声優・鈴木達央、Ta_2として再びステージへ SHINKIRO&Co.始動記念インタビュー

Ta_2こと声優・鈴木達央が新たな音楽プロジェクト、SHINKIRO&Co.(シンキロウ)を始動。10月13日に東京・品川インターシティホールでバンドスタイルでのワンマンライブを行い、同日に新作音源「インビジブル」をリリースする。

2005年に鈴木達央名義で歌手デビューしてから、今年で20年。2009年から2022年まで活動したOLDCODEXではフロントマンのTa_2として武道館や音楽フェスなど大舞台も経験した。声優・鈴木達央にとってTa_2とは、音楽とは、どんな存在なのか。数年ぶりに音楽活動を本格始動させることになった経緯、SHINKIRO&Co.という名前に込めた思い、そして10月13日のライブの意気込みまで、現在の心の内をたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ

「あなたは音楽を作る側の人でしょ」

──まずはTa_2さんが音楽活動再開を決断した経緯から聞かせてください。

ここに至るまでには、やっぱりけっこう時間がかかっていて。前のバンド(OLDCODEX)を活動終了した後、しばらくはそういう気持ちが起きないかもなと思っていたんです。でもその中で、今回「蝋燭」の作曲をしてくれた堀江晶太が「Ta_2さん、次何やるんすか?」といきなり言ってきて(笑)。「いやいや、何も考えてないよ」って。

──「やるかどうか」ではなく「何をやるの?」と。

そうそう。晶太だけじゃなく、MC Booちゃんだったりアリス九號.のヒロトだったり、会う人会う人「次、何やるの?」と聞いてくるんですよ。「なんでみんなそんなことばっかり言うんだろう?」と思っていて。

──皆さん、当然やるものと思っているわけですね。

みんなが「あなたは音楽を作る側の人でしょ」と突きつけてくるというか。でも僕の中ではその一歩を踏み出せていなかった。そんな中でも人前で歌う機会が何度かあって、自分の中で見えていなかったものに気づく瞬間があったんですよ。久しぶりにファンのみんなの顔を見て歌ったときに、「ああ、音楽ってこういうことだったよな」と実感したんです。聴いてくれるみんながいて初めて成立するものなのに、自分たちだけで活動終了を決断してしまっていたことに気づいた。そのときに「もしかしたら、もう一度音楽というものに携わってもいいのかもしれない」と、やっとちょっと思えるようになったんですね。

──なるほど。

ちょっとスピリチュアルな言い方になっちゃいますけど、運命的な何かが働いているようにも感じたんです。自分の意思以外のところが勝手にどんどん埋まっていくような感覚。自分の中での心境の変化というよりも、「この状況に関与しないのはちょっと変だな」という違和感が強くなっていったんですよね。だから始まりの形としては、本来よくないことなんですけど、流されて始まってます(笑)。

──そうは言っても、音楽の現場にいることに対する“腑に落ち感”みたいなものはあったんじゃないでしょうか。

ああ、そうですね。自分にとってはレコーディングや曲作りの場が一番落ち着く場所なんだな、というのはすごく感じました。以前まではずっと当たり前のものだったのが、一度離れたことで「ここが自分の生きる場所なんだ」ということに改めて気づくみたいな。

──“当たり前にあるもの”から“自ら選び取るもの”に変わった。

はい。あるべきところにあるべきものがちゃんと置かれる感じというか、パズルのピースが1個1個ハマっていく感覚。「これって、ここになきゃダメだったんだね」と腑に落ちる感じは確かにありました。

やっぱり自分として歌うことしかできない

──SHINKIRO&Co.というプロジェクト自体の始まりはどのように?

