Twitter Japanは9月1日夜、8月末から取り組む自殺予防キャンペーン #いのち支える の関連イベントとして、Twitterスペースで記者や専門家が取り組みや現場で感じている課題について率直に語り合うトークイベント「#いのち支える 夏休みの終わりに語ろう」をTwitterスペースで開催しました。イベントの模様をリポートします。
<登壇者>
朝日新聞記者の田渕紫織さんは、朝日新聞デジタルの子育てページ「ハグスタ」の中で未就学児の「登園しぶり」について配信したこと、また「より保護者の方へ訴えかけるアプローチとして、絵本作家の五味太郎さんや作家の村田沙耶香さんらのインタビューを今年は配信しました」と紹介しました。
「当時高校3年生の子どもが『明日朝がこなければいいのに』とつぶやき、ドキッとした」と話すのは読売新聞記者の上田詔子さんです。「未成年の自殺は増加傾向にあり、現状をなんとかしたい」という思いから自殺に関連した取材を続けており、2019年からの連載企画「STOP自殺 #しんどい君へ」でも著名人のインタビューなどを手掛けています。
一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」や相談事業を行うNPO「ライフリンク」などを立ち上げ、運営してきた清水康之さんは、「若い頃から生きづらさや学校へ行くことの苦しさを感じていた」といい、報道ディレクターを経て、社会全体で対策を推し進めたいと活動をはじめました。現在は、法律の制定や実態調査に関わっています。
東京都で自殺対策に取り組む向山倫子さんは、「都内の自殺者が令和2年から増加に転じていてる」と危機感をにじませ、電話相談やSNS相談などの相談窓口を充実させているほか、窓口の情報を一覧化し、最適な相談先を検索できるホームページ「東京都こころといのちのほっとナビ(ここナビ)」を運営していることを語りました。最近では検索連動広告も活用し、悩む人たちの受け皿づくりに尽力しています。
朝日新聞の田渕さんは記者として「今の時期にだけ集中的に発信することが、当事者の方にどのように感じられるのか」と葛藤していると話します。社内でもキャンペーン報道について議論をしているといい、「こういう時期だけ情報が多く来ることに孤立感が感じる当事者もいるので控えている、という同僚もいました。どうすべきかの答えは出ません」と打ち明けます。
JSCPの清水さんは、「この時期に報道することの意義はある」と断言します。その上で、枕詞のように「この時期には自殺が増える」などと書くのではなく、「あくまでもしんどい時にどうするか、(自殺ではなく)生きる道を選び続けている人がいるんだというメッセージを伝えるべき」と話します。また、ニュースを伝えるにはタイミングがが重要になっているメディアの事情をおもんばかりつつ、「現場の記者さんには、日常的にこの問題に対して報道してほしい」と要望しました。
また読売新聞の上田さんは、コロナ禍でより状況が深刻になる中で、記事が果たす役割について悩んでいるそうです。記事を通じて子どもの頃にいじめ、不登校、親との不和を体験した著名人の温かい、多様なメッセージを発信してきました。新聞記事が身近な人のSOSにに気づく、アンテナを高くするきっかけになればと願いつつ、「メディアに何ができるのか、同じ発信方法でいいのだろうかと葛藤しています」と話します。
東京都の向山さんは、「同じ経験をした方のメッセージは、当事者にも支える方にも意義のあることです」と語ります。一方で、自殺の原因として報道ではいじめがクローズアップされていますが、文科省の調査によると学業不振や進路の悩み、親子関係の不和が原因の上位にあがっている点を指摘。「自殺が起きる背景も伝えていただくと、支える方にも届くと思います」とアドバイス。
向山さんは続けて、報道記事に相談窓口の電話番号が書かれているものの、悩みに応じた窓口に早期につながることが大切だとし、(一つの窓口ではなく)個別具体的な窓口を案内しているホームページを掲載することを提案しました。
田渕さんは「相談先を載せることで思考停止していないか、という議論は社内でもあります。相談先だけでなく、もう一歩先のメッセージが掲載できないか考えていきたいです」と話しました。上田さんは「死にたいという気持ちは、『生きたいのに辛い』『生きていたいのに辛い』というメッセージだと思います。ひとりでも多くの命を救う記事を、これからも書いていきたいです」と力を込めました。
相談の現場では、窓口に電話が殺到しつながらない、相談ができないという問題も起こっているといいます。
清水さんは、つながらなかった時のセリフケア情報や、気になる人がそばにいた時にどう声をかければいいか、といった支援者向けの情報も網羅したホームページを現在制作しているといい、「我々にできることもしっかりやっていきたい」と話します。
