「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」というグループ理念のもと、世代を超えて誰もが幸せに暮らせる「ハッピー・ローソンタウン」の実現を目指すローソン。代表取締役社長・竹増貞信氏と脳科学者の茂木健一郎氏が「コンビニの未来像」をテーマに語り合った。
司会●村井弦(「文藝春秋PLUS」編集長)
――今日、お二人にお話し頂くテーマは「ローソンの未来構想」です。ローソンは今年2025年に創業50周年を迎え、竹増社長は世代を超えて誰もが幸せに暮らせる「ハッピー・ローソンタウン」の実現を目指しておられますね。
竹増: ローソンは1975年、大阪・豊中市に第1号店をオープンしました。私は隣町の池田市出身なんです。ですので幼少の頃からローソンが近くにありました。当時のローソンが50年続いて、今、日本に1万5000店舗弱、世界に7000店舗を広げるまでに成長してきたというのは、先輩方、社員はもちろん、オーナーさん、クルーさん、皆さんのご尽力がすごく大きかったんだなという感謝の気持ちでいっぱいです。
1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部を卒業後、1993年に三菱商事に入社。同社畜産部、広報部、社長業務秘書などを務めた後、2014年5月にローソン代表取締役副社長に就任。2016年6月より現職。2024年5月から同社子会社の成城石井会長も務める。
茂木: 僕、ローソンのヘビーユーザーです。まず、日本人はみんな忘れていると思うんだけど、実はローソンはアメリカ発祥なんだよね。
竹増: そうなんです。もともとはアメリカの牛乳屋さんだったんですね。このロゴも牛乳瓶のマークなんです。今でも、例えばコーヒーのラテの牛乳なども、生乳を使ってすごくこだわって作っています。
茂木: 僕がよく行くローソンには、手作りの弁当があるんです。明らかに店の中で作っていますよね。
竹増: 2011年の東日本大震災で、すべてが止まってしまった時、「まだ俺たちにはお米が炊ける」ということで、お米をお店で炊いて、皆さんにご提供申し上げた。コロナ禍で外食店が全部休業になってしまった時にも、ローソンのお弁当が見直されました。日常生活だけでなく、有事の時にも活躍できるように、そんな思いを持って展開しています。
1962年、東京都生まれ。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了、理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。
ローソンの「ハッピー・ローソンタウン」構想とは?
――ローソンの「ハッピー・ローソンタウン」構想とは、具体的にはどのようなものでしょうか?
竹増: 今年は万博がありましたが、前回1970年の大阪万博の時に日本全国にいっせいにできたニュータウンが今、入居率も下がってしまって、色々と難しい問題を抱えています。
そんな古い団地にローソンを作って、たとえば無印良品さんに改装してもらったら、若い人が帰ってきて、そこを拠点にその団地が温かく繋がっていくんじゃないか。小さい町にも深くコミットしていくことで、本当に地域創生、地方創生に繋がる動きが出てくるんじゃないか。そんな思いから構想を進めています。
茂木: 僕は仕事柄全国に行きますが、どこに行ってもローソンが町の中心になっていると感じるんです。昔だったら子供たちが駄菓子を買いに行くようなお店だとか、お年寄りが「元気だよ」って確認に行くようなお店として、年齢関係なくローソンが機能している。
竹増: 本当に毎朝、毎昼、毎夕、1日3回来られる高齢の女性がいらっしゃるんです。お買い物じゃなくて「おはよう」「こんにちは」「お休み」って言いに来ている。街の見守り役であったり、温かい商店街の役割を凝縮したような、そんなお店を作っていきたいですね。
茂木: 考えてみれば、今、役所の証明書も取得できますし、コンビニは公共的な役割も果たしていますよね。
竹増: そうなんです。最近オープンした高輪ゲートウェイシティのお店には「よろず相談所」というのを作りました。これは、そこに来ればリモートであらゆる悩みごとが解決できる。たとえばトイレが詰まってしまった、あるいは親の介護をどうしよう、そんなことまで、リモートでスペシャリストとつながって、実際にしっかりと相談ができる。今後、地域のローソンにも置いていきたいと思っています。
リアルとテクノロジーの融合「Real×Tech LAWSON」
茂木: その高輪ゲートウェイのローソン、僕も最近行ったんですが、すごかった。ロボットが働いていたり。AIがこれからどんどんコンビニに入ってくるんだなって未来が見えましたね。
竹増: 我々はこれまでの50年、リアルのお店、リアルの人、リアルの商品、リアルのサービスで育ってきましたが、ここにテクノロジーを入れることで、まったく新しいコンビニ「Real×Tech LAWSON」を作り上げようと思っている1号店が高輪ゲートウェイシティ店なんです。
