中世を舞台にしたハードコアなグランドストラテジーゲーム『Crusader Kings III』。2025年10月~12月発売予定の大型DLC「All Under Heaven」では、新たに日本や中国を含む東アジアおよび東南アジア地域が追加され、同時にPC版が日本語を公式サポートすることが判明しています。
今回「東京ゲームショウ2025」の開催を機に、『Crusader Kings III』のプロデューサーを務めるルシア・ゼディティ(Lucia Dzediti)氏と、同じくQAマネージャーを務めるリアド・デネシュ(Riad Deneche)氏に話を訊くことができました。
気になる日本語サポートについてもしっかり質問してきましたので、お楽しみに。
日本語サポートはコミュニティの協力あってこそ
――まず初めに、今回の公式日本語サポートについて、日本のファンを代表してお礼を申し上げます。
ルシア・ゼディティ氏(以下、敬称略)ありがとうございます。日本のファンの皆様とのつながりを持つことができて、私たちも大変興奮しています。
――これまで本作のPC版を日本語で遊ぶためには、有志が作成した日本語化Modを利用するしかありませんでした。その翻訳には私も関わっていましたが、本作が公式に日本語をサポートし、DLCのリリース当日から日本語で遊べるようになることは翻訳者全員の悲願でした。
ルシアそれをお聞きしてとても嬉しく思います。
――公式日本語サポートのニュースを受けて、日本のファンコミュニティでは早くも翻訳の品質について様々な声が上がっています。また、同じParadoxの『Hearts of Iron IV』や『Stellaris』のように、有志翻訳が採用されるのではないかとの憶測も飛び交っています。
そこで伺いたいのですが、本作における日本語のLQA(言語品質保証)はどのように行われているのでしょうか。また、何らかの形で有志翻訳が公式日本語訳に反映される可能性はありますか。
ルシア提携している日本のローカライズパートナーはLQAサービスも提供しています。彼らはゲームを日本語に翻訳した後、実際にプレイしてローカライズに関する問題を報告し、それを私たちが修正する流れになっています。ただし、日本語のサポートはまだ始まったばかりで、作業量が非常に多く、圧倒されているのが現状です。
リアド・デネシュ氏(以下、敬称略)少し補足させてください。『Crusader Kings』を始めとする弊社のゲームは、一般的なゲームの翻訳とは大きく異なります。イベントなどのテキストに使用しているシステムは非常にダイナミックで、プレイヤーがどの統治者でプレイしているかによって内容が変化するのです。
例えば、スウェーデンの男性統治者としてプレイする場合と、日本の女性統治者としてプレイする場合では、プレイヤーが何をしたかに応じてテキストの内容が動的に変化します。これが最大の課題でした。日本語は英語やドイツ語と記法が大きく異なるため、スクリプト・システムを新たに構築し直す必要がありました。
――有志翻訳の公式採用についてはいかがでしょうか。
ルシア間違いなく検討します。状況を見たいと考えています。これまではクローズド・ベータグループの皆さんに翻訳を手伝っていただきましたが、これは信じられないほど価値のあることでした。翻訳の品質が望んでいたほどではないことに気づかされたからです。私たちは日本語を理解できないので、自力では判断できませんでした。
――ベータテスターによるチェックを経ているのですね。
ルシアはい。彼らは日本語に関する問題を指摘し、より良い表現を提案する手助けをしてくれています。これまで有志翻訳の採用は検討していませんでしたが、その可能性があるかどうか、今後検討したいと考えています。
――正式な日本語版がリリースされた後、プレイヤーが翻訳についての要望を伝える窓口を用意する予定はありますか。
ルシアベータプログラムに参加申請していただく方法がありますが、これは人数がかなり限られています。それが難しい場合は、いつでも弊社のフォーラム(掲示板)で連絡を取ることができます。
また、日本で利用可能なソーシャルメディアなら何でも構いません。Facebook、X(旧Twitter)、Paradoxフォーラムなど、寄せられたコメントにはすべて目を通しています。皆さんのフィードバックを楽しみにしています。
私たちは常にベータプログラムを拡大する方法を探しています。特に、「All Under Heaven」の開発を始めたときは、より多くの日本のファンに参加してもらいたいと強く感じました。ローカライズだけでなく、文化的な感性を知る上でも助けになるからです。もし、興味のあるファンの方がいらっしゃれば、ベータプログラムへの応募方法の透明性を高めていきたいと考えています。
日本文化を理解することへの徹底したこだわり
――次はDLC「All Under Heaven」について伺います。『Crusader Kings III』のマップは当初、ヨーロッパ、アフリカ、中東、インドまでしかカバーしておらず、日本や中国は影も形もありませんでした。
マップの東端には発売当初から不自然な空白があり、ファンの間では長らく「東アジアを実装するための空白ではないか?」と憶測が飛び交っていました。実際のところ、東アジアの実装計画はいつ頃始まったのでしょうか。また、発売時から東アジアを実装しなかったのはなぜですか。
リアドとても良い質問ですね。実は、東アジアの実装は『Crusader Kings III』の開発を始めた当初から計画にあったことなのです。リリース前から社内では少しだけマップの作業を始めていました。そして、将来的に完全な体験を届けたいと考えていました。仰る通り、私たちはついに『Crusader Kings III』の完全なマップを手に入れたわけです。
東アジアを実装する上で最大のハードルであり、最も時間を必要としたのは、ありとあらゆるリサーチ作業です。非常に幸運なことに、中世のアジア、特に日本や中国で暮らしていた人々の記録は非常によく保存されています。一方、西洋では記録の多くが破壊されたり失われたりしてほとんど見つかりません。膨大な情報量を精査するのは非常に困難でしたが、その過程では多くの助けを得ることができました。