最初に「次、何やるんすか?」を言われたのが、2021年の10月とかだったんですよ。本当にOLDCODEXが活動終了してすぐのタイミングだった。そこから、自分の核が定まりきらない状態のまま毎月のように誰かに「何やるの?」と言われることがずっと続いていて。その中で、「リリースとか関係なく、1回みんなでアイデア持ち寄って曲作りをやってみない?」という話が出てきた。それでRyo(Ryo Yamagata)とかたいぞー(中村泰造)、晶太、ebaとかと一緒にこぢんまりと自主制作を始めたのが、SHINKIRO&Co.の前身なんです。実はその時点ですでに「SHINKIRO&Co.」というプロジェクト名もつけていて。

──あ、そうだったんですね。

そのときに、今回のEPにライブデモとして収録した「レグルス」と「ケセラセラー」ができたんです。だから、あれはもう3年前ぐらいの曲なんですよ、実は。それができたことで「もう満足だね」って感じになってたんですけど(笑)、いろいろとご縁があって「それを本当にリリースしませんか」という話につながっていった。本当に遠回りというか、ぐねぐねとした紆余曲折を経てここに至っているんですよね。

SHINKIRO&Co.「インビジブル」ジャケット

SHINKIRO&Co.「インビジブル」ジャケット

──ちなみに「SHINKIRO&Co.」という名称はどういうところから?

自分の現在地だったり自分が認識されている状況だったりも含めて、“蜃気楼”というのがしっくり来るなと思ったんです。実体がないというのがいいなと。それこそ新作に収録される「インビジブルダンサー」でも同じことを言ってるんですけど、“いるのかいないのかわからない”みたいな……今のエンタメって、全般的にそういうものになっていると思うんですよ。虚実入り乱れていて、本当に好きな人にとってのみ“実像”になる。今の自分はゆらゆらと見える蜃気楼のような存在になっているから、「見ようとしてくれる人たちだけのための実像になればいい」という思いを込めてこの名前にしました。

──実際、VTuberや歌い手文化なんかはまさにそういうものですし、そもそも声優という存在自体が本来はそうでしたよね。存在が認識されないはずのものというか。

そうそうそう。存在のしかた自体が受け手に委ねられている。で、調べたらそういうネーミングで何かをやっている人が意外と見当たらなかったんで、「じゃあこの名前にしよう」と。そこになぜ「&Co.」がついているかというと、この蜃気楼のような存在に実像として接してくれるファンの人たちやミュージシャン、仲間たちを含むカンパニーとしてこのプロジェクトを捉えているからなんです。単なる僕のソロプロジェクトではない、という意思表示になっています。

──SHINKIRO&Co.というプロジェクトで鳴らされるべき音のイメージは、当初から明確にありましたか?

ありました。もちろん楽曲によって「どう鳴らすべきか」は自由に考えるべきなんですけど、いろんなものとして聴けちゃうのではなく、そこに自分たちの色というものがなければ意味がない。埋もれてしまう音楽は作りたくないので、少しでもフックになる……“エグみ”というものをスパイスとして入れたいという思いを強く持っていますね。

──なるほど。エグみを取り除いて口当たりをよくするのではなく、逆に強調していこうと。

やっぱり自分として歌うことしかできないから、「じゃあ“自分”ってなんなんだろう?」と考えたときに、キレイなオブラートに包んで蝶よ花よと祭りあげられるような存在ではないよなと。“むき出し”とまでは言わないですけど、少なくとも今までの出し方とは異なる、棘の種類を変えることは必要なのかなと思ったんです。必要というだけじゃなく、自分自身の欲求としてもそれを出したい思いが強かった。

──今回のEPでいえば、ライブデモ音源を収録しているというのがまさにですよね。しかも、演奏の差し替えやオーバーダビングなども一切されていない、本当に“むき出し”の音源がそのまま収録されています。

熱量と空気感をそのままパッケージするっていう……それこそオーケストラのCDとかってそうじゃないですか。昔のジャズの名盤とかもそうですけど、お客さんのいる場で一発録りされることでしか起こり得ないマジックがかかっている。そういうものが自分としても好きなので。

──整えることで損なわれるものもあるから、それをなるべく損ないたくないと。

それができるのが自分の強みだ、という自負もあるんです。整然とドレスアップされた音で勝負すべき場というのももちろんあるんですけど、自分はそこで戦ってきていないんですよ。僕がやってきたのは、支えてくれるファンのみんなが目の前にいるところでのゼロ距離のコミュニケーションなんです。そういう姿勢でやっているということを最初から知ってもらえるのであれば、それが一番いいだろうなと思って。