メタバースに求めるのは、短期成長か長期投資か
前回の「続ける、繋がるメタバース」の続きです。
藤井:メタバースは、イニシャルコストがかかるのはもちろん、今度その運用するときにもコストがかかりますよね。それでいうと、ちょっとびっくりしたのが和歌山の事例ではタクシー会社が継続的に運用開発している話を聞きましたけど、これは先方からのオーダーだったんですか?
角田:いえ、こちらから提案しました。やっぱり最初は本当にもうベタベタな3Dモデルをネット上に公開するっていうだけの企画だったんですよ。でも、それだと多分失敗しますよと。ユーザーはそこに来る理由もないし、使う理由もないから。それで、先ほどのお話をして、最終的にはインハウス化した方がいいんじゃないかと提案しました。
その上で、新規事業として続けるためにはマネタイズが必要で、マネタイズできれば再投資ができて、5年10年後メタバースが今より普及したときに、もっともっとやれることが増えていく。そういったようなことを続けていければいいんじゃないか、と。
藤井:それって僕ら業界の人は、わかる。だけどその地域の人たちに、最初からその全ての考え方をパッケージで届けて納得してもらえるのは難しいと思うんですが。
角田:そうですね、なので僕は本当にゼロから説明しました。これまでのメタバース業界の経緯もそうですし、それこそインターネットがどういう風に進化してきたかまでお話しました。ただ、でもやっぱり「これ、作ることがゴールになってますけど、その後どうするんだっけ?」という問いかけで、クライアントのみなさんと一発で合意がとれましたね。それが大前提にあって、細かい話を詰めていく。
藤井:細かいところは当然その、クライアント側の要求に応じて変わるんだけれども、何だろう、提案の型ってあるんですか? 例えば和歌山がベストケースとして、こんなんどうですか?みたいに話を持ちかけるとか。
角田:僕らの場合、基本的にお悩み相談から入ることが多くて。例えば「こんな風にやりたいんですけど、どうすればいいですか?」とか、「昔こういう取り組みをやって失敗したんですけど、これからどうすればいいですか?」とかが多いので、そこにさっきのポイント要素を入れてお話するっていう流れが多いですかね。
ゼロから話す場合は2020年からの流れに始まり、今はこういうフェーズに入っていると説明して。そのあと僕がよくする話は、「1年〜3年以内に結果が欲しいのか。じゃないと事業継続できないのか」「あるいは5年くらい数字が出なくても、10年、20年後に結果が出ればいいのか」とヒアリングさせていただきますね。だいたい8割9割がたが前者で、そういう場合だとゲームメタバースを提案しますし、1割2割の後者には未来への投資として、10年後にはメタバースが当たり前になりますっていうことを前提としたプランニングをする、みたいな感じですかね。
藤井:でも、メタバースって作るのにやっぱ半年から1年かかるじゃないすか。そうすると年度の予算終わっちゃうじゃない。
角田:そうですね。ただ、まあメタバースはとりあえず試せるのも魅力かなと思っていて。少額、短期であっても、簡単なものを作れるのが他のテクノロジーとは違う利点かなと思いますね。
藤井:作り方としては、初年度はそこそこにしておいて、継続する場合はまとまった予算でメインを作ったり、新しい使い方を拡充していくような、段階を踏むのがいいんですかね。
角田:もちろん初年度にドーン!っていくところもあるのはあるんですけれども、だいたいはマイルストーンを引きながら、少しずつやりながら学んでいくっていうところをおすすめしていますね。
藤井:やっぱり使うのは、地元の人たちだから、その人たちが学ぶプロセスに並走しなきゃ駄目ってことですね。
角田:おっしゃる通りですね。なので、いま和歌山とかはその地元の人たちが自分たちでeスポーツ大会を開けるようになってるんですよ。
藤井:そうなの? すごいじゃん。
角田:最初プレステも触ったことないところから少しずつ教えていって、今もう自主的にやれるようになってるので。
藤井:すごいね、それ本当に教育ですね。
角田:まったくなかった産業をそこに産んだっていうふうな形になってるのかなっていうふうに思います。
藤井:何かそう聞くとしたら狩猟民族が農耕民族になったみたいですね。
角田:めちゃくちゃアカデミックないい感じで言っていただける(笑)。
藤井:新しい生活とお金がまわる瞬間って、歴史やSFで描かれていますけど。その最初のサイクルがまわり始めてるっていう感じなんですかね。
角田:おっしゃる通りですね。このサイクルがやっぱりまわることが、「使う、続ける」に繋がっていく。その中で、もしかしたらどこかで、すごい有用なユースケースが生まれたりすることってあると思うんですよ。それって我々業界の人間だけだと無理で。メタバースっていうものすごい自由度の高い空間で、いろんな人が試行錯誤して、仮にどっかでめちゃくちゃ有用なユースケースがでてきたら、もう僕はそれを丸パクリさせていただこうと思ってるんすけどね(笑)。
藤井:なるほど。やっぱいわゆるメタバースのさ、このハイプカーブでというと幻滅期を超えていま上がりつつあるじゃん。その上がりつつあるところが、そうなんだね。今は小さいサイクルが回り始めてるから徐々に上がるんだね。
角田:そうですねユースケースがどんどんいろんなところで上がり続ける。課題が明確になったのが幻滅期で。その課題を避けられるのって、かつて東京はじめ都市部でめちゃくちゃメタバースが盛り上がってチャレンジされたからなんですね。そのときに出た課題を踏まえていま地方が有用なチャレンジができているのが大きいんですよ。
藤井:地方創生という生まれた場所に関係なく楽しく生き生きできるようにするという視点から見ても面白いですよね。実際に地元が賑わうようになってほしい。オンラインのコンテンツだけじゃなくてそこに来てくれるってことが一番嬉しいことですよね。
角田:あとひとつは、さっきも言ったんですけど、地元の人がめちゃくちゃ盛り上がることが僕は大事かなと思ってて。メタバース空間を作ったことで、そこで地元の人が「めちゃくちゃ楽しいんだぞ」「ここあそこじゃんとか」「ここも再現してある」みたいな感じで、地元の親子連れが盛り上がったり、学生が盛り上がったり、旅行者が盛り上がったりというふうなことをやっていくっていうのが、本音としてありますね。そしたら関係ない人も「なんか面白そうだぞ」って入ってきて「繋がる」。それがすごい大事かな。
藤井:今日はもう時間ですね。いつも角田さんと話すとね、時間が足りないんだけれども。
角田:僕も藤井さんに聞きたいことがたくさんあるんですけど、すいませんって話で終わりますね。
藤井:よし、じゃあもう一回やりましょう。
角田:やりましょう!