茂木: 人との温かさはやっぱり普段のローソンと変わらない。むしろテクノロジーの助けを借りて、人の温かさがもっとゆとりを持って共有できるのかなと感じました。
竹増: まさにそれが我々の目指しているところで、無人コンビニにしようという考えは全くないんです。やはり、リアルのお店にはリアルの人がいて初めて、お客様がハッピーな温かい気持ちになる。いつまでも人がいていただけるように、テクノロジー、デジタル、AIで、より人の仕事を軽減していく、そんなことを狙って頑張ってます。
――高輪ゲートウェイのローソンは、「からあげクン」が出来上がると、サイネージでパッと教えてくれますね。
竹増: そうですね。からあげクンもあのお店は「自動調理からあげクンロボ」を導入しています。オーダーを直接ロボが受けて、揚げて、それをサイネージで店内のお客様にご案内すると、出来立てのからあげクンが食べられる。出来立てのからあげクンって味が全く違うんですよ。美味しいんです。
茂木: でも僕、ちょっと味の染みた感じのも意外と好きなんだけど(笑)。
――あともう1つ、接客をしてくれるアバターもあるんですよね。
竹増: これは大阪大学の石黒浩先生からご紹介いただいたテクノロジーなんですが、すごいのは、このシステムを使うことで色んな方々が働けるようになるんです。ご病気でベッドにずっといないといけない、そういう方もアバターになって、サービス業に従事できる。そうするといろんな方に働くチャンスができて、かつ、お店の生産性も上げることができて、働く方々も多様性が実現できる。
アバターは高齢の方や子供たちに人気で、必ず「あなた、人なの? 人間なの?」って聞かれる。「私、本当の人間です」と答えて頂くとすごく嬉しそうな顔をされるんです。
でもそこで、「私、AIロボットでコンピューターです」って言っても、それでも温かさは伝わるんじゃないかとも思ってまして、その辺の可能性も今後追求していきたいと思っています。
茂木: まさに多様性と包摂という今の価値観が反映されていますね。
食品ロス削減プログラム「FOOD GOOD SMILE」
――ローソンが、お客様と一緒に取り組む食品ロス削減プログラムの「FOOD GOOD SMILE」。これはAIが値引きする商品を選んでくれるということなんですか?
竹増: 今の発注売り切りシステムAI.CO(エーアイ・ドット・コー)、僕らアイコちゃんって呼んでるんですけど(笑)、今までのような需要予測のしっぱなしではなく、いくら値引きするとたくさん売れて、お店の利益も上がりますよ、という推奨をしてくれる。結果にも責任を持って、しっかり売り切っていく。そういうシステムなんです。
茂木: 今、フードロスに対する意識ってすごく高まってますよね。しかも、その売上の一部が使われているのが…。
竹増: はい。そうやって推奨して値引き販売をしたものをお客様が手に取ってお買い求めいただくと、おにぎり1個につき1円、本当に食料、食品が必要なところに寄付をさせていただいています。
今、9人に1人の子供たちがお腹いっぱい食べられないですとか、お米の価格が上がって、お米が十分に買えなくなっている人たちがいる。我々は食品を扱っていてこれだけロスも世の中にはあるわけです。そのギャップを僕らは埋めていきたいんです。
“地域共生コンビニ”の革新性
竹増: 今まではコンビニって、例えばお出かけした時にちょっとお菓子や飲み物を買ったりする存在だったんですが、地域共生コンビニはその町に「ローソンしかない」んです。
だからローソンといえども、野菜も置きますし、お肉も置きますし、冷凍食品もお惣菜も、下着類も、お化粧品は無印良品さんのものを置いたりして、日常生活に必要なものを全て買っていただけるコンビニを作っています。
茂木: ローソンのように顧客の数が多くなくても、小回りが利く出店ができて、運営ができるようなところは、地域にとって本当にありがたいだろうと思うんですよね。
竹増: 今まで、コンビニは住民が2000人から2500人いれば出店できると言われていました。でも、生活必需品をすべてローソンで担うことで、もっと少人数でも出店できるんじゃないか。そうすれば、本当にお困りの地域に対して、僕らが課題の解を出していけるのではないかと思っています。
茂木: 今の話、僕がすごく感動したのは、業態を工夫することで、小さなコミュニティでも商売が成り立つかもしれないと。これはスケールアップとは逆の発想で、日本にとってはものすごく大きなイノベーションですよね。
竹増: 2年ほど前、稚内に、ナショナルチェーンでは初めてローソンが出店したんです。旭川からも数百キロ、ものが届かないんですよ。それで、みんな諦めていたわけですけれども、じゃあ同時に4店舗出したらどうだろう? 冷凍食品を充実させて、便数を減らしたらどうだろう? そういう工夫をすることで、実際にやってみたら、もう町の方々から本当に喜んでいただけて、東京よりも高い売上を出している。
茂木: それは嬉しかっただろうなあ。コンビニって流通であり、商品開発であり、ロジスティックであるということがよくわかるお話です。
――ほかにも、和歌山県に龍神村というところがありますが、地域共生コンビニがここにも出店しているそうですね?
