2024年秋に放送され、大きな話題を呼んだTBS系金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』。主人公は、市役所で働く真面目で優しい青年・小森洸人(柳楽優弥)。弟の美路人(坂東龍汰)は自閉スペクトラム症の特性を持ち、二人は静かに寄り添いながら暮らしている。毎朝同じ時間に家を出て、仕事の後も一緒に帰宅。常に弟の歩幅に合わせ、日常の穏やかさを大切に守ってきた。しかし、ある日“ライオン”と名乗る少年(佐藤大空)が現れたことで、兄弟は思わぬ事件に巻き込まれていく。
ドラマの中で、美路人(通称・みっくん)が描く数々の絵を手がけたのは、福岡に住む画家・太田宏介さん。みっくんと同じく、自閉スペクトラム症の特性がある。この連載では、その宏介さんの兄・太田信介さんの視点から、弟との関係や家族について綴っている。過去の連載では、『ライオンの隠れ家』のオファーを受けた日のことや、弟の存在を隠していた当時の思いを明かし、大きな反響を呼んだ。第4回では、弟・宏介さんが絵の才能を開花させるうえで大きく影響した母の存在について。
第1回
【前編】自閉スペクトラム症の弟の絵がドラマ『ライオンの隠れ家』に。「TBSと申します」と電話を受けた日の話
【後編】『ライオンの隠れ家』撮影前、坂東龍汰が自閉スペクトラム症の弟のもとに?兄が見た役作りの裏側
弟の才能を支えた母
2024年春、ドラマ『ライオンの隠れ家』の絵のオファーをいただいた際、まずTBSさんから企画書を見せていただきました。その企画書を読んだとき、真っ先に抱いた感想は、「親はいないのだろうか?」ということでした。障がいのあるきょうだいの物語なので、自分たちと重ねて考えてしまいます。「もし自分に両親がいなくて、障がいのある弟と2人きりだったらどうなっていただろうか?」と想像すると、ゾッとしました。
ひとつ確実に言えるのは、母がいなかったら現在の「画家・太田宏介」は誕生していなかっただろうということです。そして私自身も、弟の絵に関わる仕事をしていなかったと思います。
弟の宏介が絵を描き始めたのは、もともと粘土が得意だったため、母が造形教室に通わせたことがきっかけです。当時、宏介は絵が好きだったわけではありません。しかし、乾いた粘土に絵の具をつけると、色が重なって変化する様子に興味を持つようになり、そこから少しずつ絵の世界へ引き込まれていきました。
10歳から本格的に絵を描くようになりましたが、当時の作品は今振り返ると「作品」と呼べないものも多かったと思います。それでも、母が宏介の作品のいい所を見つけて、褒めて認め続けました。そうした中で、宏介は自信をつけていったのです。
母は学生時代に芸術大学を目指しており、今でも押し花をするなど芸術に親しみがあります。宏介の色彩についても、母は直感で「国内でも海外でも評価される」とずっと言い続けていました。母としてだけでなく、芸術を好きな人としての感覚でもあったのだと思います。