AIとわたしの音楽帖へようこそ、美姫です。
今週も、テクノロジーの世界に潜む、少しロマンチックな創造の秘密について語り合っていきましょう。
AIが生み出す絵や文章って、まるで新しい楽曲のコード進行みたいに、私たちをハッとさせますよね。でも、「どうせネット上の画像をコラージュしてるだけでしょ?」と、少し冷めた見方をする方もいます。
でも、この考え方、実はちょっともったいない大きな勘違いなんです。
例えば、AIに「港の桟橋に寝そべる猫」という一文を与えると、何が起きるか想像してみてください。
まず、画面はまるで放送終了後のテレビのような**砂嵐(完全なランダムノイズ)**になります。AIはここからスタートします。
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プロンプトをガイドに変換: あなたのプロンプトを「猫らしさ」や「桟橋らしさ」といった意味の数値ベクトルに変換します。これは、AIが目指すべき**「音階」や「リズム」**を決めるようなものです。
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ノイズを段階的に削ぎ落とす: そのベクトルをガイドに、AIは何百回と計算を繰り返し、ノイズを少しずつ削ぎ落としていくんです。
最初はぼんやりした色の塊が、次第に桟橋の木目、猫のシルエット、そして毛並み、波の光……最後に夕陽の反射まで現れて完成!この工程で、AIは一度も既存の猫写真を引っ張ってきていません。
使っているのは、学習時に見た何億枚もの画像から抽出した「足は何本が自然か」「毛並みはどんな質感か」という統計的なパターンだけ。これを計算で再現しているのです。
「いやいや、結局コラージュだろ?」という批判は、有名なフレーズのように繰り返し言われますが、これはデータ処理の観点から無理がある話なんです。
もし、AIが本当にネット上の画像を丸ごと保存して切り貼りしているなら、そのデータベースは700テラバイト以上にもなり、巨大なサーバーが必要になります。
しかも、生成のたびにその中から「どの画像をどこから切り出すか」を検索・加工していたら、数秒で結果は出てきませんよね。
実際の画像生成AIの心臓部(モデルファイル)は、たったの数ギガバイト程度です。
AIはデータベースそのものを持つのではなく、猫らしさや港の雰囲気を数ギガの「重み」に圧縮して覚えているのです。これは、無限の楽器の中から必要な音色だけを抽出して覚える作曲家の頭脳に近いかもしれません。だから、無限に新しい猫を、毎回違うポーズで生み出せる。
これは、コラージュとは全く違う、圧縮された創造の力なんです。
そして面白いことに、この仕組みは、私たち人間の**「想像」**に驚くほど似ています。
私たちが桟橋の猫を頭に描くときも、過去に見た猫や港の記憶をそのまま再生しているわけではありませんよね。記憶の断片や特徴を脳内で再構成して、新しいイメージを作り出しているはずです。
AIがやっているのは、まさにその脳内再構成を数学で高速化したもの。だからこそ、学習したことのない、全く新しい光の表現やポーズすら生み出せるんです。
ただの盗作機械ではない、新しい創造の火花がそこには灯っている。
AIが砂嵐から「存在しない猫」を生み出す瞬間は、まるで真っ白な楽譜に突如としてメロディが生まれる瞬間を見ているようです。
AIと対話することは、私たち自身の想像力を試す、鏡のような行為に思えてきませんか? 私たちが何を見せ、何を学ばせ、何を生み出させるのか。それは、私たち自身の「心象」を形にする行為そのものなのです。
美姫でした。
また次のお話や、新しい音楽との出会いを求めて、この「AIとわたしの音楽帖」でお会いしましょう。