竹増: ここのコンビニはすごく面白くてですね、地域の方から「町の集会所にしたい」と。イートインって普通は窓に向かっておひとり様が食べる場所の印象があると思うんですが、ここのイートインは小上がりになっていて、ちょっと居酒屋風なんです。そこで皆さんが集まって「今度の祭りどうする」とか「子供の受験どうする」とか、色々な情報交換がされる場にもなって、すごく温かい雰囲気が出てます。
茂木: “富士山の見えるローソン”も話題になりましたが、あれはどうですか。いろいろ議論になっていますが。
竹増: これはそもそもローソンの青いブルーのラインサインの上に富士山があると、「空の上に富士山が浮かんでいるように見える」というんですね。その富士山が見えるローソンをめがけて、東京からツアーが出ていたりするそうで、我々も驚きでした。
茂木: じゃあ、観光客がそういう見方を「発見」したということですね。
竹増: 海外の方が町に来られるのは、町にとってもいいことですが、まずは住んでいる方の安全安心をいかに担保して、ツーリストの方々と共存するか、行政や警察とも相談しながら模索しています。
茂木: これからの日本経済にとってインバウンドはとても大事な反面、一方でいろいろな課題もありますよね。
竹増: 東京オリンピックの時には、海外から来た記者の方が、ローソンに来られた時に「たまごサンド」を発見されて。「……これ、めっちゃくちゃ美味しい!」と発信された。
茂木: 我々からすると当たり前すぎるたまごサンドなんだけど(笑)。
竹増: もちろん海外にもたまごサンドはありますが、ローソンのたまごサンドは、パンのクオリティとたまごのクオリティ、マヨネーズが入っていてちょっと酸味のきいた味……記者さんのポストがきっかけで「日本に行ったら、あのたまごサンドを食べたい!」と、一気に売上が上がったんです。
コンビニを舞台に社会課題の解決に挑む
茂木: 日本のコンビニの良さが、世界中の人に知られるようになり、すでに海外出店は多くされていますが、コンビニの文化、営業のノウハウを、グローバルにどう展開していくかは面白い課題ですね。
竹増: 「自分の国にもローソンが来てほしい」とオファーをたくさん頂きます。今は中国、タイ、フィリピン、インドネシアに展開していますが、東南アジアも、あるいはアフリカも、南米も、まだまだ世界中に我々を待ってくれているお客様がいるんじゃないかと思っています。
ただ、日本のシステムを持っていくだけではなくて、いかにその地域に根差した「そのマチのローソン」にしていくか。そのあたりがすごく難しいところだと思います。
――竹増社長はコンビニを通じた社会課題解決の意義や重要性についてどのようにお考えでしょうか?
竹増: 今、あらゆる企業、あらゆる方々が社会の色々な課題に向き合って解決にトライしています。我々はコンビニを舞台にして社会課題に挑んでいるわけで、今後どうなるか、全く想像がつきません。
とにかく日々ちょっとした変化があれば、それを見逃さず、課題と捉えて、みんなでチャレンジしていこうじゃないか。その小さな小さな毎日の積み上げが、いつかとんでもない変化になって現れてくるんじゃないか。
茂木: 色々コンビニがある中で、ローソンの良さというのがこれからどう伸びていくのか、本当に楽しみですね。
竹増: どういう方向に行くのか決めない方が、いろんな才能が出てきて、それがいつ行っても楽しいと皆さんに思っていただける理由にもなると思いますので、みんながそれぞれ輝ける、そんなローソンになっていったらいいかな、なんて思ってます。
――ローソンは今後の日本社会にとってはどういう存在でありたいとお考えですか?
竹増: 振り向けばそこにローソンがある、身近で常にそっと寄り添っている、そんな存在になっていけたらと思います。
茂木: 日本のコンビニはもはや本当にインフラですよね。地震や災害の時にもコンビニが営業してくれていると本当に助かるし、心強い。そういうのが全部繋がっていますよね。人が生きるための支えとして。
竹増: 本当にありがたいです。「インフラ」と呼んでいただけることが、我々の働きがいであり、生きがいでもあります。
茂木: 50年という時間は、子供だった人はもうそろそろおじいちゃんおばあちゃんになっているということで、本当に人生の全てがそこにある。ローソンの構想が日本の良さとか、日本のこれからの未来に繋がっていくんだな、と今日は色々教えていただいたような気がします。
この対談は、2025年9月1日に行われました。