米国や中国を中心に人型(ヒューマノイド)ロボットの開発競争が活発化している。人工知能(AI)を駆使した汎用ロボットの社会実装を目指す。開発ブームのインパクトと未来を探った。
世界の工場や倉庫で、人工知能(AI)駆動による人型(ヒューマノイド)ロボットの実証が始まった。米マイクロソフト、米オープンAI、米エヌビディアなど、いわゆるビッグテックから合計6億7500万ドル(約1000億円)もの資金を調達している人型ロボット開発ベンチャー、米フィギュアAIは2025年3月、年間最大1万2000台を製造できる量産工場「BotQ」を発表。同社は今後4年間で最大10万台の人型ロボットを生産・展開する計画だ。BotQでは同社の人型ロボット「フィギュア02」が人間と一緒に働く。生産ラインの主要部品を組み立てるだけでなく、異なる作業ステーション間で物資を運搬するマテリアルハンドラーの役目を担う。25年内に工場内に導入するとしている。
テスラがブームの火付け役
中国電気自動車(EV)メーカー、小鵬汽車は25年3月、自社開発の人型ロボットが既に同社の工場で実証を開始し、26年の量産を目指すと発表。中国の国営メディアによると、同社はこの事業に対して最大で138億ドル(約2兆円)規模の投資を行う計画だ。
これらは人型ロボットに関するニュースの一端でしかない。ブームの火付け役となった米テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏は、24年7~9月期の決算発表で、25年末までに同社が開発した人型ロボット「オプティマス」を数千台生産し、自社工場に順次配備する計画を明らかにした。「価格は将来、2万~3万ドルにまで下がり、いずれEVをしのぐ規模の事業になる」(マスク氏)
米国と中国を中心にした今回の人型ロボットブームは、ホンダが「アシモ」、ソニー(当時)が「キュリオ」などを開発し、日本企業が開発で世界をリードした00年代のブームとは様相が異なる。
2000年代のブーム
- 日本メーカーが中心。開発資金や人材は限定的
- モデルベースの制御による2足歩行の研究が主流
- 職人技のような技術が必要でハードウエアも高価だった
- 実用化に至らず、ほとんどの企業が撤退
最近のブーム
- 非ロボットメーカーが中心。米国ではAI系ビッグテック、中国は政府が本気モード。巨額の資金と大量の人材が流入
- 開発の主眼はAI。深層学習による制御で歩行技術は一定水準を確保、「スキル」の獲得が次の競争軸に
- ドローン発のモーターやオープンソース技術の普及で低価格化
- 実用化に向け工場や倉庫で実証開始。「退屈、危険、汚い」作業の代替目指す
早稲田大学理工学術院教授の尾形哲也氏は「以前と異なるのは、ロボットメーカーではなく、AI系のビッグテックがトレンドを主導している点」と語る。AI開発競争の源泉はデータだが、インターネットのサイバー空間ではデータを取り尽くした感があり、新たなフロンティアとして現実空間のデータを取りに来ている。
最近では「物理AI」などと呼ばれているが、「それを作るためのプローブがロボット」(早稲田大学理工学術院教授で日本ロボット学会前会長の菅野重樹氏)。ビッグテックの本格参戦で、かつてとは比較にならない規模の資金と人材が流入し、開発競争が激化している。
中国では中央政府が人型ロボットを未来に向けた重要な産業と位置付け、トップダウンで産業化を進める。既に地方政府の取り組みは「北京、上海などの直轄都市だけでなく四川省や山西省などにも広がっており、相当な力の入れようだ」と中国の匠新・創新加速事業部マネージャー/アナリストの齋藤慶太氏は言う。中国の人形机器人場景応用連盟によれば、24年6月末時点で中国の人型ロボット関連企業数は60社を超え、米国の2倍以上の規模になったという。
【年間購読で7,500円おトク】有料会員なら…
- 毎月約400本更新される新着記事が読み放題
- 日経ビジネス14年分のバックナンバーも読み放題
- 会員限定の動画コンテンツが見放題