向山さんによると、東京都は電話相談に加えてSNSを活用した相談も実施しており、「平成22年頃から順次拡大していますが、つながりにくい状況は拡大しても続いています」と現状を語ります。そこで課題解決のため、検索連動広告でキーワードによって案内内容を変えたり、ホームページでAIチャットボットなどを活用したりと、分散化を図っているのだと言います。チャットボットに悩みを書いてもらうことで、少しでも心を軽くしてほしいと願っています。「ご自身が抱える悩みをダイレクトに扱ってくれる窓口に早期につながることが大事」と向山さんは繰り返します。
相談しやすいように様々な工夫がされていますが、上田さんは「環境や年代の問題から、ウェブページへのアクセスが難しい方たちもおられます。特に子どもへのアプローチはどのように考えておられますか」と尋ねました。
東京都は、小学5年生から高校3年生の全生徒に対し夏休み前にポケット相談メモを配布しています。「助けてと言える、SOSの出し方教育を進めています。周囲の信頼できる大人に相談しましょう、と呼びかけています」。子どもが自分の置かれている状況を特殊だと思わす、助けてと言って良い状況だと気づかないことを防ごうという試みですが、これらの問題は子どもだけでなく、実は中年男性にも起こりやすいのだと向山さんは警鐘を鳴らします。
清水さんはSOSの出し方教育のポイントとして、「SOSを出しても良いんだよと伝えることがまずは大切です。合わせて、SOSの出し先も教える必要があります。子どもにとっては、家庭か学校しかありません。地域の専門家である保健師をはじめとして、いざとなったら私のところに相談に来てね、私のところに来て良いんだよと伝えられる専門家が授業を行うことが重要です」。
出し先は、必ずしも人間である必要はないと清水さんは付け加えます。そのひとつが、学校現場に導入されているタブレット端末。画面に表示される質問に生徒が回答していくと、自殺リスクの判定ができ、学校に連絡されるのだといいます。「しんどい状況にある子どもほど、助けを求めない傾向にあります。人には話せないけれど、タブレットでは答えられるという子も少なくありません。身近なツールを使って、気持ちの表出機会をつくることも大切です」。
約1時間のイベントを通じて、参加者からは事例の紹介や色々な意見が交わされました。最後に登壇者一人ひとりが改めて思いを語りました。
東京都の向山さんは「私自身、中学3年生の時にクラスに馴染めなくて、毎日死のうかと思って過ごしていました。そして、いつでも死ねるから今日は頑張ろうかな、と思っていました。そういう体験を元に、都の取り組みを進めています」と熱い思いを語り、「助けを求めるのが一番大切ですし、周りの方は勇気を出して声をかけていただきたいです」と呼びかけました。
朝日新聞の田渕さんも「今が辛いという気持ちは、自分の20年前のことを思い返しても共感できます」と振り返り、「当時に返った気持ちで、色々な方に取材を通じてお話を聞きながら、一緒に考えるということをしていきたいと思います」と意気込みます。
「自殺対策にかかわって18年くらいになりますが、万能薬はありません。粘り強く実態を明らかにしつつ、処方箋を講じていく。こういった地道な活動をいろいろな現場でやっていかなければならない」と語るのは、JSCPの清水さんです。清水さんが携わるNPOの相談員の多くが「生きづらい社会をなんとか自分たちにとって生き心地の良い場所にしたいと思っている」といいます。かつてあるいは今も生きづらさを感じ、死にたいと思っていた相談員もいるといい、「生きづらい人にこそ、社会を変えたいというモチベーションが生まれる。自分のために、自分の周囲の人のために活動している人が大勢いて、活動を続けることで社会を動かすことができると確信しています」と力を込めました。。
読売新聞の上田さんは、「自殺を抑止するのは非常に難しいですが、記者の私ができることは伝え続けることだと思います。記事を読んだ方々が自分の身近に気を配り、SOSを発見するきっかけになるといいと思っています。死にたい人というのは、生きたいのにつらい人。生きたいという気持ちを後押しするメッセージを送って助けることができたらと思います」と決意を語りました。
最後に上田さんは「ぜひリスナーの皆様に聞いていただきたい」として、ミュージシャンのRADWIMPSの野田洋次郎さんの言葉を紹介しました。
君を今支配している悲しみ、苦しみ。それは一生は続かない。これだけは約束する。今そいつらに覆われていて、何も変わることはないと思っているかもしれない現状は、実はそんなことはない。
「時間」を経ると物事は変化する。新しい景色が見える。新しい角度が見えてくる。「今」とは違う未来がくる。その時まで待てるなら待ってほしい、全力で逃げてもいい、叫んでもいい、泣いてもいい。君が操縦席に座る「君」という人を守ってあげてほしい。
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