れないほどの急な(応援演説の)派遣が重なり、対応に追われた。せめて中1日の準備期間を取れるように計画するなど、派遣のあり方を再考願いたい」――。事件後、党本部が実施した参院選の組織活動に関するアンケート調査で荻田さんは訴えた。
「(要人警護を)いつもやっているから大丈夫や、という感覚だったと思う。その心の隙が現れた一瞬だった。不十分な警備の責任は党にもある」との思いがあった。現在は十分な警備計画を立てるため、党本部と県連、候補者の事務所が連携し、3日ほど前までを目安に応援演説者派遣の調整が行われている。
殺人罪などで起訴された山上徹也被告(45)の初公判が28日に開かれる。「あの瞬間の光景は、今も1~2か月に一度は夢に見る」という。山上被告に対し、「司法の判断に任せるしかないが、罪は罪として受け止め、償ってもらいたい」と願っている。