――本DLCでは新たに東アジアや東南アジアが登場し、専用システムを含む膨大なコンテンツが追加されます。日本だけに限っても、摂関政治から武士の台頭、源平合戦に至る歴史が再現され、歴史上の人物も数多く収録されると伺っています。
東アジアの歴史や制度には独特なものも多く、ヨーロッパを中心に構築された本作のシステムで再現するには難しい面もあったと思います。今回のDLCではいかにしてその課題を克服したのでしょうか。
ルシア世界中の誰もが出身地に応じて、映画や本など文化的背景を形作るものに囲まれて育ちます。スタジオではランチタイムに時々中国や韓国のドラマを観るようにしてきました。歴史的な作品ではありませんが、そうすることでアジアの人々が自由時間に何を観て、何を考えているのかを理解しようとしたのです。
リアド日本の作品もです。共同ディレクター……以前はデザイナーでしたが、彼が主催してランチ会を開き、そこで日本の作品を鑑賞しました。
歴史考証のために鑑賞したわけではありません。歴史的に何が起きたのかだけでなく、日本の方々が歴史をどう感じ、歴史にどう関わっているのか、その歴史が現代に至るまで文化の一部としてどう存在しているのかを理解することが、私たちのようなゲームを作る上では非常に重要なのです。
ルシアもちろん、多くの文化的な違いがあります。日本の文化を学んで驚いたことの一つは、ゲームに登場する平安時代が、実は日本の人々にとってそれほど人気のある時代ではない、という事実です。こうしたことは、ただ歴史書を読んでいるだけでは分かりません。実際に人々と話をして初めて分かることなのです。日本のベータテスターやファンとの話を通じて、そうしたことを学んでいきました。
――仰る通り、平安時代は日本であまりポピュラーではありませんが、最近では紫式部を主人公にした大河ドラマ「光る君へ」で注目を集めました。
ルシアそれはとても興味深いですね。もしかしたらオフィスで観られるかもしれません。
リアドええ、ぜひ観たいです。私たちはまだ学んでいる最中です。リリース後も、さらに多くのことを学ぶでしょう。ですから、もし何か共有していただけることがあれば、ぜひお願いしたいです。
――本DLCではヨーロッパの封建制に対応するメカニズムとして、日本に律令制と惣領制が導入されています。また、日本地図は律令国や五畿七道といった昔の行政区分で分割され、歴史上の人物も膨大な数が収録されるようです。これだけ正確な日本史の情報をどのように調査し、一貫性のあるシステムとしてまとめ上げたのですか。
リアド先ほど申し上げたように情報は圧倒的に膨大でしたが、同時にそれが大いに助けになりました。さらに、社内の非常に才能あるスタッフだけでなく、日本のコミュニティからも本当に多くのご支援をいただきました。彼らなしでは本DLCの開発は成し遂げられなかったでしょう。そのことには非常に感謝しています。
ルシアそして、歴史的な文脈を面白いゲームプレイに落とし込むのは本当に大変な挑戦でした。スタジオではテストプレイに多くの時間を費やしています。歴史的な部分は正しくできているにもかかわらず、実際にプレイするとあまり面白くないこともあります。ですから、何ヶ月もひたすらプレイして、プレイして、またプレイして、「征夷大将軍になるのは楽しいか?」、「日本を統一するのは楽しいか?」と確認を繰り返すのです。これはチーム全体の共同作業でした。
企業風土に根ざした手厚いModサポート
――実は、私は本作で日本の戦国時代を遊べるようにするMod「Shogunate」(編注:確認時点で英語版は『CK3』の1.1万個以上のMod中の人気順で48位、10万人以上のユーザーからサブスクライブされています)を制作しています。Modコミュニティに寛容な姿勢には常日頃より深く感謝していますが、なぜParadoxはModを積極的にサポートしているのですか。
リアド&ルシアあなたがそうだったのですね。本当にありがとうございます。
リアドMod制作をサポートする理由……それは、Modが弊社にとっての活力源だからです。私たちはゲームを創るとき、常に「Mod制作に適しているかどうか」を第一に考えています。なぜなら、弊社をここまで繁栄させてきたのはModだと考えているからです。
私たちのゲームには「Shogunate」のような素晴らしいModがたくさん揃っています。私自身も「Shogunate」はプレイしましたが、非常によくできていて、とても面白かったです。私たちにとって、Modのサポートを続けることは当然のことなのです。
ルシアええ。これは「しなければならないこと」ではなく、あまりにも分かりきったことなのです。
私たちはModコミュニティが注いでくれるすべての労力に非常に感謝しています。弊社の開発者も、自由時間や時には仕事中にもModをプレイしています。「All Under Heaven」の開発に取り組んでいた際には、「Shogunate」のようなModが非常に刺激になりました。
――今回のDLCを開発する上で「Shogunate」はどんな役に立ちましたか。
リアドやはり、日本人の視点を得られたことだと思います。あのModは日本人が中心になって作られていますよね。彼らが日本を舞台に『Crusader Kings』をどうアレンジするのかを見ることができたのは、非常に興味深かったです。私たちは西洋の視点から物事を見てしまいますから。その点で、非常に重要でした。
ルシア宮廷もですね。見ていて「私たちも日本の宮廷を作るべきだ」と思いました。
リアドええ、インスピレーションを受けました。とても素晴らしかったです。
――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。
『Crusader Kings III』はPC(Steam, Microsoft Store)、PS5、Xbox Seris X|S向けに配信中です。また、サブスクリプションサービス「PlayStation Plus」、「Game Pass」にも対応しています。